6.謎の天体Xバスの中の乗客は、天柿をみて笑っているのだろうか。何も、革靴を履き、ネクタイ締めた背広姿でなくてもよかったのに、これも生真面目な天柿の性格からだろうか。せめてGパンに、上はポロシャツにジャケットにすればよかったのに・・・と天柿は少し後悔した。 しかし、履いている革靴には、小型反重力装置と、補助ホームシステムが左右に埋め込まれていた。 腕時計型のホームシステムが何かの原因で壊れた時とか、不慮の事故で盗まれた時のためにセットされていたのだ。 この時代の人達は、何か特殊な金属の繊維で出来ているような、宇宙服を連想させる・・・ちょうど、SF映画の未来の人達が着ているような、そんな感じのスタイルをしていた。 乗客の若い女性の一人が、天柿に話しかけてきた。 「あのう、すみません、もしかして旅のお方ですか?」 「え!?・・そ・そうですが」何と返事をすればよいか一瞬、天柿はとまどった。 「映画で見た昔のようなスタイルをしているもので・・、ことによったら、どこか他の珍しい天体から、いらしたのかと思いまして・・・」 「じ・実は、そうなんです。他の星から来たんですけど、トラブルに巻き込まれてしまって・・」 「あら、それは大変でしたね、警察とかに行かれました?」 「えっ?まだですけど、この世界の星のことが全然分からなくて、とりあえずこのバスに乗っただけなんですよ・・」 「そうなのですか、このバスは自治管理局に着きますので、そちらのインフォメーションセンターに行けば、案内してくれます」 「どうもご親切に、有り難うございました」天柿は軽く会釈した。 女性は、微笑みながら、次のバス停で降りた。 「今の女性の話からすると、他の天体から旅行者とかが来ているのかな・・・」と、天柿は、つぶやいた。 しばらくすると、バスはゆっくり終点の自治管理局前に停車した。 女性が言ったとおり、中に入ると確かにインフォメーションセンターがあった。忙しそうに対応している受付の係の一人に尋ねた。 「あのぅ、すみません旅のものですが、警察はどちらでしょうか?」 「このカウンターを右に行き、突き当りを左に曲がり、西側出口を抜けると、そこが警察です」 受付の女性は、機械的な仕草で早口に教えてくれた。 「どうも、有り難う・・・」天柿は、教わった場所を反復してから、女性に軽く頭をさげ、その場を去った。 警察署を目指し歩き始めたが、途中、ふと思い出した。 「待てよ・・このまま警察に行くと、身分照会されて下手をすると捕まるかもしれない・・・」そう思った天柿は警察に行くのをやめた。 そして、近くのショッピングセンター>みたいな所を見つけたので、買い物をしようとした。 「あっ、しまった・・この時代の貨幣がない・・・金地金で何とかなるかな?」 試しに、ショッピングセンター横に「マネーチェンジ」と書かれたカウンターがあったので、聞いてみることにした。 「あのぅ、すみません、旅の者ですが、ちょっとしたトラブルでこの星に来てしまい、お金がないのですが」と言って、係の人に金地金を見せた。 「これは、金属の金なのですが、これを貨幣に換えることができますか?」 天柿の取り出した、100gの金地金を見て、係員は仰天し驚いた。 「おお!こ・この金属は・・・」 係員の大声に周りの人達も、びっくりした様子で、天柿を見つめた。 「お客様ただ今、上司を呼んで参りますので少々お待ちください」 更に、係員は、天柿の耳元に近づき、囁くように言った。 「ここはなんですから、どうぞ奥の部屋でお待ちになってください」と係員は、天柿の腕を掴むかのように会議室に招き入れた。 係員は奥の会議室に案内すると、椅子に座るよう勧めて会議室を出て行った。 会議室の中を見渡すと、壁に何処かの天体の写真らしいものが掛けてあった。 よく見ると、薄いパネルのようになっていて、画面が立体的に見えた。テレビのような物なのだろうか。横の壁には、何か角の生えた、頭は怪獣のようで、首から下が人間のような、SF映画に出てくるような、不気味な置物がこちらをにらんでいた。 しばらくすると、上司らしい男が、頭をぺこぺこさせながらやって来た。 「どうもどうも、お待たせいたして申し訳ございません」 天柿もつられて、頭を下げた。 「ところで、先ほどの金属を早速見せて頂けますか?」 天柿は、金地金を男に見せた。 男は何か小さい機械のような物を取り出して、金地金にセンサーのようなものを触れ、しばらくじっとしていた。 すると、男の表情が変わり大声をあげた。 「こ・これは、素晴らしい!・・これは伝説の金属だ・・・めったにお目にかかれるものではないぞ・・」男は興奮して天柿を見つめた。 「お客様、これをどちらで手に入れました・・・・?」 「この金属だったら、私の住んでいる星では結構流通していますよ。貴重な金属に変わりはないですけど、しかし、かなり高価な物で庶民にはなかなか手が出ませんが・・・」天柿は、大げさな仕草で男に言った。 「そうでしょうとも、これは凄い・・ところでお客様は、これを私どもに両替してとおっしゃいましたが、いかほどで・・・」 天柿は、まったく相場は知らなかったが、足元を見られては困るし、少し、はったりのつもりで、男を見下すように言った。 「そうだね、手放すのは惜しいですが、この星の貨幣が必要だし、まぁ、あなたを信用して全て任せますよ」天柿は少しおだてた。 「有り難うございます。それでは、これでどうでしょうか?」 表示板には、『100,000,000ルクス』と表示された。 「まぁ、こんなもんでしょう」と、知ったかぶりしたように天柿は了解した。 「お客様、この星では、通常カード支払いになっております。」 男はカードを取り出し、チャージ機器に通した。 「では、こちらのカードに『100,000,000ルクス』チャージしておきましたので 、こちらの、ボタンに触ってください。」 天柿は言われたとおりに、ボタンに触った。 「これが本人識別システムです。 他の人が使おうとしても、使用できませんから安心してください」男はカードを天柿に手渡した。 「それから、このカードは、他の星でも、ほとんど使うことが出来る共通貨幣となっていますのでご安心です」 そう言うと男は、部下二人を呼び、金地金を大事そうに渡し、大金庫にしまうよう指示した。 この星では、金は非常に貴重で、100,000,000ルクスというと、今の日本の貨幣価値に例えるなら、1億円くらいの相場なのだ。金の取引自体がめったになく、天柿のように持ち込むこと自体が不思議だったのだ。 それでも、ここは良心的らしく、市場では金地金100グラムに対して、110,000,000ルクスから120,000,000ルクスで取引されるから、天柿にとっては、非常に運がよかったのだ。 天柿はわずか100gの金で、金持ちになってしまった。 天柿は、近くのショッピングセンターに行き、この時代にみんなが着ている服を買った。 ついでに小物も一緒に買ったが、支払いは、19,800ルクスだった。 日が暮れてきたので、とりあえずホテルを捜すことにした。 「すみません、このあたりで、ホテルはありますか?」服等を買った店の店員に尋ねた。 「ホテルですか?え〜と、この1ブロック先に銀河系では有名な、ホテルギャラクシーがありますけど、出口を出て右へ曲がり、100mくらい行った所です」 そこのホテルは、この都市では超一流とのことらしかった。 天柿はホテルに着き、部屋を予約した。 途中、他の星の生物(人間)らしき人と、何人か行き会ったが、向こうも興味ありそうにチラっと見て素通りした。 彼らは普通の人達よりは大きく、身長は2mは優に超えていて、一目見ても、この世界の人達との違いが分かった。 宿泊はとりあえず、2泊することにして、2泊分の料金を前払いで20,000ルクス支払った。 ボーイに案内されて、5階の5050号の部屋に入った。 部屋は入ってすぐ、30畳近くある広さのリビングがあり、その奥に20畳ほどの部屋にベッドが置いてあった。 リビングには「トーテムポール」のような彫刻物と大きいパネルテレビが壁に掛けてあった。 ほかにも小さな装飾品類が置いてあり、特に、窓のカーテン等の装飾は高級感にあふれ、現在の地球とくらべると、とても一泊1万円で泊まれるホテルではなく、それは豪華な部屋だった。 実は、天柿にとってもう一つ、運がいいことがあったのだ。 通常この世界では、現在の戸籍制度みたいなものはない、先ほど現金をチャージした、カードのようなものが全てだ。 一人ひとりにカードが配布され、管理局の職員がきて、設定するのだが、たとえ紛失しても、管理局ですぐ再発行できるので安心なのだ。 神は天柿に幸運をもたらした。 この時代では、非常に価値のある金地金を持っていたのと、偶然来てしまった旅人ということ、それに両替所の男が実は、金地金を両替する客なんて、まずあり得ないことでカードを偽造(聞こえは悪いが、たまたま未入力のカードがあったから出来たのだが・・)したことにより、誰からも怪しまれなかったのだ。 もし、最初に警察に行けば、不法侵入者で、身柄を拘束され、しばらくは留置場から出ることが出来なかったことを、天柿は知らなかった。 この日は、バイキング形式の夕食をとり、地球時間でいうと、今日1日で火星や2度の世界を見て回ったせいか疲れたので、早めに休むことにした。 朝、モーニングコールなのか、壁掛けテレビに突然、音楽が奏で出た。よく聴いてみると、モーッアルトの「クラリネット五重奏曲」の第4楽章だ。 「う〜ん、名曲はいつの時代になっても、演奏され続けているのだな・・・」 天柿は音楽に興味はなかったが、趣味で音楽活動している同じ職場の人からの 招待に、義理で一度、演奏会を聴きに行った時、演奏していたその曲の軽やかな旋律を覚えていたのだ。 天柿は、昨日買った服を着ながら、曲に耳を傾けていると、これまた突然、画面に美女の立体映像が現れた。 何か、ホテルのCMらしい。 「お客様、天体Xへようこそ!、並びに当ホテルをご利用いただき有り難うございます。当ホテルでは、ただ今新春サービス期間中につき、特別観光サービスを実施しております。専用のクルージングができる、ニュータイプのエアタクシーが当ホテル利用者に限り、格安の料金で利用できます。1日たったの20,000ルクスですので是非ご利用を」 ナレーションが終わると、美女はすぐ消えた。 観光の勧めで、ホテルの広告だった。 天柿は部屋で運ばれてきた朝食をとりながら、どうしようか考えた。せっかくこの世界に来たのだから、2000年と2500年の違いを見ることにした。 天柿はフロントで観光を予約し、エアタクシーを呼んでもらった。 しばらくすると、黄色いタマゴを平たくしたような感じの乗り物がやって来た。 ドアが開くと、はっとするような美人の女性ガイドが車から降りてきた。 「いらっしゃいませ・・・スタートラベルをご利用していただき有り難うございます。」 「あっどうも、今日は宜しく頼みます」天柿は緊張して言葉を返した。 「こちらこそ宜しくお願いします。それでは、こちらへどうぞ・・」 天柿は、ガイドに手招きされ、開いているドアから、エアタクシーに乗り込んだ。 タクシーの中は以外に広い。 もしいきなり、現在の人間がこの世界に来てしまえば、ちんぷんかんぷんで戸惑ってしまうだろうが、天柿は、岩森博士から教育を受けて、タイムマシンの操作をしていたので、そんなに違和感はなかった。 |