* fragile/40 *

その手応えのなさに、ディヴィッドは少なからず苛立ちを覚えた。
「・・・まったく、何度やれば慣れるんだ」
荒れてガサついた感情のままに乱暴な言葉を投げつけられ、ショーンは尖った肩先でそれを受け止めて、ちいさく身震いをした。
ショーンはシーツの上に片腕を投げ出しており、ディヴィッドにはちょうどその日焼けしていない肘の裏側が見えていた。
彼の肌は野外労働者らしく健康的な金茶色に日焼けしているが、もともと色素が薄いため、陽に当たらない部分はそこだけ紙を切り抜いたように真っ白い。その薄い皮膚の下で、ぴくっと腱が引きつったのさえ今のディヴィッドには腹立たしかった。
マグマのようにどろどろとした灼熱が、胸の中にわき上がってくる。
ディヴィッドはその熱をもてあましながらショーンを見下ろした。
そして、ふわふわとしたにこ毛の中に、なかば埋もれるようにまどろんでいる彼のものを下からぐいと掬いあげ、力任せにきつく握りしめた。
「アッ!」
ショーンは短い悲鳴を上げ、はじけるように身を起こそうとした。が、ディヴィッドはその反応を予期しており、逃がさなかった。
「そんなに嫌か、ショーン?」
言いながら、もがく彼の肩をつかんで引き戻す。ショーンは無意識の仕草で頭を左右にうち振ったが、ディヴィッドの手を無理に振りきってまで逃げだそうとはしなかった。

しないというよりは、できないのだ。
ディヴィッドは薄い苦笑いを浮かべたが、もしもショーンがこちらを見ていたなら、決して笑ったりなどしなかっただろう。
使用人を不当に甘やかすことは、彼の地位では考えられなかった。

続けてぎゅっぎゅっと掌の中で潰すように揉みしだかれると、ショーンは全身を鋼のようにこわばらせた。ディヴィッドの片足を挟むようにしていた両足が、じたばたと暴れて苦痛を訴える。
ディヴィッドはその股をぴしゃりと叩いて、動きを止めさせた。
「動くな、ショーン」
「だん・・・旦那様、やめてください、やめ・・・!」
「うるさい。口をふさぐぞ」
「い、痛いんです・・・旦那様!」
力なく訴えるショーンの声は、もう泣いていた。
なめらかな背や項にぽつぽつと冷や汗が浮きだし、重ねられている身体の間にじんわりと湿り気を感じるようになった。ショーンはまだディヴィッドの胸に顔を伏せたままでいたが、表情は見えなくともぎりぎりと奥歯を噛みしめて苦痛に耐えている様子だけははっきりと窺えた。
ショーンの翡翠玉のような双眸は、きっと涙に濡れているに違いない。
顔を上げさせてその目を間近に覗きこみたいと思わなくもなかったが、ディヴィッドはその欲求を押し殺し、彼のものを握りこんでいる指に、もう一度じわりと力をこめた。
「ツッ・・・いた・・・ッ」
めったに自分の要求など口に出すことのないショーンが、たまらずに上げる声。
それを聞くと、ディヴィッドの気もいくらか晴れた。
慈雨が、乾いてひび割れた地表を濡らすようだった。


* * *


ショーンが怯えていることは、わかっていた。
日曜の出来事は彼の心にずいぶん深い傷を残したことだろう。それだけのことをしたという自覚もあったし、彼の負った傷がまだ乾きもせずに、じくじくと赤い血をにじませているだろうことも推測はできた。
だが、それも彼の自業自得だ、とディヴィッドは思っていた。
彼が強情すぎるのがいけない。
今も彼はディヴィッドの胸に顔を伏せたまま震えているが、その姿は健気でもあり、またどこか卑屈にも見える。

まるで、最初に抱いたときのようだ、と思った。
あの夜の彼はつらい現実を受け入れまいとでもするようにきつく目を閉じ、すぐ前にあるディヴィッドの顔をろくに見ようともしなかった。
じっと息を殺して身体を硬くし、ディヴィッドの気まぐれが彼の上を通り過ぎてゆくのを待っていただけだ。
ディヴィッドがどれほど愛撫してやっても、慰めの言葉をかけてやっても、不安と嫌悪に支配されきった身体はまったく快楽を訴えることなく、ましてや彼がディヴィッドに心を許すことなどありそうにも思えなかった。
彼が声を上げたのは、ひどい苦痛か屈辱を感じたときだけだ。
ちょうど今のように。

そのショーンを、ディヴィッドは彼なりに時間をかけて愛し、手なずけてきたつもりでいた。
先週の同じ日には、どうやら自分のものにできたのではないかとさえ思った。
そのすべてが錯覚だったと認めるのは、つらいことだった。


* * *


薄く汗ばんだショーンの肌から、彼の味わっている苦痛と怯えの匂いが、あまく色濃く立ち上ってくる。味わわずにはいられないが、いつまでもかいでいると頭痛が始まりそうな気のする、鋭い芳香だった。
ディヴィッドがようやく手を離してやると、ショーンはふーっと大きく息を吐いて、がくりと肩の力を抜いた。
同時に、ずっと身体の下に折り敷いていた片腕が痺れたのか、彼はその腕をそろそろとシーツの上に落とそうとした。なんでもない仕草だったが、たったそれだけのことがディヴィッドの気にはひどく障った。
ピシャンとその腕を叩いてやると、さほど強く叩かれたわけでもないのにかかわらず、ショーンは哀れなほど身をすくませて動きを止めた。
「動くなと言っただろう」
「・・・はい。すみません、旦那様」
かすれた声が答えて、いったん伸ばされた腕が元の位置に戻される。
こんな、言いがかりに過ぎないような命令でも、彼には拒む権利がない。
ディヴィッドは彼の前髪を掴んで顔を上げさせ、無理にこちらを向かせた。

山間の湖沼を思わせる彼の緑眼にはやはり涙の膜が張っており、夜へと向かう薄闇の中で、凪いだ水面のようなきらめきを湛えていた。ディヴィッドがじっと覗きこんでいると、その縁にはみるみる新しい涙が盛り上がって、やや右側に傾いでいた頬を伝ってぽろりとこぼれた。
自分の胸の上に落ちた水滴を、ディヴィッドはわざと不機嫌そうに目で追った。
「泣くな、ショーン。気分が萎える」
「は、・・・はい」
唸るように言われると、ショーンはつらそうに目を伏せた。そのまつげの下からも、こらえようのない涙はぽとぽとと降って、ディヴィッドの胸を濡らした。彼はその涙を拭おうとして手を上げかけたが、また叱られるのではないかと思ったのだろう。すこしばかり顔をそむけただけだった。
「起きろ」
肩を押されながら冷たく言われ、ショーンは促されるままに身を起こして、ディヴィッドの膝をまたいで座った。両膝の下は柔らかい寝台だ。主人の腹に手を突くことが躊躇われるのか、ショーンは不安定な姿勢でディヴィッドを見下ろした。
ディヴィッドのほうからは、先ほどまでのやりとりの間にすこし元気をなくしてしまった自分のものが、ショーンの腹の前で揺れているのが見えていた。ショーンのほうはやはりあまり変化がない。金褐色のささやかな茂みが、その形をほとんど覆い隠していた。

「・・・なにをぐずぐずしている。私を楽しませるつもりなら、準備が要るだろう?」
ショーンは戸惑い、いぶかしげに幾度か目を瞬かせた。
だがすぐにディヴィッドの意図に思いあたったのか、まだ拭えない涙に濡れたままの顔をすうっと伏せてしまった。その頬や鼻先に、ほんのりと血の赤みがさしてくる。
ディヴィッドが急かすように膝を揺らすと、彼はのろのろと立ち上がって、いったん寝台を降りた。

主人の傍らに戻ってきたとき、ショーンのすんなりと長い指は例のマグをつかんでいた。ディヴィッドはその手首を捕まえて引き寄せ、今度は自分の腹の上にまたがらせた。ショーンは嫌がるそぶりを見せたが、彼がディヴィッドの意向に逆らえるわけがなかった。
「自分で慣らしてみろ」
そう言いつけられても、彼は容易には始められなかった。赤くした顔を俯け、両手でつつんだマグの中を睨みつけるように難しい顔で見下ろしながら、はあはあと浅い息をついでいる。
ディヴィッドは手慰みに彼の膝や、両足の付け根のあたりに掌を這わせながら、重ねて命じた。
「できるだろう、ショーン。いつまでも私の手をわずらわせるな」
「・・・」
「ショーン」
「わ、私は・・・このままでも」
やっとのことでそう呟きながら、ショーンはじり、と後ろへ身体を後退させた。片手を自分の後ろに回して、自分の尻の後ろに勃ちあがったディヴィッドをそっとつかまえる。乾いた暖かい手のひらに先端を包まれ、撫でられると、ディヴィッドのものはその感触を悦んで、ぴくんと跳ねた。
ディヴィッドは彼の手の中でむくむくと質量を増す自分を意識しながら、だめだ、と言って顔をしかめた。
「おまえが痛い思いをするのは勝手だが、きつすぎると、私のほうもつらい」
厳しい口調でそう言って、ギブスに包まれていないほうの膝をぐいと折り曲げる。持ち上げられたショーンの上半身がぐらりと揺れて、呼ばれてもなかなかこちらを向かなかった顔が思わずディヴィッドのほうを向いた。
「やれ、ショーン・・・」
優しいといっていいくらいの声が出た。ディヴィッドの意には反していた。
ディヴィッドの顔にじっと視線をあてたまま、悲しそうな目をした青年は、すこし腰を浮かせた。彼が大きなマグの中に片手を入れ、たっぷりと油を絡めた指先を引き出してきたときには、その目はきつく閉じられてしまっていたが。

彼はディヴィッドの手にマグを預け、片手をゆっくりと自分の後ろに回した。
ショーンの眉根がきつく寄せられ、はりつめた肩の筋肉がなめらかに動きはじめる。ディヴィッドの位置からは彼の背後は見えず、その関節の動きと、徐々に苦しそうになってゆくショーンの顔を眺めていることしかできなかった。
夕暮れが深すぎて、真下に向けられたその表情はほとんど見えなかった。
ただ彼の吐く息にはほんのりと、艶めいた色がのっているように思えた。

ディヴィッドはたっぷり一分待ってから、後ろに肘をついて自分も寝台の上に起きあがった。それからショーンの手がしていることがよく見えるように、彼の身体を前へ倒させた。
まるく、豊かに盛り上がった肉の間に、ショーンの右手はあった。
彼の長い指がすでに二本見えなくなっており、その見えない指がどこかで動くたびに、手の甲に浮き出た筋がピクリピクリと反応していた。







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さんざんお待たせしたあげくこんなモノで、
ほんとすみません・・・。(涙)
しかも続きます。うひゃあ。

20040308