2.不思議なメッセージ1999年12月のクリスマスイブの夜だった。天柿は一人寂しく、小さいケーキを買ってきてシャンパンを開けた。 「今頃、裕子と娘の恭子はどうしているだろか、恭子はもう、20歳になるんだなぁ・・・」 天柿は目を閉じ、物思いに耽るようにシャンパンのグラスを手に取った。 裕子とは、その後も連絡が取れなかったが、一日も忘れたことはなかった。 その夜から、不思議なことが起こるようになってきた。 天柿が寝ていると、必ず同じ夢を見るのだ。どこか遠くの寂れた海岸にいつも一人立っている。 波の音が聞こえる古びた洋風の家に、ぼんやりと立っているのだ。 3日続けて同じ夢を見たとき、ふと目が覚めた。天柿はタンスが青白く光っていることに気がついた。 「ど・どうしたんだろう?何か恐ろしいことでも起こるのかな・・・」 怖かったが思い切って、タンスの引出しを開けてみた。 すると、光っていたのは昔、不思議な老婆に貰った、周りが革でできた小さな箱だった。 いつの間にか小さい箱のことは、すっかり忘れていた。 今まで、どんなに開けようとしてみても、決して開けることのできなかった箱の横に小さな、突起が出ているではないか。 天柿は恐る恐る箱を手に取り、突起をゆっくり押してみた。 すると箱は簡単に開いた。 中には色あせた封筒と金属のような物が入っていた。 「何が入っているんだ・・・う〜ん!?、これは何かの鍵かな?」 天柿は封筒を手に取り透かしてみた。 箱の中に真空管のような物が、あるのが目についた。 「これは小さな電気部品だな、何に使うのだろう?」 さらに、電気部品を包むかのように、折りたたんだ古びた地図のような物もあった。 「これは地図か?、いったい何処の何の地図かなぁ・・・」 天柿は想像していたよりは、たいした物でないと思い、そのまま寝てしまった・・・。 雨戸の隙間から、朝の光が寝床の天柿の顔に入り込む。 小鳥の鳴き声がする。 青い光、小さな箱、あれは夢なのか。 ・・そして、この日から天柿の人生は、大きく変わろうとしていた。 「いつの間に、寝てしまったのだろうか・・・」 気がついてみると、天柿は布団の中にいた。そばには、忘れかけていた小さな箱があった。 「やはり、夢ではなかったのだな・・・・」箱を改めて開けてみると、その中には家の鍵が1個と、変な形をした鍵のようなものが1個、見たこともないような、電子部品が2個、さらに地図が一枚入っていた。 地図の下の方に、1999年の年が暮れ、2000年になったら、地図の場所に行くよう書いてあった。 「この箱が開く時は、1999年の12月終わり頃のはずだ。私は、ある事情により、この時間とこの場所に同席することが出来ないが、この箱をもって地図の場所に行ってもらいたい。 地図の場所は、宮城県松島の近くの海岸沿いにある、古い洋風の建物だ。 この建物の鍵は箱の中にあるはずだ。 家の中に入ると、応接間の奥のほうに小さい龍の置物がある。 この龍の鼻の所を指で押してくれ、この龍は君の指紋に対応している。 他の誰が触っても、決して何も起こらないが、君が触ると、もう一つの扉が開き、地下に入る入り口が見つかるはずだ。 その中を進むと、行き止まりに同じ龍の置物がある。 それを同じように3箇所進むと、最後に大きな扉が見えるはずだ。 その右側に『Welcome』と書いたプレートの下に、小さい溝がある。 箱の中には、もうひとつの鍵のようなものがあるはずだ。 それを溝に入れると扉が開く・・・ なお、この事は、決して誰にも言わないように。 扉を開ければ全てがわかるはずだ」 こんな具合に書いてあった。 「う〜ん、これは、いったい何だ・・?、不思議なメッセージだけど・・・一応、念のため、確かめに行ってみるか・・・・」 天柿は、初めは迷ったが、もしかしたら、平凡な人生から脱皮する大転機になるのでは・・と考え行くことにした。 次の日会社に行き、翌年の1月12日まで一週間の休暇申請を出した。 部長は天柿を見上げると、ニヤニヤ笑いながら、「天柿君、どうしたのかね?土日も会社に出てきて、一年中仕事漬けの君が、年始に一週間も連続で休みを取るなんて・・・あれかね?いい女(ひと)でもできたのかな?」 「そ・そんな、ことはないですよ・・ただ、この辺で区切りをつけて、充電でもしてみようかと・・・会社に入ってから連続した休みは取ったことないし、いいでしょうか?」 天柿は部長の思いがけない言葉に、ちょっと照れながら申し出た。 「ああ、勿論だとも、僕も君に一度、長期の休暇を取らせてあげたかったのだよ。どうかね、君の仕事は僕が何とかするから、この際、1月いっぱい休んだらどうかね」 部長は笑いながら、天柿の肩を叩いた。 「あ・有り難うございます。・・・でも、1月いっぱいなんて、何をしたらいいのかわかりませんから・・・・」天柿は丁重に断った。 部長の森田健次(50歳)は、日頃から、土日に会社に出勤する天柿を心配していたのだ。以前から休暇を取るよう勧めていたのだが、仕事が趣味の天柿は聞く耳を持たなかったのだ。 天柿は、これから自分自身の行動で何が起こるのか心配もしたが、現状の生活にない何か新しい発見が出来るのでは・・と考えると、少年ように気分うきうきした。 それは、中学校2年のとき、天柿は母方の親戚の『飛騨高山』まで初めて一人旅をしたことがあるが、その出発前の気分と同じだ。 「こんな思いをするのは、何十年ぶりだろうか・・年明けの出発が楽しみになってきたなぁ」 仕事納めのこの日、彼には珍しく残業もせず、帰途についた。 天柿は、期待と不安を胸に1999年を終え、輝ける2000年を迎えたのだ。 天柿は、ガソリンスタンドに行き、燃料を入れ、点検をしてもらい、洗車もした。そして、食料品を買い込んで、宮城県の地図を買い、翌日の出かける準備を整えた。 2000年1月2日は寒いが穏やで、さわやかな朝だった。 天柿は、問題の場所、宮城県松島へと向かうことになる。 天柿の待っているものはいったいなんだろうか・・・・ |