赤間の日記−完結編−
夜も六時をまわるとあたりは完全に暗やみに包まれていた。
背中に背負った大きめのリュックからライトを取り出し使っていた。
家を出るときに思いつく限り、それでも必要最小限を考え荷物を背負った。
だがそれでも重いのには変わらない。もう疲れも絶頂となり、赤間は立ち止まった。
しかし一日歩き続けてもなお、別荘につかないとは予想外のことだった。
ライトを持った手を下ろし夜空を眺めた。冬の夜空はすでに雪がやみ、すんだ星空を見せた。
「今夜はいったいどうすれば………………!?」
視線を正面に戻す間、ほんの一瞬だが赤い点が見えた気がした。
顔をその点が見えたあたりを覗くように首を振ってみると、それは確かに確認できた。
灯り…それは間違いなく人がいること。この状況では佐久間家の別荘があることを示した。
赤間はライトを持った手を起こし、膝ほどの雪を一歩一歩、再び歩き出した。
近くに別荘がある。その確信が心の中に浮かびだした。
だが浮かびだしたのはそれだけではない。
この雪山で自分一人の力だけでなにをどうすればいいのか………不安が浮かんできたのだった。
「佐久間さん……もう寝た方がいいですよ」
ソファーに座った浅黄がいった。低いテーブルの向こうのソファーに玲が横になっている。
玲は腕を額の上にのせ天井を見上げたままの状態でいる。
疲れた顔が浅黄の心配をかき立てているようだ。浅黄は玲の側により玲のからだを起こした。
「あぁ…ごめんなさい。そうね……もう寝るわ」
左手で目を押さえソファーから立ち上がった玲は二階に続く階段へむかった。
階段は部屋の左側にあり、短いギャラリーが続いた後奥へとつながっている。
ギャラリーの手すりに手を当てながら玲は浅黄にいった。
「…あなたも早く寝なさいね」
玲は浅黄の返事を待たずに奥へと消えていった。
ギャラリーを見上げる浅黄の顔にはやさしい微笑みがあった。
そして微笑みを絶やさないまま一階の自分の部屋へ戻っていった。
部屋の壁を気にしながら。
歩いていた道が急に広がり、目の前に雪原が現れた。
目の前に灯りが漏れる家がうっすら見える。ここにきてまた雪が降り始めてきた。
雪が吹き荒る中、赤間は広がりかけた道にたったまま動かなかった。
ここまで来てはしまったが…なにをどうすればいいのか?
目の前にあるのは間違いなく佐久間家の別荘だろう。
…佐久間を殺すのか?殺す必要はあるのか?
だが頭はぼーっとしてしまい考えることをしない。考えるのを拒んでいる。
考えられない…だが立ったままでいるわけにもいかないと赤間は別荘に向かった。
雪原は緩やかな傾斜で別荘はやや上方にある。正面から近づくのは発見されるおそれがあると、
赤間は別荘の角の部分から近寄っていった。そこから別荘の二面が伺える。
電気がついているのは一階と二階の一室だけ。ほかは消えている。部屋には人影も見えない。
近づくにつれ赤間の鼓動は激しくなっていった。元来、こういう場面では過度の緊張を覚える赤間だった。
吐息も激しくなっていた。別荘の脇にたどり着くと壁に背をつけた。
落ち着け……落ち着け………
しきりに心の中でつぶやく。コートの内側に備えた鉈に手を当てる。
先ほどの問いの答えはでない。時計をみた。七時……。そして中をみた。
ライトを当ててみると………床と壁は血の赤い色で染まっていた。