「連載・お笑いこだわり列伝」第二回

無冠の帝王
マラリーマン珍太郎




「天狗になっていた」そういわれてはかえす言葉もない。
50人組手の後、黙々と自主トレを続けるマラリーマン珍太郎の
背中は語っていた。
自分の目には「完全優勝」の文字しかなかった。パワー・技術の
すべてにおいて圧倒的な実力を持ち、自他共に優勝候補の筆頭と
見られていたマラリーマン珍太郎は、2000年度50人組手において
まさかの2位に終わった。1位に約100点の差をつけられての2位は
彼にとってはこれ以上なく屈辱的な成績であった。
そもそも、今回の50人組手は彼の強力なプッシュがあってこそ
実現したものだった。
絶えまない研究と努力の結果自らの実力を高めてきた珍太郎は、
これまでのお題ではことごとく好成績をおさめ、多くの人々に夢と
感動を与えてきた。
しかしながら珍太郎は満足できなかった。もっと多くの人に評価
されたい。しかも、おれはライバル回答者たちとは格が違う。
「父親がオチ研出身」という恵まれた環境に育ち、小さい頃から
英才教育を施されてきたことで培われたテクニック、また持って
生まれた天性のセンスがある。その上、それを最大限発揮すべく
常日頃から血のにじむような努力をしているのだ。
そんな思いから、かねてより珍太郎は客観的な評価によるタイトルの
獲得を熱望していた。
そしてやっとの思いで迎えた念願の50人組手。
珍太郎はこの大会でライバル回答者達を完膚なきまでに打ちのめす
はずであった。
回答は順調なペースだった。勝利はある程度計算できた。
珍太郎の得意分野である王道下ネタ路線を中心に、短文から長文まで
各回答のバランスを重視した完璧なものだった。
どの回答者よりも早く回答提出をした珍太郎はそれに満足する
ことなく、あまりにも多すぎた下ネタ路線を削り、内容をブラッシュ
アップして再提出まで行っている。珍太郎の意気込みが伺える
エピソードである。
おおかたの予想通り、中盤までは彼の独走体制であった。
しかし、ここで珍太郎にとっては予期せぬ出来事が起きた。
皮肉なことに、「様々な方向性からの評価を望む」ということから
まさに彼がスカウトした審査員、ササキからの票が大きく伸び悩んだ
のである。
ササキ票の結果はまさかの最下位。司令塔よりも下だった。
珍太郎にとっては悪夢のような出来事であった。
これで珍太郎は一気に順位を落とす結果となった。
あせった珍太郎は急遽「最高点と最低点を切り捨てた平均」で勝負、
という条件も提唱したが、このあとも票が伸び悩み二度と首位に
浮上することなくシーズンを終了した。
シーズン後のコメントで、珍太郎はこう語っている。
「天狗になっていた。各採点者にあわせた路線をもっと重視すべき
だった。ひとりよがりな回答が多かった。目からウロコが落ちた思いだ。」
真面目に神妙なコメントからも彼のショックが伺える。
しかし、本当に彼の回答は今回とりわけひとりよがりなものだったのか。
彼は今回、本来自分が得意とする下ネタ路線を大幅にカットしてまで、
勝利への執念を見せた。むしろ回答のバランスには誰よりも気を使って
いたはずだ。
珍太郎のこの一言からはササキショックが今なお大きく響いていることを
表していると言える。「あのときササキにせめて中位の評価を得ていれば」
これが珍太郎の心にわだかまりとして残っていることは間違いない。
しかし、ササキ評価の敗因ははたしてバランスの悪さによるもので
あろうか。確かにササキ票は大きく伸び悩んだが、ほかの採点者からも
決してダントツの評価は得ていない。
あくまで私見だが、今回の珍太郎は、勝ちを意識する余り、守りに入って
しまったのではないだろうか。
本来の彼であれば、周りのことなど意識せずに自分のファンタジーワールドへ
ぐいぐいと採点者を引き込むことができたはずだ。事実採点者もそれを期待
していたに違いない。
思い出してほしい。最高潮時の珍太郎が生み出した回答は、どれも誰に
遠慮することもなく彼の世界観をストイックなまでに出していっている。
それには「顧客への媚び」「点数への執着」といった姿勢は微塵も感じられ
なかった。ただただ、純粋におかしいものを表現したい、バカバカしいことで
皆を笑わせたい、電話の最中に思い出してくっときてほしい、その一心で
投げ続けていた。これが珍太郎の本当の姿ではないだろうか。
実際、彼も以前「偉人伝」中でこう語っている。

「ぼくの笑いは分かる人にだけ分かればいい。
 大衆に迎合して笑いの質を落とすことはしたくないんです」

今こそ自らのこの言葉を思い出す時がきている。
まともにぶつかればあなたにかなう人などいないのだから。