* fragile/29 *
華奢なグラスは今度こそ倒れてテーブルの端まで転がってゆき、カシャンとはかない音を立てて床に砕けた。ディヴィッドの曾祖父の代から使われてきた、2ダース揃いのうちのひとつだ。ずっと手入れを続けてきた執事がさぞかし嘆くことだろう。
ワインに濡れた天板の上に胸をつけさせ、首の付け根を後ろからぐっと押さえ込むと、ショーンはかすかな悲鳴を上げた。どこかの打ち傷が痛んだのかも知れない。気遣ってやるつもりはなかった。
襟首に手をかけ、下へ引き剥がすようにしてシャツの残骸を脱がせた。まだらな赤紫に染まった袖が尖った肘に引っかかって、うまく抜けない。ディヴィッドは苛立ち、その腕を背中へねじ上げた。
「ン、ウッ・・・」
ショーンの傷ついた唇から呻きが漏れて、銀の塩入れを曇らせる。彼の顔のすぐ横にはすっかり冷めてしまった料理の皿が置かれたままだ。なにかのはずみにショーンの目を突きそうなカトラリー類を、ディヴィッドはその皿ごとガシャガシャとテーブルの隅へ押しやった。
首の後ろに赤い線が入っていると思ってよくよく見れば、シャツが裂かれた衝撃でついた襟の痕だ。
ようやく脱がせたシャツを床に投げ捨て、なだらかに隆起した肩胛骨の縁に歯を立てながら、ディヴィッドは同じ質問を繰り返した。
「誰と会っていたのか、と訊いているんだ・・・!」
ハッ、ハッと浅く息を弾ませながら、ショーンはテーブルに鼻を擦りつけるようにして頭を振った。どこまでも強情な彼の髪の先から、ワインの滴がぱらぱらと弾けてディヴィッドの頬にも散った。ディヴィッドは無意識に目をすがめた。
「村に女がいるのか? それとも、男にやらせたのか・・・どちらだ、ショーン!」
噛みつくように言いながら、じんわりと汗の浮きはじめた背中に手を突き、体重を乗せた。もう片方の手ではショーンのズボンの留め具を外しにかかる。すでにサスペンダーを落とされ、腰骨に引っかかっていただけのズボンは簡単に膝までずり落ちてしまった。
ずるり、と下着も引き下ろされて尻を剥きだしにされると、ついに耐えかねてか、ショーンが声を上げた。苦しい涙に濡れた声だった。
「い、嫌です、旦那様!」
「なら、答えろ。誰と会っていた?」
「言えません・・・」
「答えろ!」
ショーンの金髪を鷲掴みにして持ち上げ、そのままガンとテーブルに打ちつけると、彼は言葉もなく呻いた。空気を掴むように曲げられた指先がかすかに震え、無惨な力がこめられた。
彼がなぜこうも強情に相手を庇おうとするのか、ディヴィッドには理解できなかった。
その女、あるいは男と、ショーンがどんな関係であったにせよ、そのために彼は面相も変わるほど殴られてきたのだ。
抵抗はしないが服従しようともしないショーンに業を煮やして、ディヴィッドは彼の腿を開かせ、その間に自分の足を割り込ませた。声を捨てたショーンは緩慢な動きで片腕を引き寄せ、額の下に手首を敷いて、背を丸めた。
するりと指を忍び込ませると、彼の奥津城はやはり乾き、引き締まっていた。まさか本当に誰かと寝てきたなどとはディヴィッドも思っていなかったが、それを確かめるだけで済ませるつもりもなかった。
ディヴィッドは腕をいっぱいに伸ばして、先ほどから目をつけてあった銀の小皿を手元に引き寄せた。なめらかなバターが盛られた皿だった。
指先でたっぷりと掬って、体温で溶けて滑り落ちないうちにと、急いでショーンの後ろに塗りつけた。
「・・・っ、んんっ!」
顔を伏せていたショーンはそれを見ておらず、突然与えられた頼りない異物感に身を震わせた。指を揃えてなかへ塗りこめようとすると、室温で柔らかくなっていたバターはたちまち溶けだしてディヴィッドの指を滴り落ちてゆく。
ショーンの白い内股を伝ってこぼれる淡黄色の滴を指先で絡めとり、その指ごと奥へ埋め込むことをディヴィッドは幾度も繰り返した。そうしながら徐々に指を増やし、かたい蕾をゆるゆるとほぐしてゆく。彼を傷つけないためにしていることだというのに、ショーンはひどく嫌がって身を捩った。
また新しい塊がぐずぐずと潰れながら押しあてられ、ディヴィッドの指がすばやく抜き差しされる。時間と競争するかのようなその動きには、容赦がなかった。それにつれてショーンの腰がびくり、びくりと跳ねる。鈎形に曲げた指の関節でなかを擦り続けられると、最近ようやくその感覚を覚えはじめた彼の内部はざわりと動いてディヴィッドの指を締めつけた。ショーンの狭隘な谷間も腿の内側も、ぬるつくバター液にすっかりと覆われてしまっていた。
やがて、ショーンの前が反応し始めた。ディヴィッドはそれを片手で握りしめて脅すように揺さぶり、震えている背中を見下ろして、低い声を落とした。
「ショーン、どうしても言いたくないならそれでもいい。・・・だが、それなりの覚悟はあるんだろうな?」
これももう言葉のあやに過ぎない、とディヴィッドは内心で苦笑した。手の中で硬くなっているショーン以上に、ディヴィッド自身ももう欲望を隠しきれなくなっていたからだ。一秒でも早くこんな馬鹿げた言葉遊びはやめて、彼の中に身を埋めたかった。
ガウンの前を開いて取り出したものを、つるりと狭間に滑らせる。
それからディヴィッドはショーンの腰を両腕で抱え、塗りこめられたバターがとろとろと溢れてくるほど柔らかくなった場所を一息に貫いていった。
「ア、ア・・・アアッ!」
とうとうショーンは、喉をいっぱいに開いて叫んだ。すがるもののない腕が広いテーブルの上を這い、それからまた握りしめられて、ふるふると震える。その拳に新しい血がついていた。額の傷が開いてしまったのだろう、と思った。
だが、今は止められなかった。
初めてショーンを後ろから犯しながら、ディヴィッドは傷ついた彼の手をつかまえて、そこについた血をぺろりと舐めた。
苦かった。
* * *
ことが済むと、ディヴィッドはショーンを床に座らせ、彼の後始末もせずに足首にまつわりついていたズボンを上げさせた。シャツはもうぼろ切れ同然で、とても着せられたものではなかった。
それからおもむろに呼び鈴を鳴らして、執事を呼んだ。ショーンは裸の上半身を抱くようにして蹲り、ぴくりとも動かなかった。
呼ばれるのを待ちかねていたように駆けつけた執事は、その姿を見るとさすがに色をなした。卓上の惨状も、割れたグラスも目に入らなかった様子で、そのテーブルの足元に座り込んでいるショーンの脇へ駆け寄って、裸の肩に手を置いた。
「デ・・・ディヴィッド様、ショーン! これはいったい、どういう」
「大丈夫だ。たいして乱暴にしたわけじゃない」
「ですが、あまりにも・・・あまりにもひどいなさりようではありませんか?!」
がくりと垂れたショーンの顔を上げさせ、血に汚れた額を確かめながら、執事はディヴィッドに向かって声を荒げた。ディヴィッドは顔色ひとつ変えずに、その叱責を受け止めた。ほんの子どものころから知っている男だが、これほど怒った顔をまだ見たことがなかったな、と冷えた頭の芯で考えていた。
「いいから、替えのシャツを持ってきてやれ。このままでは下へおりられないだろう」
ぴしりと叩きつけるように言うと、執事は苦々しげに顔をしかめたが、即座に自分を抑えた。彼ならそうするだろうと、ディヴィッドが思ったとおりだった。
「かしこまりました、ディヴィッド様。ですがこのことは・・・」
「・・・です」
二対の、温度の違う目が、はっとショーンに向けられた。あまりにも低い声だったので、よく聞き取れなかったのだ。
ショーンはゆっくりと手を上げて額の血を拭い、次にその手をぎゅっと握って、震えの止まらない唇に押し当てた。
「もうシャツはないんです。・・・すみません」
それから彼はもう一度俯いて、透明な涙をパタリとこぼした。
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こんなもんで許していただけますでしょうか!>マダムB様(苦笑)
バターは美味しく、栄養価も高いうえに用途が広い。良い食品ですな。
若豆への愛が暴走しがちなのは、旦那様ではなく、あたしです。
20031103
20031108ちょっとだけ修正<あきらめが悪い・・・。