3.3Dバーチャルビジョン天柿は積み込んだ荷物を確認して、車に乗り込みエンジンを始動した。車が小刻みに振動した。 シートベルトを締め、燃料等のゲージ類を確認すると、ギアをドライブに入れゆっくりと車を発進させた。 天柿の住んでいる所は、京成線沿線の、千葉市内の新検見川だ、京成線『検見川駅』から歩いておよそ10分位の場所にある静かな住宅街にある。 近くには樹木に囲まれた、東京大学の広い芝生の丘陵地があり、クロスカントリー大会が行われたり、住民の憩いの場所でもある。 そんな環境のよい所に建てられた住宅を、天柿は7年前に購入した。 勿論キャッシュでだ。 仕事と貯蓄が趣味と言われているからこそ、現金で買えたということだろう。 天柿は国道357号線に入り、左手の『幕張メッセ』の高層ビル群を目にしてから、湾岸習志野インターから高速の東関東道に入った。 少し走ると、左手に東京ディズニーランドのビックサンダーマウンテンが見えてきた。 正月休みのせいか広い駐車場は、朝まだ早いというのに、もう車でいっぱいだ。 天柿は、帰宅途中の電車の中で、たまに見かけるディズニーグッズの土産を持った家族を見ると、心に何かやり残したという気持ちを覚え、親子別々に暮らす今の結果になったとは別に、一度は父親として家族の喜びいうものを、祐子と子供にしてあげたかった。 そして車は、まもなく東関東道の本線と分かれ、右に大きくカーブをとって首都外環道に入り、東北道を一路、仙台を目指した。 途中サービスエリアで休憩し、仙台市内のワシントンホテルに電話をし、今晩の予約を取った。 長時間、運転するのも久し振りなため、運転に飽きがきた頃だが、もう少しの距離まで、来ていたので、軽めの食事を取ってからまた走り出し、仙台南インターで一般道に降り、国道4号線から仙台市内へと向かった。 まだ正月2日目なのか道路は空いていたので、予定時間より早くホテルに着いた。 長時間の運転で疲れたのか、天柿はホテルでしばらく休憩することにした。 正月の三が日を一人で過ごすのは、とても寂しかった。 一度、正月に裕子と草津温泉で過ごしたことがある。あの時の、裕子の喜ぶ笑顔が、天柿には無上の幸せを感じたときだった。 「むかしを想い出してもしょうがないか・・・これから人生、何をするかだな」 少し感傷的になっていた天柿だったが、すぐ気持ちを切りかえた。 「よし!夕食でも行くか」腰掛けていた部屋のソファーから勢いよく立ち上がり、電話を取りフロントに外出することを伝えた。 外はすでに、陽が落ちていた。近くに寿司屋があったので、食事がてら軽く飲むことにした。 正月で人通りが少ないのに、入った寿司屋は意外と混んでいた。 落ち着いて飲んでいられないほど、客達の話し声がうるさかったので、1時間ほどで店を出て、ホテルに戻り、その日は早めに休むことにした。 その夜、天柿は家族団らんで、お正月を迎えている夢を見た。 ただ、妻の裕子と娘の恭子が後ろ向きになっていて、顔の表情は判らないが、楽しそうにしている笑い声だけが脳裏に焼きついた。 次の日、ホテルをチェックアウトすると、松島に車を向けた。 しばらく走ると右手に海が見えてきた。道路沿いには、松の木が目立ってきたのが見ためにも感じられる。 「いよいよ松島か〜、ここも何十年ぶりだろうか・・・」 天柿は夜間高校4年のとき、修学旅行で一度、松島を訪れたことがある。 平泉の『中尊寺』を見学した後、翌日塩釜港から船で松島へ向かった記憶がある。 その時、塩釜の旅館で世話になった母親似の女中さんが、なぜか港まで見送りに来てくれ、天柿と別れのテープを途切れるまで持ってて、懸命に手を振ってくれたことを思い出した。きっと、自分のことを手のかかる息子のようにだぶらせたのかもしれない・・と、天柿は始めはそう思った。 「もしかしたら、あの女中さん、行方がわからなくなった、自分の本当の母親だったかも・・・」 あの時、もっといろいろ聞いてみれば・・と悔やんだ。 あと、ほんの数キロで松島に着くという時、左側の小高い丘に、古い洋風の洒落た建物が見えた。 「あっ、あれ、もしかしたらあの建物が地図に書いてあるやつかもしれない。」 車を左側道端に止め、地図を確認したところ、どうやら間違いなさそうだ。 建物に入る路地を左に曲がり、20m位上ると、10台は止められそうな駐車場があったので車を止め、門の所まで行ってみた。 表札には、『岩森 信夫』と書いてあった。インターフォンを鳴らしたが、誰も応答しなかった・・・。 「どうしよう・・でも、ここに書いてある地図で間違いなさそうだし、入ってみるか・・・」 天柿は、恐る恐る門扉に手をかけたところ、自動的に門扉は開いた。 整備された石畳を歩き、玄関まで行き改めて、インターフォンを鳴らしたが、やはり応答がない。 別に泥棒に入る訳ではないのだが、なぜか周りが気になる。 小箱に入っていた鍵を取り出し、あたりを見回し誰もいないことを確認してから、鍵を鍵穴にいれ右に回したところ「カッチ・・」という鈍い音がした。 ドアのノブを回して、玄関の中に入った。 「ごめんくださーい・・・」と、2度呼んでみたが、中から返事がない。 「すみませ〜ん・・・どなたかいませんかぁ・・・・」 留守なのかなと思ったが、かまわず靴を脱ぎ、さらに中に入った。 なま暖かいジャスミンの香りがしたかと思うと、先ほどまで人のいた気配がした。 天柿は背筋がぞっとしたが、不思議なメッセージに書いてあった『龍』の置物を見つけ、書いてあるとおりに、鼻を押してみた。 「ゴゴゴォー・・・」と大きな音と共にリビングの後ろの壁が突然動き出し、地下に入る扉が開いた。 「も・もう後戻りはできない・・・よし!」一大決心して中に入った。 中は意外なほど暖かかった。 歩いてしばらくすると、行き止まりの壁があり、左隅に同じように龍の置物があった。龍の鼻を押すとドアが開き、更に進んだ。 「うーん?、かなり、地下に下がっているようだな・・・」 スロープは緩やかだが、降りているという感覚が感じられた。 3箇所扉を進むと最後に大きな扉があり、たしかに「Welcome」と書いたプレートの下の部分に、小さな溝みたいなものがあった。 天柿は思い出したように、バッグから鍵のような物を取り出し溝に触れてみた。 すると、大きな扉がゆっくりと開き始め、中から明るい光が差し込めてきた。 「うぉ!〜・・・・こ・これは、いったいなんだ!!・・・・・」 天柿は腰を抜かし、気絶しそうになったが、唾を飲み込み、ゆっくりと中に入った。 そこには、見たこともないような、機械類がたくさん置いてあった。 少し奥に、人が入れるほどの楕円形をした筒のような機械の横に、ガラスみたいな透き通った机の上に龍の置物があった。 メッセージには書いてなかったが、触ってみると、目の前に立体映像(3Dバーチャルビジョン)の男が現れた。 年齢は50歳過ぎだろうか、白髪の交じった長髪に髭面だが、穏やかな顔をしている。 「ようこそ、天柿 渋太郎君、やっと君に会うことができた。私は君から見ると、300年後の世界に住んでいる科学者だ。名前は、『岩森 信夫』という私の研究は時代を超越するため、悪用される恐れがあり、300年後の世界では、実験できなくなってしまった。そのため、日本でいえば昭和21年、ちょうど 第2次世界大戦が終わって1年くらい過ぎた頃の、日本の東北のこの場所やって来て、研究所を建て研究をしていたのだ。しかし、ちょっとしたトラブルで、君の人生を変えてしまった。 そこで君の少年の頃に戻り、メッセージの箱を届けたという訳だ。とりあえず、君の人生を元に戻したいのだが、これにはリスクが伴う・・・、詳しいことは後にして、そこの机の横に『on』というボタンがある。 それを押してもらいたい・・・」 と、科学者は鋭い視線をなげかけ、人差し指を机に向けた。 天柿が『on』のボタンに触れると机全体が、コントロール版に変わった。 「これから、何が起こるのであろうか・・・」天柿はまだ、あっけに取られていた。 「次に、オレンジ色の『study』を押してくれ・・・・」 すると、上から美容院にあるパーマをかける器具と似た、大きなヘルメットを半分にしたような物が降りてきた。 科学者は天柿に、その器具の所にある椅子に座るよう命じた。 「それを頭にかぶり、ヘルメットに付いているサングラスを目の位置に下ろしてくれ、やがてすべてが解るだろう・・・・」 それだけ言うと、立体映像の科学者は何処かへ消えた。 天柿は言われたとおり、ヘルメットをかぶり、サングラスを目の位置に下ろしてみた。すると、サングラスにいきなり宇宙空間が飛び込んできた。 最初はゆっくりであった星々のようなものが、物凄いスピードで駆け抜けた。 その後、隕石みたいのが次々と迫り来る物凄い恐怖に、思わず大声を出してしまい、何か意識が薄れていく感じがした・・・・・。 どの位、時間が経過したのだろうか、気がついてみると眠っていたのか、目が覚めた時にはヘルメットも消えていて、目の前のコントロールパネルだけがオレンジ色に光っていた。 時計を見ると5時間ほど経っていた。この間に、天柿は約50年分の勉強をしていたのだ。 先ほどの機械が天柿の脳に直接アクセスし、あらゆる情報の記憶がなされたのだ。 「なるほどそういうことだったのか、それじゃ早速行動を起こしてみるか」 天柿はコントロールパネルを軽快に操作し、その日は、来た道を逆にたどり、洋風の建物に戻った。 「今日は、1月の3日だったな・・・明日、一度千葉へ帰って見るか・・・・」 |