5.ベーシックタイム設定完了天柿は、地球に戻ってきた。他の天体にすぐにでも行きたい衝動にかられたが、タイムマシンのほかの機能もすぐにでも試してみたかったので、未来の世界に行くことにした。 「う〜ん、他の天体にも行ってみたいけど、タイムマシンは魅力だなぁ、とりあえず無難なところで、近未来にいってみようかな。」 タイムマシンのメニューモードを切り替えた。 コントロールパネルの色がグリーンに変わり、ベーシックタイムの設定のメッセージが表示された。 ベーシックタイムとは、タイムマシンをドライブするための基本設定である。 タイムマシンが、例えば、未来・過去に行ったとしよう、その時の時間が2000年1月20日の午後2時とした場合、この時間から、100年後の世界に移動して、一週間そこで生活したら、実際の天柿の体内時間は、2000年の世界に戻ってきた時は、2000年1月27日の午後2時+αになっているはずだ。 これは、人間の生態リズムを狂わせないためのものだが、これが機能していないと、どうなるであろうか・・・出発した時間と、帰ってきた時間がどうようになるのか。 一週間くらいの滞在では、ほとんど影響がないが、これが、1年、3年、30年となると・・・賢明な読者諸君は、もうお気づきのはずである。 ベーシックタイムの設定を起動した時から、未来のどこに行っても自動的に、天柿が過ごした時間が加算され、地球時間と変わらなく戻って来れるのだ。 アインシュタインの相対性理論では、例えば、双子の天柿がいたとする。 兄の天柿が超高速の宇宙船に乗って長期間、宇宙旅行に行ったとして、その間、弟の天柿が地球に残って兄を待つ、そこで、地球に帰って来た兄の天柿はどうなったか・・・。兄は弟より若くなったのである。 つまり、天柿は未来にタイムマシンで宇宙を超高速で移動すると、加速や減速で、タイムマシンには見かけの重力がかかる。そして、その見かけの重力によって、マシン内の時計は遅れてしまう。 すると、戻って来た現在の地球は、天柿が宇宙で過ごした時間より、進んでしまうのだ。それを防ごうというのが、ベーシックタイムの設定である。 「それでは、ベーシックタイムのスイッチをいれよう・・・・」タッチパネルに触れると、「この設定でよろしいですか?」というメッセージが表示された。 確認のパネルを押すと、横のベーシックタイムのパネルが『2000/01/15/10:02』と点滅した。次はドライブモードだ。 リアルモード・・・通常の運行モードでタイムマシンが移動する時、移動先では誰の目にも見えてしまう。 シークレットモード・・・移動先では、タイムマシン自体は、他の者からは見えないがその世界にマシンは実存する。 バーチャルモード・・・ちょうど映像を見ているように、移動先の世界の寸前にいるため、マシン船内からは外の世界は見えるが、実際の世界には実在しない。 通常は、バーチャルモードで移動し、安全が確認されると、シークレットモードでその世界を移動して、安全な場所にマシンを隠す。(他人には見えないが、マシンはその世界に実在する)まったく、関係ない場合はリアルモードにするのだが、このモードは安全のためほとんど使用しない。 「じゃあ、無難なところで、実験的に20年後の世界に行ってみようか・・」 天柿は、移動先を自分が住んでいた千葉市西部の、緯度140度02分、経度35度42分に設定すると、バーチャルモードで20年後の世界を目指した。 最初はかん高いエンジン音がしたが、すぐマシンは本当に移動しているのか疑うような静かな船内になった。 丸い小さな窓から外を覗くと、真っ暗な宇宙空間のようで、遥か先に光輝く星雲のようなものが高速で過ぎ去って行く。 「映画とかでは、タイムマシンが移動する時、周りが虹色に光ったり、空間がゆがむ感じになるけど、本当は宇宙空間を移動しているのと同じだな・・・周りに見える星や天体のようなものは、一体なんなんだろう・・・」 やがて目の前が、急に明るくなったので、マシンを空中から移動して地上を探索した。 「20年後の世界といっても、今とほとんど変わらない気がするな・・・もう少し近づいて調べよう」 天柿はバーチャルモードのまま、マシンを地表に近づけ、地上の酸素濃度、汚染濃度を測定した。 「あれ?現在(2000年)の世界より、20年後の世界の方が、綺麗だな・・・」 ますます悪くなる地球の環境汚染を、21世紀に入ったから、人間達はやっぱり考えたのだろうか。 マシンは地上に着陸した。 「とりあえず、安全が確認されたので、外に出てみよう」 天柿は2階の資料室に行き、20年後の貨幣を探し、当面の生活費を持ち出した。 「念のために、金地金を少し持っていこう・・・」 天柿は、携帯用の「ホームシステム」を時計代わりに腕にセットして、マシンをシークレットモードに設定して、マシンから降りた。 マシンは実際にはここにあるのだが、そばで見ても普通の人からは見えない。しかし、触れると何かの物体であるということは分かる。 ホームシステムで現在位置を確認すると、どうやらここは千葉の市川市らしい。 「う〜ん、江戸川の水も以前より綺麗になったようだなぁ・・・少し市内を歩いてみるか」 天柿は市川駅方面まで歩いてみた。 「2000年の世界とほとんど変わらないな・・・車は現在のものより洗練されたデザインだが、相変わらずガソリン車は走っているし、少ないけどディーゼルトラックも走っている・・電気自動車は普及しているのかな・・・参考にならないな・・・・」 デパートに入り、電気製品売り場にいくと、さすがに変貌していた。今のブラウン管テレビは見かけず、平面薄型テレビになっていた。 パソコンも更に小型化し、驚いたのは500グラムにも満たないその軽さだった。 有楽町にある、天柿が勤めている総合商社がどうなっているか、気になったので行ってみることにした。 電車に乗るため、駅で切符を買おうとしたが、自動販売機は少なくなっていた。 ほとんどの人は、何か携帯電話のようなものを、改札口を通る機械にタッチしながら通っていく。電車のデザインも、随分と洗練されているが、駅は昔とあまり変わっていないようだ。 目的地の有楽町に着き、商社に向かった。 東京のオフィス街でもある有楽町は、昔と比べ人通りが少なくなっている気がした。 天柿は商社があるビルを探したが、あるはずのビルに会社がない。ビルの守衛に聞いて見ると、すでに10年前に、大手町の方に自社ビルを建て営業しているという。 「そうか、きっと会社は儲かって、順調にいったんだな・・・」 天柿は、その新社屋ビルに行ってみようと思ったが、すでに森田部長は定年で いないだろうし、知っている人も少ないので、やめることにした。 10年後の世界だったら、部長もまだ勤めているだろうし、何よりも“自分”の立場はどうなっているのだろう・・・と天柿は思った。 すぐマシンに戻り10年前に行って会社を覗いてみたい衝動にかられたが、その“自分”がどうなっているのか、怖くてこれもやめてしまった。 20年後の世界は、天柿にとってこれといって、驚くものではなかった。 何か安心したのか、小腹が空いたので、近くのレストランで食事をとることにした。 「うむ・・、食事の味も2000年と変わらないな・・・・」 食事を済ませると、市川の江戸川河川敷に戻り、近くに人がいないのを確認してから、ホームシステムを作動させてマシンに戻った。 時間を2500年に設定した。 同じように、バーチャルモードで500年後の世界に移動を開始した。 時間は15分とかからなかった。2000年からすると500年後の世界だ。 今度は、2000年とは違いがある世界だろうと思った。 安全のため大気の確認と、汚染状況を調査したところ異常が認められなかったので、シークレットモードに変更し、調査を開始した。 500年後の世界はさすがに想像を絶する世界だった。 現在位置を座標チェックしたところ、東京あたりらしいが、都会の面影が一切ない。人間も道を歩いているが、何か無表情のような気がする。着ている服も妙な感じだ。 驚いたことに、地上には電柱はなく、家の形もみんなばらばらだった。 中には小さくしたピラミッドみたいな物もあれば、球を真ん中から半分に切ったような物、ただの四角、五角形の筒状な物等、様々な建物だったが、ビルみたいのがあまり見当たらない。 さすがにマシンの資料室にも、この時代の貨幣はなかったので、また金地金を持った。 天柿は20年後の世界に行った時のように、スペーススーツから現在の服に着替えた。 恐る恐る外に出てみた。 勿論、マシンをシークレットモードで隠したのはいうまでもない。 緑に囲まれた道を進むと、大きなドームのような建物が見えてきた。 中に入ってみることにした。 「どうやらここは、何かの資料館みたいなものだな・・・見たこともないようなものがたくさんある。私が岩森博士の機械で勉強したことも2300年までの世界のことだ・・・ここから先は全く分からない」 天柿がボーとして立っていると、突然、後ろの方から女の子の声がした。 「おじちゃん、変な格好しているけど、何をやっているの?」 「えっ!?・・・・・」 振り向くと、そこには10歳くらいの女の子が、白っぽい服を体全体にぴしっと身にまとい、笑いながら立っていた。 天柿は2000年の服装、背広姿だ。 この世界では奇異に写ったのだろう、とっさに天柿は演技をした。 「う〜ん?おじさんね、ちょっと頭を打ったらしく、記憶をなくしたみたいなんだよ・・・ここはどこかな?」 「そうなの?おじちゃん可哀想だね・・ここはねぇ、自治区の歴史資料館だよ、みんな昔の歴史を調べる時に来るんだよ・・・・」 「そうなんだ、じゃ〜、どうやったら調べられるの?おじさん、みんな忘れちゃった。はっはははは!」頭をかきながら、照れたふりをした。 少女に機械の操作を教わり、歴史をひもといてみることにした。 資料室のデータによると次のようになっていた。 2300年までのデータはある程度、勉強で分かっていたが、岩森博士が生まれ育った時代を最後に、後は不明だった。 2300年代に、大災害が二度起きたと資料に記されていた。 関東、東海大地震と富士山大爆発だ。 これは、2000年から予想され、恐れられていたことだ。 2400年になると、地球の地軸が何かの影響でずれ、大幅な気候変化が 起こった。そのため、地球以外の天体に移住した人が全人類の10%もいたのだ。 分かっていたこととして、21世紀後半に再び、悪化する環境汚染で、一時は地球も危なかったのだが、電波エネルギーの発明で、化石エネルギーからの変換がおこり、世界的に普及し、危機を免れた。 その後100年の間に、地球は再度整備され、平和な世界が戻っていたのだ。 資料を見ていて天柿は驚いた。2300年代の偉大な科学者として、岩森信夫の名前があった。 彼は、宇宙関係の偉大な功労者であり、彼の発明した宇宙理論により安全>に宇宙を旅行できるようになったのだ。 天柿が使用しているマシンは、機能は別としても、基本的な理論は受け継いでいるのだ。ただ、タイムマシンについては、どこを調べても出てこない。 きっと、岩森博士はこれを封印し、未来の博士は宇宙の研究に没頭したのだあろう。ただ、未来から過去に移動して、自分の人生を変え、タイムマシンの研究にピリオドを打たせ、歴史を変え、自ら20世紀にやってきたのだろうか。 「うむ、なんか複雑は気がするな・・・私の人生も同じようになるのだろうか・・・・」 天柿は資料館を出て、500年後の世界を見歩いた。 この世界では、交通機関は全て無料のようだ。バスのような細長い乗物がやって来た。見ると地上をすれすれに空中に浮いているようだ。 「これが地磁力エネルギーなのかな、うちのマシンにも使われている・・・」 バスに乗ると、天柿を見て乗客は皆、笑いながら何かを話しているようだ。 |