「東京も、随分と変わったものだな。」
うららかな春の午後、アラビア衣装に身を包んだ壮年の男が、感慨深そうに街並みを見つめている。
15年振りに日本に帰ることになった、ロレンス・レミックス武者小路(以下ロレンス)である。
彼はイラクを中心としたアラブ諸国でペルシャ絨毯の輸出販売を生業としていたが、件のイラク戦争において国内の情勢や治安が危ぶまれたため、
異腹の弟である伊集院・アブドゥル・カリーム・次郎(以下カリーム)と秘書の小笠原 純(以下、純)と供に日本に一時帰国したのであった。
「15年前に日本を離れた時にはまだ幼かった甥や姪たちと、ゆっくり語り合ってみたい。」
そう呟いたロレンスの願いを汲んだ純が今日の会食をセッティングし、いままさに彼はその会場へと足を運んでいるのである。
アラブの血を引く掘りの深い端正な顔立ちと、身に纏っているアラビア衣装の珍しさもあいなって道行く人々の視線を集めている。
面映ゆく感じながら、ロレンスは足早に進んでいく。
「今日の会食は甥や姪の他に、私と近しい人間も招待していると言っていたな。」
目的の店が視界に入りながら、ロレンスは未だ見ぬ賓客に思いを馳せていた。 |