* やさしく愛して *
週に一度、使用人たちに夕方からの外出許可が与えられる晩がある。
料理番は主人のために冷たいサンドイッチを作り、執事は特に念を入れて火の始末と戸締まりとを見て回る。若い女中たちはおしゃれに余念がない。
それから、教会の鐘が夕刻を知らせると同時に彼らは出かけていくのだ。ある者は離れて住んでいる家族のもとへ、またある者は6時のバスで町へと。
そしてある者は、主人の寝室のドアを叩く。
* * *
「・・・昼間、看護婦がきていただろう?」
ショーンの手にグラスをおしつけながら、この屋敷の主人が言った。琥珀色にきらめく液体が、ランプの光を映してたゆたっている。彼はショーンにいい酒を飲ませてやるのが好きだった。
「背中をマッサージしてくれた。ハーブオイルで」
「気持ちよかったでしょう?」
「まあまあだったな。試してみるか、ショーン?」
「えっ?」
「彼女が置いていったんだ」
にやりと笑ってディヴィッドは、茶色の小瓶を指先につまみ上げた。けれども彼がただのマッサージなど考えていないことは、いたずらっぽい光の浮かんだ目を見れば一目瞭然だ。
ショーンはごくりとひとくち酒を飲み込み、お仕着せのシャツの襟元に滑りこんでくるディヴィッドの指を眺めた。
とろとろと背中にたらされたオイルは少し冷たくて、ショーンはびくりと身を震わせた。手入れの行きとどいた指先が脊椎の上をなぞる。大きな掌でゆっくりと背中じゅうを撫でられたかと思うと、つるりとその手がすべって胸へ回された。オイルにまみれた指で軽くつまむように愛撫され、そこはたちまち尖り勃った。こんなことにはすっかり馴らされているはずなのに、羞恥のためかショーンは身を捩ろうとした。
くすくすと、後ろから首筋に押し当てた唇で笑う。
「ショーン、リラックスしろ」
そう言いながら彼は片腕を引き戻して、ショーンの背筋を上からゆっくりとたどった。ひとつひとつのくぼみを確かめるように撫で下ろしてゆき、やがて腰のあたりで動きを止めた。その腰がもどかしげに少し浮きかけたが、太腿の上にまたがっているディヴィッドが体重をかけて押さえこんだ。
肌に馴染みのいいオイルは、擦りこまれるといつのまにか消え失せてしまう。ディヴィッドはてのひらにオイルをこぼし、両手を何度か擦りあわせてから、その手をショーンの足の間に後ろからそっと滑りこませた。
「・・・っ!」
なめらかな、オイルの塗られた背がしなる。酒のせいか別の理由でか、首筋も耳朶も血の色をすかして赤く染まっていた。たぶんディヴィッドの指が今触れているところも、同じような色をしているはずだ。周囲の襞を押し伸ばすように愛撫し、指の腹でたっぷりと揉んでやってから、ぐいと指を差し入れた。まだ激しい抵抗があった。
「力を抜け、ショーン。リラックスするんだ・・・」
耳朶を甘噛みしながら囁くと、切なげに首が振られた。無理だ、とこわばった全身で訴えている。浮いた肩胛骨にうっすらと汗が光った。オイルの名残だったかも知れない。
「ショーン、ゆっくり息をして・・・ほら、大丈夫だ」
オイルの滑りとショーンの努力を借りて、二本目の指がゆっくりと飲み込まれていった。その指を中で丸めて、ぐるりと回してやる。とたんにショーンの身体がバネのように跳ね、欲しかった反応を得られてディヴィッドはニヤリと笑った。今夜は後ろだけで達かせてみたかったのだ。
だが、ふと気がつくとショーンの肩が小刻みに震えていた。
まさか泣かせたかと慌てて指を引き抜き、シーツに伏せていた顔を上げさせようとすると、ショーンは頑強に抵抗した。だが散らばった髪の間から見える目尻に、うっすらと光るものが見えた気がして、ディヴィッドは度を失った。
「ショーン? ・・・ショーン」
なだめる声音で呼んだが、答えがない。ますます不安に駆られたディヴィッドは彼の上から退き、今度はゆっくりとショーンの身体を裏返した。
ショーンは両腕をあげてすっかり顔を覆ってしまい、やはり表情は見せようとしなかった。
「ショーン、そんなに嫌だったのか?」
途方に暮れて、ディヴィッドは訊ねた。こくり、と頷かれて、なんともいえず惨めな気分になった。
今夜はこのまま、皆が帰ってくるまで彼を抱きしめるだけでいようかとさえ思い始めていた。
ところが。
「・・・キスもせずに突っ込まれるだけなんて、嫌です」
独白にも似たその言葉は、ディヴィッドを有頂天にさせるに充分だった。
* FIN *
■BACK■
蒼瀬眠月さま(
がけろま混沌)と土岐野みゆきさま(
HEAVEN’S GATE)に捧げます。
元ネタ。土岐野さま制作の大傑作嘘予告です。(笑)
なっぱはハム初心者なので、明らかな間違いはご指摘ください。
(というか、これ書くこと自体間違ってる気がしてならない)
20030712