* fragile/57 *

こうしてしっかりと抱きしめると、ショーンの身体や髪からは、埃っぽい夏の日差しのにおいがした。
かすかな汗と、夏草の刺激臭。
普通なら不快に感じられるはずのそんなものすら、いまのディヴィッドには愛おしくてならなかった。
シャツ越しに彼の体温を感じる。胸の奥で心臓がトクントクンと鳴っている。金茶色に日焼けした肌の下を流れる血が、彼の身体の奥から熱を運んでくる。
夢の中で抱いた彼には、そんな熱も体臭もなかった。
やっと生身のショーンをつかまえたのだという実感が、ディヴィッドの胸を苦しくさせた。
そして、苦しいのは胸だけではなかった。


* * *


ディヴィッドはショーンの髪を引いて顔を上げさせ、眩しそうに眇められた瞼の上にキスをした。淡いバラ色に紅潮した頬にも、高く通った鼻梁の上にも、そしてしどけなく半開きになった唇にもキスをした。そうしなければ、とても気持ちがおさまらなかった。
胸にもくもくとわき上がってきたなにかに、心臓をつぶされてしまうのではないかというほど苦しかった。
耳元で、血がゴウゴウと鳴っている。
「んっ・・・」
熟れたスモモにかぶりつくような勢いでむしゃぶりつかれて、ショーンは甘く呻いた。ディヴィッドはその声も呼吸も、すべて漏らさず奪いたかった。
腰から上をテーブルに押さえつけるように上から体重を乗せ、なおも顔中に口づけを降らせていると、ショーンが苦しげに首を振った。弱い蝋燭の光を吸って、明るい色の髪がキラキラ光った。反らされた喉元の白さは夜目にも眩しかった。
「旦那様、だん・・・」
ショーンのか細い声がなにか訴えようとしていたが、ディヴィッドはその弱々しい抗議にはかまわず、彼のシャツに手をかけた。屋敷では見たことのない、くたくたに古びた綿のシャツだった。
小さなボタンを外すのがもどかしく、指先でつまんで、そのまま引きちぎって床に捨ててしまった。ボタンを留めていた糸も傷んでいたのか、造作もなかった。
するとショーンがアッと声を上げて、床にとんだボタンの行方を目で追った。
愛着のある服だったのかと思ったが、もう遅い。ディヴィッドは舌打ちをして、たまたま手に触れたガラス瓶をテーブルの向こうへ投げやった。ガシャンと派手な音がして、ショーンの目が思わずそちらを向いたので、ほっとした。

ボタンなら後で一緒に探してやってもいい。服ならいくらでも新しいのを買ってやる。
そういった、なにか優しいことを言ってやりたかったが、やはり言葉にはならなかった。
甘い囁きや、気の利いた口説き文句など、これまでのディヴィッドには必要ないものだった。
恋はいつも向こうからやってくるもので、ディヴィッドは目前に差しだされた花を受け取るように、それをつかみ取りさえすればよかったのだ。
彼の思い通りにならないのは、ショーンだけだった。

くたびれたシャツの襟首に手をかけ、一気に引き裂くと、残りのボタンがバチバチとはじけて飛んだ。ショーンはディヴィッドのほうを見ないまま、ぎゅっと目を瞑った。破れたシャツの間に鼻先を突っこむようにして、ディヴィッドは彼の肌に吸いついた。
日に灼けていない、クリームのような皮膚。その下にはきっと甘いゼリーが敷かれているに違いない。そういう弾力だし、下に敷かれている肋骨の感触までが舌に触るほど柔らかい。この手触りが、ディヴィッドはとても好きだった。
ディヴィッドはようやく自由になった膝で、ショーンの両足を割った。そのまま後ろへ倒そうとしたら、さすがに嫌がられた。
「だ、旦那様、背中が折れます・・・!」
「上に寝ればいい」
大きなテーブルだ。散らかっている食器を払い落とせば、それくらいのスペースはある。
ディヴィッドは彼の腰を抱えて、テーブルの端に座らせた。急にバランスを崩したショーンが慌ててディヴィッドの首にしがみつくと、まだ回復しきらない腿の筋肉がさすがに震えた。
「暴れるな、ショーン」
「ちが・・・待ってください!」
「待てと言われて、待つやつがいるのか?」
軽口を叩いたつもりが、本気の口調になった。
テーブルの端に尻だけ乗せたショーンのつま先が、膝のあたりでぶらんと揺れた。まだ体勢が安定しないので、ショーンはディヴィッドの首にかじりついたまま動けないでいる。荒い息がディヴィッドの首筋をかすめた。
「大丈夫だ。力を抜け・・・」
「・・・は、はい」
このテーブルは簡単にはひっくり返らないから、後ろへ体重をかけろ。・・・というつもりで言ったのだが、その言葉を聞くとショーンは逆に、ますますぎゅっと力をこめて、ディヴィッドにしがみついてきた。
ショーンの体重がまるごと預けられてくると、予期していなかっただけにディヴィッドは後ろへよろめいて倒れそうになった。急いでテーブルの端をつかみ、ようやくのことでショーンの尻を完全にテーブルに乗せてしまうと、ほうっと安堵のため息が勝手にこぼれた。それを耳ざとく聞きとがめたショーンが、自分のした無茶に気づいて不安そうな声を出した。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
ぶっきらぼうに答えながら、ディヴィッドはシャツの残骸とサスペンダーを彼の肩からむやみに払い落とし、普段は遠慮している首筋のあたりに派手な吸い痕をいくつもつけてやった。きっと文句を言われるだろうと思ったのだが、今夜のショーンはそうしなかった。
ディヴィッドはそろそろと手を伸ばし、彼の足の間に触れてみた。
ゆったりしたズボンの下に硬い感触を得て、唇が自然に微笑の形になった。

「や・・・やめてください、旦那様!」
ショーンが叫んだのは、ディヴィッドが突然床に膝を突いて、彼の股間に顔を近づけたからだ。ディヴィッドは彼の抗議には取り合わず、さっさとズボンの前を開いてしまった。
「旦那様、降ります・・・降ろしてください」
「うるさい、動くな」
「旦那様!」
ショーンの声はもう、懇願というよりは泣き声に近かった。宙に浮いた足を中途半端にばたつかせて、結果、ディヴィッドの顔を両膝の間に挟みこむ形になってしまう。ディヴィッドは彼の足の間でニヤリと笑って、すでに半勃ちになったものを下着の中から引きずり出した。

こうするのは、初めてではなかったはずだ。
確か、最初のときには舐めてやったような気がする。

もちろんショーンがするようには上手くないだろうが、などと考えながらディヴィッドは、茂みの中で揺れているものにぱくりと食いついた。まだあまり大きくなっていなかったそれは、ディヴィッドの口腔に迎え入れられた瞬間ビクリと跳ねて、急激に膨張した。
あ、あ・・・とやるせない声を上げて、ショーンがディヴィッドの頭に両腕でしがみついてくる。
口の中でむくむくと膨れあがるものの勢いを楽しみながら、ディヴィッドは彼の淡い体毛を指先に絡め、そのあたりの敏感な皮膚を軽く引っ掻いた。ふたつのクルミのように下の袋を手のひらに握り、揉むように転がしてやると、ショーンの膝がじたばたと暴れた。耳のすぐ横なのであまりいい気持ちはしなかったが、ショーンが感じている証拠でもあると思えば楽しくもあった。
ぴちゃぴちゃと、子どもが棒飴を舐めるようにわざと音を立ててしゃぶってやると、ショーンの下腹がビクビク震えた。
「いいです、もう・・・やめてください」
頭上から、濡れた声が降ってくる。まるで抑止力をもたない、甘い掠れ声だ。ディヴィッドは喉の奥でくつくつと笑って、いったん彼のものを吐き出した。
「やめてほしいだと? こんなにしてか?」
べたべたになった唇を拭きもせず言ってやると、ショーンは途方に暮れたような顔をした。
ディヴィッドの手に握られているものは、すっかり硬く張りつめている。
口では嫌だ嫌だと繰り返すくせに、今夜の彼の反応は信じられないほど素直だった。
「ショーン、おまえはたいした嘘つきだ」
「嘘なんか・・・」
「いい加減に自覚しろ」
笑いながらディヴィッドは彼の頭を引き下げ、その嘘つきな唇をまたキスでふさいだ。
甘く、深く舌を絡めてやると、心なしか嬉しそうにショーンも応えてくる。かすかな水音がディヴィッドの劣情をますます煽った。
「ショーン・・・」
ディヴィッドは自分も着衣を緩めながら、テーブルの上の邪魔な食器をまとめて脇へ払いのけた。その意図に気づいたショーンが、まさか、とばかり声を上げた。
「だ、・・・ここでですか?!」
「嫌か?」
「嫌です!」
ショーンは激しく首を振った。
「こんな、台所なんかで・・・!」
「では、どこでならいいんだ?」
ディヴィッドは自分のタイを引き抜きながら、不機嫌そうに聞き返した。
あまり待たされずに済むならどこでもいい、と思ってはいた。








■INDEX■ ■BACK■ ■NEXT■


コラ〜〜!! だらだらヤッてる場合じゃないぞ!
(<オマエがな・・・)


2000511