* fragile/17 *
「・・・旦那様、もう一口だけでも」
冷たいコンソメを匙に載せて差し出しながら、ショーンが懇願する。そんなふうに言われては拒めず、熱っぽい息を吐きながらディヴィッドは少しばかり口を開く。
銀のスプーンが舌に触れて、ジェリーの塊がつるりと口腔に滑りこんだ。舌先で軽くつぶして飲み込むと、荒れた喉にもほとんど抵抗なく食道を流れ落ちていった。
「もう一口。・・・旦那様、これでおしまいですから」
そう言われて、塩辛い涙のにじむ目で彼の手元を見やると、小振りなスープボウルは確かに空になっている。その最後の一かけが、ショーンの差し出す匙の上で揺れていた。
ショーンは有能な看護人だった。主治医の処方した水薬がディヴィッドの弱った胃には強すぎることがわかっていて、何か食べさせてからでなくては決して飲ませなかった。
リキュールグラスにつがれた水薬が唇に当てられると、ディヴィッドは思わず顔をしかめた。ブラックカランツのシロップにも似たこの薬は、胸をむかつかせるようなにおいがした。
「失礼します・・・」
さすがに遠慮がちに言いつつ、ショーンはディヴィッドの鼻をつまんだ。くいっ、と頭を後ろにのけぞらされて、自然に口が開いた。そこへ流し込まれる水薬の苦みときては、毒でもこうまずくはないだろうと思うほどだ。
また一口、今度は白湯を飲まされて、それでようやく食事が終わる。
口元と顔を絞ったタオルで拭われて上掛けが引き上げられ、ショーンの長い指に瞼を押さえられると、すぐに眠くなってしまう。ちょっとだけ額にあてられた手は、しかし熱をみただけですばやくどけられてしまった。その手をつかみたいと思ったが、だるくて腕が持ち上げられなかった。
「ショーン」
軽く咳きこみながら呼ぶと、はい、と答えてディヴィッドの胸の上に手を置いた。
「旦那様、何か?」
「・・・は・・・」
「すみません、もう一度・・・」
ショーンが耳を近づけてきた気配がしたが、もう目を開ける気にもなれないので確かめられなかった。
「今夜は、ついていなくていい。おまえもちゃんと寝ろ」
うまく声が出せずに、我ながら苛立った。今度は聞き取れたらしいショーンが、呆れたようにため息をつく。
「だめです。さあ、もう寝てください」
笑みを含んだ声がそう囁いたが、言われるまでもなくディヴィッドは既に、浅い眠りの中を漂いつつあった。
* * *
そうやって眠りから覚めるごとに、ディヴィッドは回復していった。
もともと身体の弱い質ではなく、栄養も足りている。医者は毎日往診に訪れたが、それもただ「念のため」という程度のことに過ぎなかった。
何しろ、ディヴィッドにはいい看護人がついていた。
ディヴィッドが熱を出して三日目の午後、ショーンは主人のベッドの脇に跪いていた。
彼の膝元には水の入ったボウルが置かれ、つい先ほどまでディヴィッドの身体を拭いていたタオルがその中に沈んでいる。
「・・・そうだ、もっと舌を伸ばせ。歯を当てるな」
そう命じられれば、彼はそのとおりにする。ディヴィッドは彼の後頭部に手を置いて癖のない金髪をくしゃくしゃにし、自分はふたつ重ねたクッションに背をもたせかけて、無事なほうの膝を立てていた。
「女にさせたことくらい、あるだろう? どうされたら気持ちがよかったか思い出せ」
そのとおりにすればいいんだ、と低い声で言い聞かせると、ショーンは苦しそうに薄目を開けてディヴィッドを見上げた。じわり、と目尻に苦痛の涙が滲みかけている。ディヴィッドを残酷な気持ちにさせたくないなら、そんな表情は見せないほうがよかった。ディヴィッドは思わず彼の頭を引き寄せ、はち切れんばかりになったものをぐいぐいと奥へねじ込んだ。
「うう、ぐ・・ぅ」
ショーンはもう呼吸もままならない様子で、びくりびくりと喉元を引きつらせた。ディヴィッドのものに添えられていた右手が自然に上がって、一瞬ディヴィッドの下腹を押し戻したそうな素振りを見せた。その手をきつく掴んで払いのけたディヴィッドは、ショーンに銜えさせたままで身体を起こし、ベッドの下へ足を下ろして彼に向き直った。
ショーンが飲み込めなかった唾液が、鋭角的な顎のラインを伝って床へ落ちてしまう。後で拭かせなければ、と思いながらディヴィッドは、彼の顔がもっとよく見えるようにと額を押して少し上向かせた。
ショーンの高い鼻梁の先が、ディヴィッドの体毛につかんばかりになっていた。これほど深く押し込まれていては舌を動かすこともできず、浅い息をつきながらショーンは、きつく目を閉じている。青ざめた瞼の下で、睫が切なげに震えていた。
「ショーン、全体を吸うんだ。女が腰を振るみたいに顔を動かせ・・・」
自分の言葉に欲情してしまう。ショーンはディヴィッドの反応を窺いながらゆっくりと口を動かしはじめた。喉の奥からそれが出ていったことにほっとしたのか、ぎゅっと寄せられていた眉がわずかに開いた。
ショーンが頭を振るたび、短く跳ねるような水音がした。濡れた唇の間を自分のものが出入りしている光景は、淫らという言葉だけではとても言い足りない気がする。言われただけのことしかできないショーンは、それでも必死にディヴィッドの欲望に奉仕していた。
手慣れた女が相手ならわざわざ口に出すまでもないようなことを、震えているショーンの耳に囁いてやるのは楽しかった。彼は涙に潤んだ目の縁を羞恥に染めて、もぞもぞと身を捩る。午後の明るい光の中で見てさえ、淫靡な仕草だった。
次はどんなことを試させようか?
ディヴィッドは熱でかさついた唇を舌で湿した。
ちろちろと低温の炎の舌に、身体の芯を舐められているような鈍い快感がある。
「先をしゃぶりながら、手で扱くんだ。力を入れずに・・・」
やわらかい喉声で言ってやると、ショーンは素直に手を上げて、自分の唾液に濡れそぼったものをそろそろと愛撫しはじめた。
今日は使用人たちの外出日に当たっている。
だが、執事が今週はどうしても屋敷に残ると言い張ったので、今夜はショーンをこっそり呼ぶことなどできそうにもなかった。執事は、もちろんショーンも外出すると思っているのだ。
そのかわりに、と言うわけでもないが、ディヴィッドは軽い昼食の後でショーンを寝室に呼び、身体の清拭を命じた。それ自体はもう特別な仕事でもなかった。ドアに鍵をかけろ、と言われると、ショーンはさすがに動揺して顔をこわばらせたが、主人の言いつけには黙って従った。
その後のことにも。
「・・・ショーン、今夜は妹のところへ行ってきていい。執事が残ると言っている」
後頭部をぐっと掴んで動きを止めさせ、そう言ってやると、ショーンはぱちりと目を開いてディヴィッドを見上げた。口いっぱいに含まされているので、返事もできない。ただ驚いたことだけは確かなようだった。
ディヴィッドはその彼の額から後ろへと前髪を掻き上げ、
「続けろ」
と言った。
ショーンがゆっくりとまた目を伏せたのと、ドアにノックがあったのとがほぼ同時だった。
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「旦那様、ア〜ンしてくださいv」
・・・って言わせなかったのは、あたしにもまだ
良心ってものが残っていることの証明かと。
いや、そのくらいならまだいい。
「ショーン、ア〜ンってしろ!v」
とか言わせた日にゃ、コレ・・・。
ところが、まことに遺憾ながら大喜びされる方に心当たりがあります。
同じ人間として残念なことです。(微笑)
20030924
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