* fragile/42 *

ショーンに相手をさせるようになってからずっと、このことは考えていた。
ギブスのせいで膝も曲がらず、自由のきかない自分が上になってリードするよりは、彼に跨がせたほうが楽だろう、と。
だがもちろん、試してみたことはなかった。
ショーンにはまだ無理だと思っていた。


* * *


「んっ、んっ、・・・っ、んっ・・・」
いったん要領を覚えてしまえば、ショーンの動きはなめらかなものだった。ディヴィッドの腰骨をつかんだ手で均衡をとり、体重を支える膝にはほとんど負担をかけずに、うまく腰をつかった。ちょうど乗馬を楽しむときのようなリズムだが、もっと小刻みで、下から上へと捏ねるような動きだった。
そしてショーンは、ディヴィッドのものが彼の中を深く抉るたびに、甘くかすれた声をもらした。
なかばため息のような、喉の奥から自然に押し出されてくる声だ。
その声が、ディヴィッドの身体の芯に油を注ぎ、欲望の火を燃え立たせる。
「んっ、んんっ・・・!」
ショーンはぎゅっと目を閉じて頭を垂れ、自分の胸に顎をつけるようにしていた。
もう彼は汗みずくだった、金髪の頭が振られるたびにその髪の先からぱらぱらと水滴が散った。
塩漬けにされた肉塊のようにシーツの上に横たわったディヴィッドは、熱く濡れてとろとろになった粘膜が自分を包みこみ、激しく上下に擦りたてる快楽を存分に味わっていた。ショーンがわざとしているのではないだろうが、彼の内部は時折信じられないほどの強さでディヴィッドを締めつけてくる。ディヴィッドは、彼の体内の熱を吐き出させようとする圧力を感じて、身震いした。先端に唇をつけて吸われても、これほどの吸引力を感じはしなかっただろう。
そして目を上げれば、そこには夢中になっているショーンの顔がある。
労働に疲れた男のように赤らんだ顔を伏せ、半開きになった唇でひっきりなしに喘ぎながら、ショーンもこの淫らな行為を楽しんでいる。
その証拠に、ディヴィッドの腹の上にあるショーンのものもまた、天に向かって高々と頭をもたげていた。バラ色の屹立の先端からは、わずかに透明なシロップのような体液が滲み出していた。
ディヴィッドはその先へまた手をやり、サテンでくるんだような質感の先端に、ショーンがこぼし続けているシロップを塗りつけてやった。指先で拭っても拭っても、またそこには水分が滲んでくる。この点についてはきりがなかった。
指を開いてしっかりと握られると、ショーンの身体が大きく跳ねた。
「アアーー・・・!」
ぽっかりと開いた唇が震えて、喉が反る。それと同時に食いちぎられそうなほど強い締めつけがきて、ディヴィッドも思わず獣めいた唸り声を上げていた。
「ウウッ」
「アッ、ア、離してください、旦那様、離し・・・」
「ショーン、かまわない。先にいっていい」
「だめです、まだ、アッ」
ディヴィッドがそのまま急かすようにショーンを扱きはじめると、彼はぎょっとしてその手首をつかんだ。主人の手を払いのけるようにして自分のものを取り戻し、震える指で、きつく根元を握りしめた。はあ、はあと荒い息をはずませながら。
そのままの姿で見下ろされると、生理的な涙に目を潤ませた彼は、まるで自分を慰めているようにも見えた。

「・・・だめです、私だけ先には・・・」
羞恥と快楽に濡れたその声はディヴィッドの腰を直撃して、彼はもうこれ以上は大きくならないだろうと思っていたものが、ショーンの体内でまた体積を増したのを感じた。ディヴィッドを完全に飲みこまされているショーンの平らな下腹が、長い指に縛められた屹立の向こうで漣のように細かく痙攣していた。
ディヴィッドは不自由な片膝でショーンの尻を持ち上げ、動くように促した。もう、口を利くのも億劫になっていた。
主人の無言の合図を受けて、ショーンはまたゆるゆると腰を動かしはじめた。彼は今度は自分の快楽を追おうとはしていなかった。腰が振られるテンポは次第に速くなり、ショーンの丸く盛り上がった尻がディヴィッドの腿に打ちつけられるぴしゃぴしゃという冷たい音が、ふたりの荒い呼吸音を圧して響いた。

やがて、ディヴィッドはショーンの膝をぐっとつかみ、思い切り爪を立てた。
ショーンは大きく胸を喘がせながら薄目を開けて主人の様子を確かめ、促すように、深く沈めた腰を二度、三度と揺すり上げた。
その目つきに照らされたとたん、まるで電流のような刺激が走って、ディヴィッドはショーンの奥深くに熱い濁液を迸らせた。
「あ・・・」
それを感じたショーンががくりと首を垂れ、動きを止める。
ディヴィッドはショーンの下でこらえきれずに腰を揺らめかせながら、自分のものを握りしめたまま固まってしまったような彼の指を、ゆっくりと引き剥がしにかかった。
主人の手でしゅっしゅっと幾度か扱かれると、先ほどから開放を待ち望んでいたショーンはあっという間に果ててしまった。低いうめきとともに、断続的に吐き出される飛沫がディヴィッドの手指と腹を汚した。ショーンがぶるっと胴震いをして、後ろがまた引き絞られるように締めつけられた。もし彼がこれほど疲れ果てた様子をしていなければ、ディヴィッドはもう一度、と言ったかも知れなかった。
だが、ディヴィッドは汚れた手をシーツで拭い、今にも崩れ落ちそうなショーンの上半身を下から支えて、ゆっくりと横に倒れる手伝いをしてやった。
閉じかけた足の間から、まだ勢いのあるものがズルリと引き抜かれる感覚にはさすがに反応したが、それだけだった。
今の一連の動きのために、よほど消耗したのだろう。
ぐったりとなったショーンは、シーツに頭がつく前にすうっと目を閉じたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。

普段のショーンは、情事がすむとすぐに寝台を降りて、ディヴィッドと自分の後始末をする。
シーツが汚れていればそれも取替え、ディヴィッドが望めば寝酒の用意まで調えてから、ほかの使用人たちが戻ってくる前に一階の自室へ降りてゆくのだ。
だが今夜、彼にはそれができなかった。
やはりシーツの端で腹の汚れをざっと拭い、気を失うように眠ってしまったショーンの呼吸が落ち着いているのを確かめてから、ディヴィッドもその傍らに身を横たえた。
乾いてゆく汗が、ふたりの肌から気化熱を奪ってゆく。上掛けはずっと足元のほうへ追いやられていて、ディヴィッドには引き上げられなかった。
「・・・風邪をひくぞ、ショーン?」
自分のことは棚に上げて呟きながら、ディヴィッドはぼんやりと未来のことを考えていた。


* * *


あまり長い時間ではなかった。
しばらくすると、広間の大時計が厳かに10時を打った。
自分もうとうととしかかっていたディヴィッドがそれに気づいて起き上がり、まだぐっすり眠りこんでいるショーンの肩に手をかけた。
「ショーン、起きろ。時間だ」
肩をゆさゆさと揺さぶられても、ショーンは容易には目を覚まさなかった。金色の睫がピクピクと震え、眉がうるさそうにひそめられる。
ディヴィッドはなんとなく微笑ましい気持ちになって、その頬を軽くはたいた。
「ショーン。皆が帰ってくるぞ、ショーン?」

すると、彼は唐突に目を開けた。
一瞬は目の前にあるものがわからなかったのだろう。ぱちぱちと瞬きをしてからようやくディヴィッドの顔がすぐ前にあるのに気づき、慌てふためきながら身体を起こした。
「だ、旦那様・・・!」
「そう慌てなくていい。まだ間に合う」
「何時なんでしょうか?」
「10時だ」
町からのバス便は、最終が10時半だ。たいていの使用人たちは門限である11時の直前、そのバスに乗って帰ってくる。
ショーンはほっとしたように息をつき、両手でごしごしと顔をこすった。それから、疲れた背中を丸めるようにして寝台を出た。
「すみませんでした・・・すぐタオルを取ってきます」
「ショーン」
「はい、旦那様」
肩越しにのろのろと振り返った顔は、やはり憔悴し、青ざめても見えた。
「なんでしょうか」
「私の足が治るまで、という約束だったな」
「・・・はい」
ショーンは部屋の中央で裸のまま立ち止まり、くるりとこちらを向いた。普段から内気な彼にしては、意外なほどためらいのない仕草だった。
もっとも、いまのディヴィッドにそんなことを気にしている余裕はなかった。
「もしも私が、続けて雇いたいと言ったらどうする?」

数秒、ショーンは答えなかった。静かな目でディヴィッドを見つめていた。
それからぺこりと頭を下げて、答えた。
「いいえ、旦那様。お言葉はありがたいですが、最初の約束のとおりにしてください」
その夜初めて、彼が自分のために出した要求だった。







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今夜はノーコメント!
20040313
20040316あがきの訂正。