* 彼について *

彼の瞳が美しい緑色をしていたことに、あのころは気づきさえしなかった。
しなやかな金髪に指を絡め、身体の奥底から突き上げてくる激情のままに唇をむさぼることはあっても、彼の眼差しの底を覗き込むことはしなかった。
そこに何らかの表情が浮かぶことを期待しなかったからだ。
彼は誰の目から見ても模範的なクラリックだった。私自身がそうであったように。

* * *

「く、あ・・・っ!」
彼はいつも、必死に声を殺そうとした。苦しそうな表情さえ見せまいと、シーツに顔を伏せたまま受け入れたがった。その理由も、今となってはわからない。
そのころの私には、彼がなにを考えているかなどどうでもよかったのだ。ただ相手をひどく傷つけないよう、そして自分の身体が満足するのと同じだけ相手を満足させることだけを考えていた。
「・・・まだきついか、パートリッジ?」
早く早くと急かす欲望をなだめすかし、ゆっくりと侵入を試みながら訊ねた。肩を押さえつけた手の下で、ぴくりと腱が動いた。シーツをきつく掴みなおしたのだ、とそれだけでわかった。
はあ、はあと二度呼吸を整えてから、彼は首を横に振った。普段はきれいに撫でつけられている髪が、糊のきいたシーツに打ちつけられて乾いた音を立てた。
「いや、かまわない」
くぐもった声が答えた。そうして私の体重をかわすようにしながらゆるく片膝を折り、できるだけ負荷のかからないように迎え入れる体勢をとろうとする。私はそれを許して、浮いた彼の腰の下へ片手を滑り込ませた。柔らかい体毛をかき分けて確かめると、やはりそこは萎えていた。
「パートリッジ、よくないならやめてもいいが?」
「かまわないと言っている」
丁寧なつもりで訊いたというのに、彼の返事はにべもなかった。それならそれでいい、と自分を納得させて、膝の裏に手を添えてさらに開かせた。労る気持ちはあったが、中途半端に期待させられたままでは欲望のほうが止まらない。
ぐっと力を込めて押し入ってゆきながら、片手に握りこんだ彼のものを指先で撫でた。この行為は互いに満足のゆくものであるべきだ。
私たちの間に、愛情がないなら。
反った背に掌をあてると、彼の肌は薄く汗ばんでいた。どうにか奥まで辿りついてその背に覆い被さると、彼はほっとしたように息をついた。どくんどくんと、血流の鳴る音がしている。彼のものだか自分のものだかわからなかった。
ふと、彼が私の名を呼んだ。ひどく低い声で。
「もうすこし・・・そのままでいてくれ」
すぐにも動きたいと思っていたのに、私はその要求を聞き入れた。
なぜそうしたのか、そのときにはわからなかった。

彼をセックスの対象に選んだのは、もっとも自分に近い存在だと思ったからだ。
ずっとともに暮らしてもいいと考えていた妻を失い、ふと気づくとほかには誰もいなかった。
慈悲深いプロジウムは、正も負も問わずに激しい感情を忘れさせてくれる。
「あなたには決まったパートナーがいるのか? もしいないなら、私との相性を試してみる気はないだろうか?」
そう言ったとき、パートリッジは拒まなかった。
その理由を私は考えなかった。

* * *

実際に見たことは一度もないはずだった。
彼は、私の前ではいつも冷静なクラリックの顔をしていた。
私の銃弾に撃ち抜かれるその直前まで。

なのになぜだか今は、彼の笑っている顔ばかりが浮かんでくるのだ。



* FIN *





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萌える心の命ずるまま、大急ぎで書いたので雑いとこは目をつぶってください。
オノさん、きっかけを与えてくださってありがとうございます。<(_ _)>
20030706