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海 |
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「1」 私には海がある.海が存在している.でも,私は泳げない.頭までざぶんと潜る感覚に慣れない.それでも私は海を手に入れてしまって,当初は困惑していたが,それは苦しくない海だった.夜の深い藍をした海にぷかぷかと浮いているのも好きだったし,すぅっと潜っても普通に息ができたし,私は自然のまま過ごしていればよかった. 私は今日も,たぷたぷと波を揺らす海の上に座っていた.半分だけ浸かったスカートの裾は透明の水の中で海藻と同じ動きをしていて,ただ私の足だけがちょっとだけ,その動きに静かに逆らっていた.そのせいなのか,私は海に浮かびながら流されない.同じ位置で,そこから見える空を毎日毎日飽きることなく見つめていた.飽きた?不安そうな声を聞いて,そんなことないよと答える.飽きたら流れることもできるし,陸にあがるってことも知っているから.だから好きでここにいるのだと言うと,声は聞こえなくなった. |