桜、咲く日

また今日も同じ日々が繰り返される。

朝、目覚めた時、ふとそんなことを思った。
少し眠い目をこすりながら、あしばやに学校へ向かう。
まるで、僕は何かに追いかけられているかのように。

遠い昔、僕はただ一度のあやまちを犯した。
この僕ではない僕が。
それは、愛しすぎるがゆえのできごと。

繰り返される。
なんのへんてつもない日々。
何か刺激が欲しいと思うが、
こんなことがきっと、幸せなんだろう
と、自分にいいきかせながら、歩いている。
駅へたどり着く。

朝がはやいせいか、電車はすいていた。
毎日同じことを考えている。
そんな自分を笑いそうになる。
ふと電車の外の景色に目をむけてみる。

流れる景色のなかで桜が僕の視界にとまる。
薄紅の小さな花びらが舞っている。
可憐のなかに、儚さがみえたような気がした。
僕の脳裏に焼き付く。強く・・・。
桜、キミのことを思い出した。
キミは、僕のことをどう思っているのだろう。

桜が咲き始めた頃、僕らは出逢ってしまった。
無邪気な笑顔。どことなく悲しそうな。
そんなキミは、突然いなくなるね。
僕が、心配していることなんて知らずに・・・。

この大きな街。
それは、とても孤独な場所。
すれちがう人々を横目に、僕は自分が消えていきそうな錯覚に、陥る。

 なぜだろう

眠気のせいなのか。それとも違う何かなのか。


九時十五分、僕は教室にいる。
いつもと同じ時間。

十時四十分、授業が始まる。
まだ、少し時間がある。

誰もいない教室で僕はひとり、窓の外を見ながら、何かを感じている。

何か・・・を。

忙しい時間の中では感じることのできないもの。

そして、僕は不安を覚える。
明日への不安、未来への期待。
いつの日か、この僕に終わりがくる。
いつの日か、この僕は僕でなく始まる。
僕がこの僕であるように。
そう、それは誰にもわからないこと。
そう、それは誰もが知ってはいけないこと。
あのひとだけが知っている真実。

僕は今を生きている。このときを歩いている。
遠い未来へと、歩き続けていく。

いくつもの心を重ねてキミと出逢った。
必然的に。僕らはそういう運命だった。
やすらぎという名のキミ。
そっと、キミのことを想う。そっと、そっと・・・。

僕はキミにつつみこまれていく。
キミはマリアのように静かに微笑む。

僕は傷ついた羽を休める。飛ぶことに疲れてしまったトリのように。
僕は無邪気に語り続ける。幼い頃いつも一緒だった母親を思いだしながら。

僕はキミに心を開く。他の誰にも開くことのできない閉ざされた心を。
キミなら、かたく結ばれた心の糸をほどくことができるはずだから。

人々の話声、足音、イスをひく音が聞こえる。
授業が始まる。
突然、僕は現実に引き戻される。

キミは消えていく。

僕は、また浅い眠りについていたらしい。
いつもキミに逢いたくて、朝早くここにくる。
幻覚という名のキミ。

「最後にもう一度だけ・・・」

そう誓ってここにくる。
でも、キミは僕に最後を与えてくれない。
いつも僕をひきとめていく。
無邪気な笑顔で、子供のように。

僕自身が最後ときめた、あの日。
キミはマリアではなくなっていた。
光と影。
僕が、僕であることの証を奪いにきた。
そう、本当の姿を見せはじめていたんだ。 

 死神。

キミは、窓の外から僕を手招く、マリアのように。
僕は、遠ざかるキミを追い続けていくだろう。
僕がそこから一歩でも、踏み出した途端、キミは本当の姿に戻る。

キミが本当に望んでいるのなら、僕はキミを受け入れる、静かに。
そして、僕はそっと強く目を閉じる。
醜いキミの姿を見ないように。

死神としてのキミが与えてくれる最後。
僕は、深い深い眠りに堕ちていく。

思い出す。
遠い昔、僕はキミをあやめた。
愛しすぎるがゆえに。
僕だけのキミにしたくて・・・。

死神のキミは、次の僕へとまた寄り添ってくるだろう。
いままでのように・・・繰り返す。
マリアではない、他の誰かになって。

キミと離れる明日への不安。
いつかめぐりあえる未来への期待を胸に。
キミだけのために生きる。

僕は、また同じことを繰り返す。

桜が咲く頃、キミと出逢うために。