FLY


  「僕は、空を飛ぶ事ができる。」


 それは、みんなが思っている程難しい事じゃなかった。まあ、それほど
長い時間滞空している訳じゃないけど。               

 その日は、近くの公園でカメラマンのアシスタントのバイトをしていた。
6月にしては、珍しくカラッと晴れた日だった。なるべく人の少ない時に仕
事を片付ける為に、朝の6時から集合していた。仕事は順調に昼前に終わり、
みんなで公園で弁当を食べていた。僕は、一足先に食べ終わってゴミ箱まで
捨てに立ち上がろう思った瞬間に、大きな風が吹くだろうと感じた。僕は、
その場に敷いていたビニール(1.5×0.5m)を両手に持ち空に掲げた。  
 みんなの、「何やってんだ?」「どうした?」と言う声が「アッ!」と、
驚きの声に変わった。一瞬大きな風が僕らを吹き抜けた。僕は、その風を 
しっかりとビニールの中に集めていた。同時に、体が後方に浮いた!それ 
は、本当に一瞬の出来事で、飛んだといっても高さ2.5m、距離にして5m、
時間にしたら0.何秒の話で、飛んだ感触なんてこれぽっちも覚えてなかった。
みんなが、すぐに自分の方へ走ってきた。「すごい!何今の?」「Back to
the Futureみたいだった!」とか、「ビニールの持ち方は?姿勢は?」とか
熱心に聞いてくる奴もいた。                     

 それっきり空を飛ぶ事はなかった。なかったと言うよりできなかった。
風の強い日に公園に行って何度もやってみた。場所を変えて海辺の砂浜や、
有りとあらゆる所で試してみた。だけど、できなかった。

 あれからすでに2年経っていた。僕も、飛んだ事さえ忘れて過ごしていた。
そんなある日、チャンスが来た。6月の台風3号が上陸したその時だった。
部屋にいた僕は、ハッとして外に飛び出した!あの時の感じと同じだった! 
いや、あの時よりももっと、もっと大きな風が吹くと感じた。近くにある5階
立てのマンションの屋上にダッシュで駆け上がった。そして、あの時と同じ様
にビニールを両手で空高く掲げた。その瞬間僕の体は、浮いていた。    
    
          「やった!やったぞ!」              

 正確に計った訳じゃないからなんとも言えないが、時間にして3分位は飛ん
でいただろう。飛び立ったマンションは、かなり遠くに見える。      
    
 「あの時とは比べものにならない!どこまでだっていけるぞっ!」    

 その瞬間、僕はバランスを崩した。風をコントロールできなくなった。真 
っ逆さまに地上に落ちていった。初めて流した涙の様に・・・。      

   そして僕は、強くコンクリートの地面に叩き付けられた。      
       強い衝撃と共に僕は、意識をなくした。          
                                   
 雨のしずくで、目が覚めた。体は、動かない。頭から血が流れ出している。
 雨が激しく僕を打ち続ける。生暖かい6月の雨だ。

  仰向けのまま空を見つめて、僕は気が狂ったのか大声で笑いだした。



END

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