* fragile/6 *
翌日、ディヴィッドは昼過ぎまでずっと自室に閉じこもって過ごした。
まずしたことは、ショーンの週給を調べることだった。
それから自分の管財人に手紙を書き、その額を倍にするよう指示を出した。
たぶん管財人からは、”なにかの間違いではないのか”というような問い合わせがくることだろう。厳格なかの老人とはディヴィッドの父の代からのつきあいであるだけに、それを考えると多少気は重かった。
だが、どうしようもないことというのはどこの世界にもあるものだ。
* * *
この日は朝食も、また昼食も二階の部屋へ運ばせてとった。ショーンが来てからはなかったことだ。
昼食を給仕した執事が心配げな顔で
「どこか、お悪いのではございませんか? 旦那様」
と伺いを立ててきたのを、ディヴィッドはあっさり一笑に付した。
「そんなふうに見えるか?」
「いえ・・・」
「私はなんともない。今日は事務が立て込んでいるだけだ」
「さようでございますか?」
「当たり前だろう。気にしすぎるぞ、おまえは」
そう言いながら、まだ温かいプディングを口に運んだ。
実は、それを運んできたのがショーンだったので、ディヴィッドは舌打ちをしたいような気持ちになったのだ。
彼を少しでも休ませてやろうと思って、今朝は一度も呼ばなかったというのに。
銀のトレイを捧げ持って入ってきたショーンは、どこかぎこちない様子で歩いていた。顔色もすぐれない。
ディヴィッドの傍らに控えていた執事が、渋い声を出した。
「ショーン、どうしたね?」
「え、どう・・・とは?」
「具合が悪そうじゃないか。まさか例の流感にでもかかったんじゃないだろうね?」
「いえ、違います」
テーブルの上にそっとトレイを置いて、ショーンは答えた。慎重に視線を下げて、ディヴィッドの顔を見ないようにしながら。
「今朝、ちょっと足を捻ったので。たいしたことはないんです」
「ますます困るじゃないか」
執事は憮然とした表情になった。
「旦那様のお世話はちゃんとできるんだろうね?」
「はい」
「それならいいが・・・気をつけてもらわんと」
「よさないか。食事がまずくなる」
ディヴィッドが不機嫌そうに口を挟んだので、執事は慌てて主人を振り返った。
「旦那様、申し訳ございません。私がこれをご紹介いたしました手前、つい気になりまして」
「ああ、わかった。・・・行っていいぞ、ショーン。夕食の前に呼ぶ」
ひらりと手を振って見せると、ショーンはやはり目を伏せたまま、ゆっくりとした足取りで部屋を出ていった。足を傷めた、とはうまい言い訳だ。
彼の気配がドアから遠ざかるのを待って、ディヴィッドは執事に声をかけた。
「・・・昼から、少し休ませてやれ。人手は足りているんだろう?」
「はい、旦那様」
そう答えた声は平静だったが、グラスに水をつぐ手が一瞬止まった。
日頃、ディヴィッドは使用人の体調になどほとんど関心のない主人だった。そういったことはすべて執事に任せきりにしていて、なんの不自由もなかった。
だが、あえて今日は彼の権限に口を出した。
昨夜は彼にそれだけのことをした、という自覚があったからだ。
* * *
ディヴィッドがようやく果てたとき、ショーンは気を失っていた。
すっかり日は暮れて室内も暗くなっていたが、ずるり、と彼の中から引き抜いたものを見下ろすと、血と精液とがまだらにまつわりついているのがはっきりとわかった。
「ショーン? ショーン・・・」
ひたひたと頬を叩くと、青ざめた瞼がかすかに震えた。その目尻に光っているのは涙の名残だ。
彼に苦痛しか与えられなかったことはわかっていたが、こうしてその証拠を目にすると途方に暮れるような気がした。
やがてショーンはうっすらと目を開けて、苦しそうにディヴィッドを見上げた。
ディヴィッドは黙ったままでその目を見つめ返し、汗の冷えかけた頬に手をあてた。まだ拭ってもいなかった彼自身がショーンの腿に触れて、皮膚を薄赤く汚してしまった。
「・・・次は、こんなにひどくはしない」
そう言われたショーンが、反射的に顔をしかめた。”次”がある、と知らされたことが辛かったのだろう。
だが、どう思われようがディヴィッドはもう、彼を手放すつもりなどなかった。
この伸びやかな四肢をもった、緑の目の青年を。
「また来週、来い。おまえが楽になるようなものを、なにか、持ってくるといい。・・・痛い思いをさせて、悪かったな」
しわの寄った眉間を指で撫でながら言うと、ショーンはゆるゆると目を閉じた。肺にため込まれていた空気が、ふうっと吐き出される気配がした。
「はい、旦那様」
疲れ果てた声が、そう答えた。
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今週末はあぶなかったですが、いちおう更新できました。
しかしなあ、この若豆はイタイケすぎて、もう恥ずかしくって。
某ちみ先生じゃないですが、「呪われろ、呪われろ〜」とか
言われそうで怖いよ、あたしゃ。
20030803