* fragile/39 *

先週か先々週か、あるいはその前の週にだったか。
ディヴィッドは以前見た光景とまるきり同じものを、そこに見ているような気がした。
金色の光に染まった黄昏の部屋、ドアの脇に白いシャツを着て立っているショーン。
そのしなやかな髪もシャツから覗いた手首も、夕陽に濡れて輝いている。憂えるように俯いた彼は身体の両脇におろした手をぎゅっと握りしめ、自分からディヴィッドに近づいてくることも、またその場から逃げ去ることもできずに、ディヴィッドが声をかけるのを待っている。
以前と違うのはただ、ショーンの顔には派手なけんか傷が残っていることと、また中途半端な長さに髪が刈られていることだけだった。どちらも、こうして下を向いている彼をこの距離から見ていたのではほとんどわからない。
「・・・ここへ来い、ショーン」
顎をしゃくって呼ばれると、彼はそろそろと近づいてきて、ディヴィッドが座っているソファのそばで立ち止まった。ちょうどディヴィッドを上から見下ろす格好だ。
その顔へ向かって、ディヴィッドは無造作に腕を伸ばした。なにを求められているのかわからず、ショーンは身体を固くして目を瞬いたが、いっぱいに伸ばされたディヴィッドの指先が頬に触れるとその瞼を静かに下ろして、ディヴィッドの手が届くように自分から少し身をかがめた。
ディヴィッドの手はゆっくりとショーンの顔を撫で、治りかけた擦り傷の、ざらつく感触を味わった。その傷のためにきちんと剃刀があてられないのか、普段は感じられないまばらな髭の手触りもした。ショーンはじっと動かずに、目を閉じている。表情は静かだが、こうしている間にもじわじわと赤みを増してゆく皮膚の下で、彼の心臓はどきどきと高鳴っているに違いなかった。
親指の腹で薄い唇を撫でながら、ディヴィッドは呟いた。
「ひどい顔になったな?」
ショーンは、またその理由を訊かれるのかと思ったのかも知れない。とたんにぎくりと身を固くして、目を開けた。ディヴィッドはうっすらと笑った。
「初めてじゃあるまいし、そうびくつくことはないだろう。おまえは、ほかのことでもこんなに飲み込みが悪いのか?」
「こ・・・す、すみません」
「バーナードの苦労がしのばれるな」
「そんなことは」
「口答えをするんじゃない」
わざと不機嫌そうに遮って、ディヴィッドはショーンの頬に当てていた手をゆっくりと後ろへ滑らせていった。ショーンはぎゅっと眉間に皺を寄せて、不快を耐えるような顔になった。ディヴィッドには気に入らなかった。
猫の首をつかむようにショーンの首の後ろをつかみ、下へ向かって力を込める。ショーンはだんだんと膝を折ってゆき、しまいにはディヴィッドのカウチの前に、崩れるように床に跪いた。
そして見上げてくる目。
寄せられたままの眉と、きゅっと引き結ばれた唇が無垢な印象だった。
ディヴィッドはするりと手を滑らせて彼の傷ついた顔を覆い、その目を閉じさせて静かに言った。
「・・・出して、しゃぶれ。少しはうまくなったかどうか見てやる」
ショーンは目をふさがれたまま、おずおずと手を伸ばしてディヴィッドの着衣の前を開いた。

彼にはああ言ったが、実はショーンはわりに器用なたちだし、ディヴィッドが教えたことはよく覚えている。

今もそうだった。彼は手探りでディヴィッドのものを取り出し、最初のときのようにいきなりくわえることはせず、その先端で自分の乾いた唇をそろそろと撫でた。それから小さく舌を出して、キスの続きのような優しさでゆっくりと舐めはじめる。彼の舌はあたたかく濡れていて、からみつくというよりはさらさらと表面を滑ってゆく。
それから、くるりと先を舐めたかと思うとまるく口を開けて、唇の内側で軽くこするようにしながらすっぽりとくわえこんだ。
「ふ・・・ぅ」
ディヴィッドは思わずあがった声をため息に紛らせ、ショーンの目の上を覆っていた手をずらして彼の髪をゆるくつかんだ。ショーンはほっとしたように深い鼻息を吐き、それがディヴィッドの体毛をそよがせた。
熱く濡れた粘膜に包みこまれる快感はたとえようもない。やがてショーンが舌を動かしはじめ、繊細なつくりの指がそろそろとその下を愛撫しはじめると、ディヴィッドの手も落ち着かなくなった。痣の浮いた顔や髪をゆるゆると撫でまわし、乾いていた唇が唾液に濡れて光るのを楽しんで眺めた。
「・・・っ!」
もっと深く含ませようと、ぐいと頬をつかんだら、ショーンがくぐもった悲鳴を上げた。ただ苦しいにしては鋭い声だったのでディヴィッドは怪訝に思ったが、ショーンが片目だけを歪めているのを見て納得した。打ち傷を強くつかまれて、痛かったのだ。
了解したしるしに、いったん手を離して擦り傷の上をそっと撫でてやると、ショーンは見るからにほっとした様子でまた目をつむり、奉仕を再開した。
確かに、彼はうまくなった。
その認識はディヴィッドを喜ばせると同時に、むなしいような気持ちにもさせた。
ディヴィッドは黒痣に囲まれた眼窩を指先で確かめるようになぞりながら、自分もゆっくりと目を閉じて、寂しく美しい夕暮れの光を視界から追い出してしまった。


* * *


寝室に入ると、ディヴィッドはショーンに言いつけて窓のカーテンを閉めさせた。単にそのほうが気分が出ると思っただけのことだが、ショーンのシャツを脱がせてみると、別の効果にも気がついた。
彼の二の腕や肩、肋の上にはどす黒い打撲傷が広がっていて、それがひどく目についたのだ。
ディヴィッドは寝台の上に足を伸ばして座り、ショーンを傍らへ呼んで、その痣の上に黙って手を這わせた。ショーンはディヴィッドの寝台の上に片膝をつき、軽く息を弾ませながらじっとしている。その口元はまだしっとりとして、赤みが強かった。
「”あれ”を取ってこなくていいのか?」
意地悪くそう言ってやると、ショーンは少し顔を赤らめ、裸のままで立っていって、隅のキャビネットから布をかぶせたマグを持って戻ってきた。
迷いのない足取りだったが、それをベッドの足下に置いたときにはやはり羞恥を堪えるような顔をしていて、その表情にもディヴィッドの欲望はかき立てられた。できるだけ素っ気なく聞こえるように、声を作らなければならないほどだった。
「ここへ座れ、ショーン。・・・そう固くなるな。さっきの続きだ」
ショーンは促されるままにのろのろと頭を下げ、ディヴィッドの足の間にもう一度顔を埋めた。ぴちゃぴちゃ、と湿った音がディヴィッドの中枢を刺激する。下腹に吹きかけられる呼気もあたたかいというよりは熱くなり、しっとりと湿り気を含んでいた。
ディヴィッドは金髪の頭を撫でながらしばらくそうさせていたが、そのまま口中で達してしまうのは惜しい気がして、彼の髪をつかんでそこから引き剥がした。今日はもう少しゆっくりと楽しみたかった。傷の治りきらない唇の端からとろりと唾液をこぼしながら、ショーンは苦しそうに主人の顔を見上げた。
「もういい」
そう言ってやり、腿に置かれていた手首を引っ張って身体ごと引き上げた。ショーンは膝と手を寝台について主人の上に体重をかけまいとしたが、腰に腕をまわして抱き寄せられると素直に身体を重ねてきた。その重さとなめらかな肌の感触が、ディヴィッドには心地よかった。
腿にひやりと触れてきたショーンの中心に、ディヴィッドは無意識に手を伸ばした。
すでに腹につきそうなほどに反り返ったディヴィッドのものとは対照的に、それはまだ芯もなく柔らかな感触だった。







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豆は?! デイジーは?! と気が気じゃなかった一日。
結局どちらの姿もないということで、なんとも微妙な気持ちです。
デイジーは別便で来てる可能性、あるんでしょうか。

まあ、豆がいないなら、いいんだ・・・。(涙)

20040120