ジャクジキョウ0001   



0128AM0315眠れぬ雪の夜編

雪積もれよ夏が恋しくふたりで汗をかいた夏が恋しくタクシーにも乗り込めずあたしたち春の風は胸押さえつけた座り込んだその3ヶ月前の雪雪雪雪雪の降る夜たしかにあれは去年の冬の夜雪の夜夜の飛行機のランプ見上げながら夜の飛行機の音聞きながら冬に咲く花のなまえなんてしらないみんな小さく縮こまることしかできない動物身を寄せ合って眠ることしかできない雪の夜雪の下濡れたアスファルトに何か忘れてきたんだろう思い出せそうな思い出せそうな動物達眠れよ暖かなベッドで眠れよ明日はまだ寒いけど胸締め付ける8月の太陽想いながら8月の汗想いながら明日もまだ寒いけど寒いけど冷たい足を毛布にくるんで今はただ眠れよ。


恋人依存症

あたしは人前ではめったなことでは泣かない。
どんなに悔しくても、泣かない。
むしろ冷静になっていく。
しかし、「恋人」の前では0.2秒もかからず、簡単に涙を流してしまう。
ちょっと悲しかったり、ちょっと腹が立ったり、ちょっと悔しかったりすると、すぐ涙が出てしまう。
これは一体どういうことだ?

「恋人」の前で流す涙、といえば少々甘いニュアンスの匂いも感じられるが、実際はそんな甘いもくそもあったもんじゃない。
あたしは自分の中のいちばん汚い部分、そういったかんじのものを見てくれ、といわんばかりに泣く。
そして、相手は決して「ただ一方的に好きな人」とかでは決して無く、ちゃんとした「恋人」「彼氏」「つきあっている人」である。
いわば、「ココロをこめてセックスした相手」だ。
ただのセックスをした男の前では決して涙は流さない。(この場合、涙なんかとはほど遠い心情にある。)
さらに限定すれば、ちゃんとあたしと「つきあう」という意志表示をした男の前でのみ、涙を大量に流す。
「恋人」。
その言葉がどういう作用をもっているのかはわからないけれど、どうやらあたしにとってはあまりポジティブな感情を呼び起こさない言葉であるようだ。
「恋」という言葉はとてもとてもハピイな感じであたしを暖めたりするのだけれど。

多分あたしは「恋人」に恋人以上のものを求めすぎているんだろう、と思う。
どんなに諍いがおこっても、確固たる自信があれば涙を流すことはないのかもしれない。
その確固たる自信、の内容は「愛されている」とかそんなたぐいのものを乗り越えて、「どんなに汚いあたしを見せても離れていかない、ずっとそばにいてくれる」というようなものを求めているのだ。
言ってみれば、肉親的愛、とか同類的愛、とかそんなものを求めているようだ。
相手がそれに一瞬でもひるみを見せればあたしは涙を流すのをやめる。
そして相手の元を去る。
そんなもの求めるのは恋愛の範疇を越えている、と自分で痛感しつつ、でもあたしが求めているものはそれだから、と再認識したりして。

人前ではケラケラ笑って、そんな種類の涙を流すことなんか決して誰にも見せたくない。
だからセックスを何回もして何もない状態をとりあえず見せ、それでもあたしがいいと言った相手にだけそんな涙を見せてしまうのかもしれない。
「恋人」という言葉に誰よりも依存しているのは、あたし。

それでも、
今日もあたしは恋人の前で泣くでしょう。
明日もあたしは恋人の前で泣くでしょう。
明後日も、明々後日も、あたしは恋人の前で泣くでしょう。


暑い夏を想う一月

手の指先、足の爪先、かじかむ寒い一月に、暑い夏の終わりを想う。

何の予備知識もなく旅立ってしまい、あたし達は少々その国に幻滅していた。
あたしも友人も、前日までに許容量を越えたストレスを抱えていて、でもその国はちっともパラダイスなんかではなく、どちらかというととても陰気くさく感じられて、優しい人たちばかりなのに、疲れ気味のあたし達は息苦しくてしょうがなかった。
メインストリートにごく近いホテルを選んだ割には、とても不穏な雰囲気であたし達は緊張ばかりしていてちっともくつろげなかった。
(事実あたしたちが帰った3日後に暴動が起こったらしいから、あのなんとも言えないいやな雰囲気はあながちあたし達の思いこみではなかったのだろう。)

神と共存している島、ちょくちょくそういう話は耳にしていた。
友人はそんなことどうでもよさそうだったが、あたしは実際それを感じたくてその島に行ってみよう、と思い立ったのだ。
町のあちこちに敬虔なヒンズー教徒の彼らが神に捧げた色とりどりの花びら(と、米?)が葉っぱでつくられた皿に盛られて家の前に出されていて、それはとても美しく、あたしはそれがあの島の中でいちばん気に入った事柄だった。
こういうと、まるでオカルトだけど、確かに何か人間以外の気配は感じられた。
人間以外の気配というか、人間じゃない何かが住んでいる空間がある、という気配。

3日目の朝、日本から引きずってきたあたしの疲れはピークに達していて、どうしても起きあがることができなかった。
湿気を含んだベッドのシーツがやけに重たく感じられた。
祖父の事が一瞬頭に思い浮かんだ。

ここ2週間、祖父は昏睡状態だった。
行くのをやめようか、と何度も思ったけど、なるようにしかならない、と覚悟して旅に出たのだ。
あたしはおじいちゃんの事がとてもすきだった。とても男前でがんこであたし達を愛していた。
ものすごくチビのころからよくおじいちゃんと言い争いをした。おじいちゃんはあたしのことを「けんか友達」といつも言っていた。
昏睡状態になってから、あたしはおじいちゃんにどう接していいかわからなくなってしまった。怖かったのだ。
旅行の前日祖父の家に行きそのすっかり痩せこけてしまった手をそっと触った。
いつも痛い、痛い、って言ってたから手の甲をさすってあげて、と祖母に言われ、いったん手を持ったものの、その痩せすぎた手が怖くてすぐ手を離してしまったのだ。あのあたしをいつも抱きしめた大きな手とは違ってしまっていたから。
あたしは「旅行に行ってくるからね、待っててよ!」と大きな声で言った。
すると祖父は一瞬大きく目を見開いたのだ。きっと心配だったんだろう。
そんな時まであたしを心配する祖父、手をさすってやりさえできなかったあたし、
あたしは泣きながら祖父の部屋を出た。

そして寝返りをうってうつぶせになった時、耳元でとてもハッキリと
「せっかくきたのに、起きなさい!」
と声がした。
驚いて目を開けると、部屋におじいちゃんがいた。
男前のおじいちゃん。ベッドにゆっくり近づいてきてニコリと笑った。
あたしは涙がこぼれた。
たくさんたくさん涙がこぼれた。
手をさすってあげられなかった事をあやまろうとしたら、ニコニコしたまま首を振って、寝ろ、という仕草をした。
あたしはあの頃、まだチビでおじいちゃんに添い寝してもらってた頃の気持ちになって安心して目を閉じた。

何分くらい寝たかはわからなかったけど、友人に起こされた。
目を閉じたままあたしは泣きじゃくっていたのだ。
心配する友人にわけを説明すると、友人はどうしても起きられない感じがしてずっと目をつぶっていたらしい。
心配になって家に電話した。
異国の地なのに電話はあまりにもふつうにつながって、母は「おじいちゃん、まだ大丈夫よ」と言った。安心した。
電話を切ってベランダに出た。
昨日までのどんよりとした天気とはうってかわって空は明るく光っていて葉っぱがきらきらとひかり、道はうつくしいピンク色の花が散らばっていた。
甘い空気が漂い、あたしはその匂いの中で確かに何かの気配を(おそれることなく)受け止めることができた。

日本に帰ると、一週間前までとても暖かかったのにとても寒くなっていた。
家に帰って祖父のベッドの横におみやげの花を置いた。
おじいちゃんはそのまま目を覚ますことなく天国に行った。

もういちど、行きたいな、と思う。
帰ってきた直後は、「もう行くもんか」と思ったけれど、寒い今頃になってよくあの島の湿気だらけの暑さをもう一度経験してみたいな、なんて思うのだ。


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