* fragile/25 *
また日曜が巡ってくると、ディヴィッドは日曜礼拝に出席する執事に、牧師への伝言と献金を託した。
「今週もおいでになりませんので?」
「この足では面倒だ。・・・ああ、もちろん、もっとうまく言っておけよ」
「心得ております。ですが、あまりに続きますと・・・」
「ギブスがはずれるまでのことだ、大目に見ろ」
「はあ・・・」
ディヴィッドの朝食を運んできた執事はなんとも苦り切った顔をしたが、主人の意向に背くわけにもゆかず、そのまま退出していった。
しばらくして、ドアに軽いノックがあった。ショーンのノックだと、すぐわかった。
ディヴィッドはいつものように、すぐにもそのドアが開いて彼が入ってくるものと思ったのだが、そうではなかった。
数秒が経っても、ドアは静かに閉まったままでいる。ショーンが立ち去った気配はないのだが。
「・・・入っていい、ショーン」
そう言ってやりながら、ディヴィッドは苦笑していた。
すっかり忘れていたが、ディヴィッドに呼ばれたのでない限り、ショーンは勝手に主人の部屋に入ることはできないのだ。
案の定、ショーンは遠慮がちにドアを開けて、その隙間からするりと滑り込んできた。彼も教会へ行くために急いでいるのか、閉めないままの戸口で立ち止まった。珍しく上着を着ていたが、ひどく野暮ったいそれはショーンには少しも似合わなかった。
「お・・・おはようございます、旦那様」
「ああ。なんの用だ?」
確かに、彼に会うのは今朝はこれが初めてだ。だが、わざわざショーンが挨拶のためだけに主人に会いに来るはずもない。ディヴィッドはつい不審そうに眉をひそめてしまい、おかげで戸口のところに立ったままでいたショーンは手に持っていた帽子を揉みくちゃにしてしまった。
「どうした?」
重ねて問うと、ますます言いにくそうに俯いてしまう。焦れたディヴィッドは、曲げた指の関節でテーブルをコン、と叩いた。
「言え、ショーン。なんだ」
「その・・・今日も教会へ行かれないと聞いたので」
「それがどうかしたか?」
「行かれたほうがいいと思います」
低く、けれど思いがけずきっぱりと言われて、ディヴィッドは驚いた。使用人風情に差し出がましい口をきかれたことを怒るよりも先に、まず何と言って彼を納得させようかと考えてしまったことが我ながら不本意だった。
つい、厳しい声が出た。
「ショーン、おまえはいつから私に意見ができる立場になった?」
「い、いえ・・・!」
そう言われるとショーンにはもう返す言葉もなかった。項垂れたままでぶんぶんと首を振り、一歩後ずさって廊下へ出た。
「すみませんでした、旦那様」
「もういい。早く行け」
唸るように言うと、彼は慌ててドアを閉め、そのまま逃げるように階段を駆け下りて行ってしまった。
* * *
朝はのろのろと過ぎた。
いつものようにカウチに寝転がって、東風が教会の鐘の音を運んでくるのに耳を傾けながらうとうとしていたディヴィッドだったが、やがてそれにも飽きて、今度は友人たちからの手紙を読み返しはじめた。ここ数日はその返信を書くのも怠っていた。ふと気が向いてペンを執ったところで、こうして自邸に閉じこもったままでは特に書くほどのこともないような気がして、ついまたペンを置いてしまうのだった。
だが、それももう二週間ほどの辛抱だとわかっていた。
最初にディヴィッドの足を診た医者は、40日もすればギブスを外してもいいだろう、と言っていたはずなのだ。
この醜悪なしろものが取れてくれれば、どれほどすっとすることか。
ディヴィッドは細い棒をギブスの下に突っこみながら考えた。
皮膚に汗疹ができているらしく、こうして掻かなければむず痒くてとても我慢できないのだ。あまり品のいいやり方とも思えず、一人きりのときでなければ決してできなかった。
足が治ったら、したいことはたくさんあった。
まず延び延びになっている事業の届け出の件で、また首都へ行かなければならない。
それから猟場の様子を見に行きたい。
教会へも一度は顔を出して、ケガの快復を感謝しなければならないだろう。
稀覯本の売り立てがあるならそれも見に行きたいし、久しぶりに旅行もしたい。
そうだ、療養と称して、しばらく海岸へでも行こう。
連れてゆくなら、ショーンにはそれなりの衣装を調えさせなければ。
そこまで考えて、ディヴィッドはため息をついた。
ショーンがここを離れたがるはずがない。
彼には、町の病院に病気の妹がいるのだ。
* * *
そうこうしているうち、階下に人の声がし始めた。教会へ出かけていた使用人たちが戻ってきたのだ。パタパタと窓が開け閉てされ、女中たちがにぎやかに笑いかわす声すら漏れ聞こえてくる。彼らはこれから昼食の支度をし、安息日といえども欠かすことのできない最低限の仕事に取りかかるはずだった。
やがて誰かがホールの階段を上がってくる気配がし、ディヴィッドの私室ドアに厳かなノックがあった。執事ならではのノックだった。
「ただいま戻りました、ディヴィッド様」
牧師から預かってきたという見舞いの手紙を受け取ったディヴィッドは、信心深い執事にうんざりした顔を見せないようにするのに苦労した。ショーンといいこの執事といい、このあたりの人間は信仰をおろそかにしない。もともとが農村地帯なだけに、天候の支配者には逆らえないことを知っている。
今日のお説教の内容をお話ししましょうか、と言われないうちにディヴィッドは話題を切り替えた。
「ショーンを呼んでくれ。庭へ出たい」
「申し訳ございません、あれはまだ戻っておりませんので・・・」
「なぜだ?」
思わず声が尖ったが、さすがに老練な執事はひるみもせず答えた。
「村の若い者と、すこし話をしてゆきたいとかで。ほんの半時間ほどと申しますので、許してやりました」
ディヴィッドに文句を言う筋合いはない。この屋敷の執事は、ずっと以前からそれだけの権限を与えられている。
「ショーンが戻ってからでもよろしいでしょうか? それとも、今から庭へ下りられますか?」
「・・・いや、後でいい。帰ってきたらここへ来させろ」
「かしこまりました、ディヴィッド様」
頭を下げて退出する執事を見送り、ディヴィッドはなんとなくつまらない気分で庭に目をやった。
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うあああ、しまった!!
昨日はリベの発売日だったんじゃないかあ!!
なんてこった、ネズミ王国で腑抜けにされたか?
夢と魔法の王国、恐るべし。
腐女子にその本分を忘れさせるとわ・・・!
20031025