* fragile/18 *
軽いノック音が聞こえると、ショーンはびくりと肩を揺らした。思わず唇を離して振り返ってしまいそうになるのを軽く押しとどめ、続けろ、と目だけで指図した。どうせドアには鍵がかかっているのだ。慌てることはない。
「誰だ?」
ディヴィッドが誰何すると、執事の声が聞こえた。
「私でございます、ディヴィッド様」
ちょっと言葉を切ったのは、当然入室を許可する言葉がかかると思ったからだろう。だがディヴィッドは黙っていたので、執事はドアの外に閉め出されたまま、用件を言わなければならなかった。
「午後の郵便をお持ちしました」
「わかった。後で見るから、置いて行け」
わざと不機嫌そうに答えると、また気まずい沈黙があった。熱を出してからディヴィッドは自分のベッドで手紙を読んでいた。執事は、今度も当然そうするものと思ったはずだ。
ショーンはディヴィッドの足の間に顔を埋めて、じっと息を潜めている。もしも少しでも動いたら、空気が硝子のように砕けてしまうのではないかと恐れてでもいるかのような慎重さだった。
「・・・旦那様、そこにショーンがおりますでしょうか?」
ついに執事は、疑わしそうな声を出した。それも無理もない状況だった。
わざわざ名前を呼ばれたショーンがまたぎくりとして、思わずディヴィッドのものに歯を立ててしまう。それを咎めるようにディヴィッドは彼の前髪をつかんで揺らし、ドアへ向けて声を張った。
「いま、身体を拭かせている。急用か?」
ショーンに答えさせるか、口元を拭かせて戸口まで出て行かせたほうがいいのはわかっていた。だがディヴィッドの足の間に蹲って身を固くしているショーンが、途方に暮れたような上目遣いで見上げてくるのが目に入ると、もう少しだけ意地の悪いことをしてやりたくなった。自分の立場とディヴィッドの強制に雁字搦めにされて身動きもできず、口いっぱいに頬ばらされたまま、ふっ、ふう、と浅い呼吸を繰り返しているショーンを。
ややあって、ドアの向こうで執事がこほんと咳払いをひとつした。
「いえ、ではご用が済みましたら私のところへ来させていただければ」
「はい、執事さん」
ショーンは、もう我慢できなかったのかディヴィッドの手を振りきって顔を上げ、意識した明瞭な発音で答えた。
「終わったら、すぐ行きます」
「頼むよ」
かえってびっくりしたような声になって執事は言い、そのまま歩き去る気配がした。しばらくドアを見つめていたショーンは、廊下側のドアが静かに閉まる音が聞こえて初めて、ディヴィッドへ向き直った。
「・・・すみません」
うなだれたまま呟き、あらためてディヴィッドの股間へ顔を寄せてくる。
ディヴィッドはその前髪をぐっとつかんで動きを止めさせた。何本か毛が抜けてしまったのではないかというほど強く。ぎょっとしてディヴィッドを見上げたショーンの目に、怯えの色が走る。まだ彼の唾液に濡れそぼって光っているものをゆっくりとつかみ、ディヴィッドはみずからそれを扱きはじめた。目をすがめ、いまにも泣き出しそうに唇を歪めているショーンの顔を見下ろしながら集中すると、すぐに大きな波がやってきた。
「口を開けろ、ショーン・・・!」
鼻先に触れんばかりに近づけて言うと、ショーンはぎゅっと目を瞑って、素直に唇を開いた。濡れたピンク色の粘膜がディヴィッドを迎え入れると、くちゅっ、と湿った音がした。奥までは押し込まず、ショーンの舌先がおずおずと先端を舐めようとするのを感じながら、ディヴィッドは勢いよく埒をあけた。
ショーンは、それを飲もうとさえした。
だが、できなかった。
「・・・っぐ、はっ!」
反射的に口元にあてた手にも、そして毛織りのラグの上にも、白っぽい飛沫が散った。生臭いような独特のにおいが、締め切った室内にひろがった。むせてしまったショーンは床にへたり込んで顔を伏せ、ごほごほと咳きこんでいる。じっとりと汗ばんだその頬に手をかけて、上を向かせた。
「ショーン・・・」
「す、すみませ・・・ごほっ、汚し」
苦しそうに潤んだ瞳が、ディヴィッドを見上げた。だがそれよりも、ディヴィッドの目を惹きつけたのは、ショーンの腰だった。
ズボンの前が膨らんでいる。
あまりに意外な反応に笑い出しそうになりながら、ディヴィッドはつま先を伸ばして、ぐいと彼の下腹を踏みつけた。あっ、とショーンは叫んで、身を捩った。自分でもわかっていたはずだ。濡れた手でディヴィッドの足首を掴み、しかしそれ以上のことはできずに、震えている。
「・・・いやらしいな、ショーン。しゃぶらされて感じるのか?」
「ち、違い・・・」
「違うだと? だったら、これはなんだ?」
はあ、はあと荒れた呼吸をつきながら、ショーンはゆるく首を振った。足先に力を込めてぐりぐりと踏んでやると、つらそうに顔を歪めた。
ショーン、と呼びながらシャツをつかんで膝立ちにさせ、引き締まった腰を引き寄せてズボンの上からそこを撫でた。布越しに触れた硬い質感がショーンの嫌そうな態度を裏切っていた。ディヴィッドはまた自分も欲情し始めているのを感じながら手早くショーンの前を開かせた。じかに手で触れてやると、青年は掠れた呻きを漏らした。
「私は、いいです・・・旦那様」
「馬鹿を言え、こんなにしておいて」
「お願いです、やめてください」
「うるさいぞ」
有無を言わせぬ口調で言いながら、ディヴィッドはショーンのものを強くつかんだ。うう、と苦しそうにショーンは身を折る。まだディヴィッドの体液をこびりつかせたままの唇が、ぎゅっと引き歪められた。
「触られるより、触るほうがいいのか、ショーン?」
真っ赤に染まった耳朶を甘噛みしながら囁くと、ショーンはこくこくと頷いた。
「気が・・・気が楽です、そのほうが」
「変わったやつだな」
喉の奥で低く笑いながらディヴィッドは、ゆっくりとショーンを追い上げていった。
* * *
そんなことをしていて、消耗した体力が回復するはずがない。
さすがに疲れたディヴィッドは、夕食のミルク粥を食べて身体が暖まると急に眠くなってしまい、ショーンを呼べない夜の長さも忘れて、またうとうとと寝入ってしまったのだった。
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旦那様ったら、プレイが濃いなあ。
イタイケちゃんをいったいどうしたいの、あなたは。<そんな人ごとみたいに
・・・あたし?
あたしはもう、
めちゃめちゃにしてやりたいと思ってます。
おかしいっすね、菩薩と呼ばれたあたしなのに。<B様へ私信(笑)
20030927