あー……さみぃ、さみぃ、さみぃさみぃさみぃっ!
……なんだってこんな日に、それもこんなクソ寒い所に呼び出しやがって。
その上遅刻だ? 俺じゃなきゃ帰ってるぜ、ったく……。


……やあ。待たせてしまったようだね。

あのなぁ、何時間待たせてると思ってんだ?
この俺じゃなかったら……


私は、君を、呼んだのだよ。そして君は来た。……違うかい?

…………チッ。……それで、今日は何の用だよ?
あれからぱったり、連絡一つ寄越さねえで何してたんだ?


近況報告の為だけに君を呼んだ訳ではないのは、確かだね。
私はこうして在る、それだけだよ。
君が息災であることは私にとっても有り難いのだが。


なに、詮索はしねえよ。それに俺も同じさ。アンタは上客だからな。
他の同業者に取られたかぁ、ない。


ふふ、随分と素直でない物言いをする……相変わらずのようだね?

…うるせぇ、さっさと用件を話せよ。

ああ、そうさせて頂こう。……と言っても今回は然して大仰な依頼ではなくてね。
君でなくともこなせるとも思ったのだが……また張り紙を探す面倒を省きたくてね。

素直じゃねぇのは御互い様だと思うんだがな……それで?

これから私はある所へ向かうのだが、それに同行して頂きたい。
何も出はしないと思うのだが、一応護衛を頼むよ。……構わないかな?

なに、こっちとしても簡単でギャラがいい依頼を断る理由なんて無い、乗ってやるよ。

交渉成立だな。では行こうか、此処からそう遠くはない。

……決して近くはないのだが。

 


ちょ、ちょっと待ってよ……そんなに僕速く走れない……はぁ、はぁ……。

……ったく、男だろっ? しゃきっとしなさい! 置いて行くよっ!

僕が運動苦手なの、知ってるくせに……それに、ほら、
他のみんなも全然遠くだし……。

もお! みんな根性が足りないわ! って、何……あれ……。
まさか……あの噂、ホントだったの?

え……? ……う、うわぁ……僕、あの人、苦手だ……ごめん、先行くよ!

ちょっ……こらっ! 女の子置いてさっさと逃げる奴があるかっ! 待てーっ!

フハハハハハハハハハッ!!!!!!! 退け退け退けぇーいっ!
私の邪魔は何人たりとも出来ぬ、いや、させんわぁっ!

わ、わわっ! どんどんこっちに……なんでいつも僕ばっかり……

……と、これはこれは何時ぞやのお嬢さん。誠に申し訳無いが今日ばかりは
貴女をお護りするよりも重大な任務があります故、先に行かせて頂くこと、
どうかお許し頂きたい、では……。
フハハハハハハハハッ!!!!

大丈夫ですっ、僕は大丈夫ですからっ!……あ、あれ? 行っちゃった……。

……はぁ、はぁ……あんた、全然足速いじゃないのよ!
で、何なのアレは? 妙なのとばっかりつるんでるのね……。

そ、そんなことないよ! あの人は全然知り合いなんかじゃないし……
それにほら、急がないと、もう時間が無いよ?

ふぅぅぅん、まあその話は後でじっくり聞かせてもらうわ。
でもそうね、今は急ぎましょ!

 


なぁ、やっぱりよさないか? 私用で持ち出したのがばれたら、
下手したら独房行きじゃすまない……。

あのねぇ、ここまで来といて今更グダグダ言わないの!
別に今からあんただけ帰ったっていいのよ? 今更だと思うけどねぇ?

はぁぁ……解った、解りました、何処までもお供しますよ。
……これが惚れた弱みってヤツかねぇ……。

なぁに? なんか言った? 目的地付近にこの子を隠せるポイントが
一箇所しかないのよ、そこから目的地までは走らなきゃいけないし、
とにかくもう時間が無いんだからね!

わぁかってるって……だからちゃんとステルスパネルも外して、
俺の大事なハニーにこんな肌寒い格好させてまで走ってるんだからさぁ……。

だから……ツベコベ言わないのっ! ディスチャージャー全開放!
ポイントまで直線だからこのままかっ飛ばしていくわよっ!

了解了解! ディスチャージャーフルオープン!
後で綺麗に洗ってやるからな、それまで頑張ってくれよ、ハニー。

 

 

着いたのか? なんだ、随分と賑やかじゃねえか、
あんたのことだから、また胡散臭い館にでも連れて来られるのかと思ったぜ。

私も随分な言われようだな……そう、此処がその目的の場だよ。

……つったって、此処に何があるってんだ?
こいつらだって、何が楽しくてこんな所まで……暇な奴等だ。
……ん? おい、ナユタじゃねえかよ!
お前、なんだってこんな所に、それに今日はデートじゃなかったのか?

あ……お兄ちゃんこそ、どうして此処に? いや、だから、
デートじゃないんだってば……。

虚間ぁ、なに? その言い方……そんなにあたしと一緒なのが迷惑なのっ?
……あ、こんにちはお兄さん。お兄さんも今日は此処にご用があったんですか?

そ、そそっ、そうじゃないよ、櫛ノ柄さん! 
誘ってくれて……その、すごく嬉しいし……
もう、お兄ちゃんっ!

ははっ、早速尻に敷かれてやがる。俺は仕事で此処に来たんだよ、
クライアントのたってのお望みでな。
実の所俺も此処に何があるのかは知らされちゃいないんだが。
他の奴等も……ん、なんだあのサーカスみたいな野郎は?

フハハ……はぁ、はぁ……むっ、貴様、今私を愚弄しなかったか?
それは私に対する挑戦状と受け取って構わぬかな? 承知した、受けて立とう!
フフ……私は、強いぞ……?

……あのな、俺は今仕事中なんだ。宣伝は別の奴に……
いや、お前……どっかで見たことあるな。……ああっ! お前!

ええい! 貴様など私は知らん! こうしてくれるっ!

や、やめっ、おい! げ……むぐぐっ……!!!

私はたった今貴様を悪と判断! そして悪は許さぬ!
貴様は犬でも探しておれ! ……全く、どうして此処に貴様が……。

……あんたのお兄さんもアレと知り合いらしいわね……。

……うん、そう……みたいだね。
それにしても驚いたなぁ……僕達だけかと思ったら、こんなに人がいる。
外人さんみたいな人もいるし……。

危ない危ない、間一髪セーフってやつね……。こら、クリス? 生きてる?

もう駄目だ……俺を置いて先に行ってくれ、ルーシィ。
はは、最期まで気付いてもらえなかったが、俺……お前のこと……。

……三文芝居は後で幾らでも付き合うから。ほら、大分集まってるじゃない。
もうすぐ始まるわ……ちゃんとついてくるのよ?

最後まで聞いたって罰は当たらないだろぉ? あ……ほんとだ。
物好きな奴ってのは俺達だけじゃないのか……ぃてててっ!

人の話が聞けないのはこの耳かしら? このまま引っ張ってってあげるわね。

ごめんっ、ごめんなさいっ、ちゃんとついていくから! って……何処へ?

げほ、げほっ……あの野郎、本気で絞め落とす気でいやがった。
今日の所は黙っといてやる……次に会う時、覚悟しとけよ……。

風変わりな友人を持っているようだね、君は。実に興味深い。

それ聞いたら、アイツもきっとあんたに言われたかないと思うだろうな。
……で、よ。いい加減、教えてくれねぇか? 此処は、何なんだ?

ん、みんなも着いたみたいね。遅いんだから……
間に合わなかったらどうするつもりよ、もお!

間に合うとか間に合わないとか……櫛ノ柄さん、
そろそろ教えて欲しいんだけど、今日は何をしに僕達は来たの?

ん? まだ教えてなかったっけ? それはね……

一度しか言わないから、ちゃんと聞いておきなさいよ?

此処、かい? 此処は間も無く此処で無くなるのだよ。

 

 


決して長くはなく、だからといって短い時間だとも決して思わない。
様々なものを得、然し与えられたものといえば一縷にすら

ならなかったかもしれない。
此処で本を閉じてしまうこと、それを最もしたくないのは誰でもなく、この私。
だから今日という区切りを栞にさせて頂く。

日を記し始めてから数えれば、400日くらいだろうか。
その間、私には様々な事が起こり、様々な友と出会い、
幾つかの哀しい別れがあった。
その全てが私の誇りとなり、光となり、傷となった。

翳る光がある。痛みを忘れる傷がある。

然し。

その光が、傷が無ければ今の私が今の私で在れる筈など、無く。

私を知ってくれた全ての人々に、混沌の領域へ足を踏み入れてくれた、
全ての人々に。

感謝を。