赤間の日記−完結編−



 赤間がのぞきこんだ部屋は血で染まっていた。
多少ふき取られたあとが見えるが部屋一面の血は拭いきれていない。
赤間の背筋に寒気が走った。当然冬の寒さではない。血に恐怖を覚えたからだ。
なぜ部屋中が血だらけなのか……考えれば考えるほど恐ろしくなる。
これだけの血がたった一人の人間のものなのか…それとも何人もの血なのか…
そして、その血を流させたはずの玲が…この中にいる。寒気とともに震えも走る。
どうする…いや、いったいなにができる…。
ここに来て赤間の心は恐怖で一杯になってきた。浅黄のことを考え懸命に怯えた心を奮い立たせようとする。
ライトをしまい、鉈を出してじっと見つめる。最後の決意が出るまでそう時間はかからなかった。
…やるしかないんだ。そう言い聞かせて赤間は正面に回っていった。


 入り口のある部屋はうっすらと灯りがついていた。中は暖かい。
ドアノブに手をかけるとすんなりと開いた。まさか人が来るとは思いもしないのだろう。
ギシ…小さな音をたててドアが開く。赤間は激しい鼓動を抑え足を忍ばせていった。
部屋には誰もいない。そう確認すると浅黄の居場所を探して赤間は歩き始めた。
今いる部屋は昼間、玲と浅黄がいた部屋だ。無論、赤間にはわからない。
血だらけの部屋にはまさか人はいないだろう…そう思い赤間は隣の部屋を見ずに奥の部屋へ向かった。
扉のない通路を通るとそこはキッチンだった。キッチンからさらに左右に扉がある。
右の扉に近寄った。扉は完全に内外を隔離していて中の様子は分からない。
 今までのことを考えると浅黄と玲は一緒の部屋にいるはず……
 ………あぁ………。
鉈を持った手に力を込めて、赤間は扉をゆっくり開けた。今度は音もしなかった。
部屋は同じように薄暗い。部屋の奥を見るとベッドがある…誰かが寝ている!
寝ているのは一人だけ……。まさか、浅黄と玲とも別の誰かが?
街で話した最後の奴を思い出しながら考えをめぐらす。
そして鼓動が絶頂に高まる…漏れる吐息をこらえて近づいていく。
鉈を持つ手は頭上にある。いつでも振り下ろせる。
ベッドの横に着くと赤間は仰向けになっているその顔をのぞき込むと、それは間違いなく浅黄だった。
髪がショートになっているが顔を見れば間違いなく浅黄だ。
赤間は震える声で呼びかけた。
「……さん。浅黄さん。」
鉈を持った手を下ろし、布団に手を当てて起こそうとする。
三度四度、揺すって声をかけると浅黄は目を開けた。
 やった……二人とも生きて帰れる……


 「………誰?」
浅黄が目を覚ましてすぐにそう発したが答えは自ずとわかった。
目の前にいるのは赤間だ。あの時…目の前で佐久間に抱かれていたあの赤間。
浅黄はまさか自分の目の前にこの男が現れるとは思っていもいなかった。
「赤間君………」
短いの沈黙を破ると赤間は一言。
「さ…行こう!」
赤間の顔はほころび、安堵の息がもれていた。
「…なんで来たのよ。殺されて……」
言い終わる前に浅黄に手を引かれベッドから出された。
恥じらいで胸元を隠しながら起きた浅黄を見て、間近で見る年頃の女の体に赤間はドキッとした。
「き………着替えたら出てきて……。早く出よう」
赤間はその部屋にコートやブーツがあるのを確認した。すぐにも出られると確信できた。
そして扉に手をかけて、
「…………早くね」
ドアを開けながら後ろの浅黄に声をかけた。
浅黄の目の前で振り返った赤間の顔が、苦痛で歪んで倒れていくのが見えた。
ドアの先には玲が火かき棒を両手で持ち床に倒れた赤間を見ていた。