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 STORY [introductory chapter]
 「東京も、随分と変わったものだな。」
 うららかな春の午後、アラビア衣装に身を包んだ壮年の男が、感慨深そうに街並みを見つめている。 15年振りに日本に帰ることになった、ロレンス・レミックス武者小路(以下ロレンス)である。
 彼はイラクを中心としたアラブ諸国でペルシャ絨毯の輸出販売を生業としていたが、件のイラク戦争において国内の情勢や治安が危ぶまれたため、 異腹の弟である伊集院・アブドゥル・カリーム・次郎(以下カリーム)と秘書の小笠原 純(以下、純)と供に日本に一時帰国したのであった。

 「15年前に日本を離れた時にはまだ幼かった甥や姪たちと、ゆっくり語り合ってみたい。」
そう呟いたロレンスの願いを汲んだ純が今日の会食をセッティングし、いままさに彼はその会場へと足を運んでいるのである。

 アラブの血を引く掘りの深い端正な顔立ちと、身に纏っているアラビア衣装の珍しさもあいなって道行く人々の視線を集めている。 面映ゆく感じながら、ロレンスは足早に進んでいく。
 「今日の会食は甥や姪の他に、私と近しい人間も招待していると言っていたな。」
 目的の店が視界に入りながら、ロレンスは未だ見ぬ賓客に思いを馳せていた。
 予定の時刻が近づくにつれ、店内には様々な衣装を身に付けた男女が集い始めている。

 「カリーム、お久し振りね。」
 着物姿の艶やかな女性が声をかける。小股の切れ上がった粋な風情の彼女は、ロレンスの元妻である鵜飼 鳥子(以下、鳥子)であった。
 「義姉さんじゃないですか。おっと、鳥子さんと呼ばなきゃいけなかったんだ。」
 声をかけられたカリームは兄と同じくアラビア衣装に身を包んでいる。面差しは兄ロレンスに似ているが、ロレンスが穏やかで落ち着いた印象を持っているのに対し、カリームはどこか快活でいてほのかに色香を匂わせる。

 「カリームぅ、まだ始まらないの〜??」
 うなだれかかるようにカリームの腕に手を回す青年。筋肉質でがっちりとした体躯に似合わない柔らかな言葉遣いをする彼は、カリームのセフレであるわんこだった。鳥子にぶしつけな視線を送り、舌を出して挑発している。

 そんなわんことカリームの様子を微笑ましげに見つめていたマライヒは、カリームの衣装の裾がめくれているのをそっと整える。
 凛として臈たけた表情と華奢な体の線を携え、見るものを惑わせるマライヒ。女かと見紛うばかりの彼は、傍目にはカリームと同い年とは伺い知ることはできない。
 わんことカリームが関係を持っていることは暗に承知しており、それを殊更カリームに持ち出す愚も犯さない。そんな彼を愛おしむ様に眺めるカリームであった。
 その頃、純は焦っていた。おかしい、明らかに招待している人数より多いのだ。
 彼女は華やかなアバヤで体を、シックなストールで頭を装っている。どちらかというと日本的な可愛らしい顔立ちとおっとりとした雰囲気ではあるが、よく似合っている。

 「純さん、何か困り事でもあったの?」
 スーツ姿で颯爽としているのは、ペルシャ毯販売代理店のバイヤーである西園寺 玲子(以下、玲子)である。理知的でクールなその印象は、同年代である純と好対照に映る。
 「いえ、大丈夫です。そろそろ予定の時刻ですので、賓客の確認を。」
 どちらともなく発せられた視線が、激しく空中で応酬しあう。

 「そうそう、彼女が今日同席したいっていうから連れてきたのだけれど、いいかな? 私の大学の後輩で、義妹になる可憐さん。」
 伊集院 可憐(以下、可憐)は玲子に紹介されて、はにかみながら目礼する。清楚でいて柔和なその表情は、優しげな彼女にとても似合っている。しかし、ふとその瞳に翳を宿し、遠くに目を移す。彼女が見つめている先には、わんこに腕を回されて苦笑しているカリームの姿。
 「お兄さん・・・。」

 少し遅れて会場に入った西園寺 直人(以下、直人)は、玲子と可憐の姿を確かめると足早に近づいてゆく。一目で仕立てのよさが伺えるオーダースーツと、その襟元に鈍く輝くバッジ。「これは外した方がよさそうだな。」濃紺の台座に収まったバッジを手早く外し終えると、可憐の視線の先にいる男に目を奪われた。
 「・・・カリーム。やつも、来ているのか。」
 軽く舌打ちし、憎々しげにそう呟いた。
 可憐と同じ方向に視線を送りつつ、武者小路 類(以下、類)は複雑な面持ちで溜息をこぼす。 元恋人と、自分をこの世界へと引きずり込んだ張本人の姿に心境は穏やかではない。
 しかも、友人のマライヒまでそこにいる。一体なぜ?
 ピンヒールに際どくスリットの入ったチャイナドレスを鮮やかに着込んだ彼女は、武者小路三兄妹の長子であり、ロレンスのれっきとした『甥』である。

 「カリーム叔父さん、来てるんだ。」
類の後ろに隠れるようにして、妹の武者小路 つぐみ(以下、つぐみ)はそっと様子を伺っている。ゴシック&ロリータのドレスがよく映えそうな彼女は、それが自分が一番美しく見えるように計算され尽くしたであろう微笑みを、そっと浮かべた。あどけなさの残る少女の外見とは裏腹に、それは妖しくも魅惑的だった。

 何やら落ち着かない様子の兄をよそに、口許を不敵にほころばせながら武者小路 結希(以下、結希)は会場を見渡した。
 「・・・こんな訳の分からない連中に邪魔はさせない。」
 そう呟く彼の影を落とした顔つきには、どこか人をぞっとさせる冷酷さがあった。武者小路家の次子である結希ではあるが、彼は兄妹たちの様子など全く気に留めないでいる。ピルケースから取りだした錠剤を口に放り込むと、離れて立っている白鳥沢 美弥(以下、美弥)にそっと目くばせをし、来たるべき時の到来を静かに待っている。
 結希の目くばせを受けて、美弥はこの会食に参加した本当の意味を思い返す。
 「そう、札幌から出てきたのはこの日のためだもんね。」
 ぎゅっと身を固くした美弥は、思わず腕に抱えている白鳥沢 安彦(以下、安彦)を起こしてしまったようだ。
泣き続ける安彦をあやしていると、兄の白鳥沢 洸(以下、洸)が見かねてやってくる。
 「お前も戻ったばかりで疲れているだろ。安彦、俺が暫く抱いてるよ。」
 そう言って手慣れた様子で安彦を抱えると、洸は満面の笑みであやし始めた。

 東京に戻ってからはすっかり安彦の父代わりになってくれている兄に素直に感謝しながらも、 美弥はそんな兄の姿を見るにつけ、それが安男であったらどんなによかっただろうと思わずにはいられない。
 街で安男に似た男を見かける度につい目で追ってしまっている自分にも気付いている。
 「さっきもいたんだよね・・、安男に似た人。うん、本当によく似てた。」
 会場に子供の泣き声が響く。
 「ガキ!うるさい・・・。ススキノのあの女を思い出すじゃないか。」
 そう言って舌打ちしながら、賓客たちを人知れず遠くから眺めている男がいる。
 子供の泣き声は札幌での痛い想い出を呼び醒ます。遊びのつもりだったのに、子供ができたと言って泣きついた、あの女。
 男は首を激しく振った。どうでもいいんだ、もうそんなこと。

 「純・・・。おまえは、誰にも、渡さない。」
 熱のこもった目で、純のどんな仕草も見逃さぬように、決して視界から漏らさぬように。
 「俺だけの、妹。誰にも、渡さない。」
 小笠原 駿(安男)(以下、駿)は、もう一度ナイフを強く握りなおした。
 ロレンスは期待と少しだけの不安を胸に、その扉を明けた。
 「みんな、今日は集まってくれて本当にありがとう。」
 見渡した面々が、また様々な面持ちでロレンスを見上げる。

 「フフフ、実はね。今回の突然の帰国には、中東情勢の危機の他に、もうひとつ理由があったんだよ。」

 静まり返る会場。
 誰ひとり言葉を発せずに、次の句を待っている。

 「それは子供のいない私にとって、甥姪の君達全てに私の死後財産を相続する権利があるのだっ!」

 「!!!」
   
 ドラマは、今はじまった。
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ここを作った人:謎のバイヤー 西園寺玲子(れぃ)

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