<特別展示室2>
レプリカ制帽の再構成とディテールアップ
ルフトヴァッフェ将校制帽の組み立て

このコンテンツでは帽子のオーナーにご協力を頂き、レプリカのルフトヴァッフェ(以下LW)将校制帽と各種部品を使用した再構成、そしてディテールアップ作業について解説します。
* 今回は原型となるドイツ製レプリカの特徴を完全に消し、全く別の帽子として再生する事を最重要課題といたしました。
* ディテールアップ・記章付け、および本体・記章・付属品類の仕上げは当工房でオリジナル(実物)のレストア(修復)に使用する技法・材料と同等のものを用いておこないました。
* 制帽本体に付ける記章・付属品類は、オーナーのコレクションを帽子本体とともにお送り頂き、一部をこちらで改造、再仕上げをして使用いたしました。
これは当工房での作業の一例です。実際の作業は各自の判断・責任に於いておこなって下さい。
1.「現物を見ての検討」
今回はまず現物をお送りいただきました。インターネットオークションより、この状態で入手されたとのこと。
・ 90年代のドイツ製レプリカ。トップ正面約7p/はちまき幅4.3p。
・ トップ前正面芯が抜去されているため、トップが前倒しに型くずれしている。
・ はちまき芯が全周にわたって変形。特に後部は二つ折りになった状態となっている。
・ 内部の中綿と芯材を抜くために、内装裏地が剥がされ、中綿が引きちぎられている。
・ 将校用チンコードは東独製。同チンコードボタンはアルミ製本体/真鍮製足のレプリカ。
・ 帽章は鷲章/柏葉章ともにモール製手刺繍の高級レプリカ。
・ トップは実物と同等の毛並みのあるLWトリコット、はちまきも同じく同等の黒色モヘア織り素材。
・ バイザーと銀パイピング部品も実物に近い物を使用しており、特にバイザーは表面のエナメル塗装の経時劣化も伴って、現存する実物に極めて近い表情となっている。
<内装>
・ 90年代ドイツ製レプリカ制帽の典型的な内装。
2.「使用する部品のチェック」
1.での検討をもとに使用する部品をピックアップします。
「制帽本体より流用する部品」
・ 制帽外装 トップ生地/はちまき/パイピング
・ モール刺繍製 柏葉章
・ バイザー
「別途お送りいただいた部品」
・ 実物 モール刺繍製将校用鷲章
・ 実物 将校用チンコードおよびチンコードボタン
・ レプリカ 金属製コカルデ
「工房よりの新規部品」
・ 内部 芯材一式
・ 内装 裏地−天面用・人絹/コットン綾織り 側面用・シルク/人絹サテン
・ 内装 スウェット革
3.「考証と物語の設定」
今回の時代考証の根拠となるのは以下3点。
・ 1937年型LW鷲帽章(後期型)。
・ 戦中に多くみられる太めの将校用チンコード。
・ 本体トップのザッテルフォルム(鞍型)。
そのため、戦中のLW将校制帽という以外に特に制約はなく、オーナーとご相談の上 ...
「1920年生まれのLWパイロットが40年・少尉任官時の休暇帰郷の際に、祖父の代から御用の同地・老舗帽子店にてオーダーメイドで作った帽子。」
... という「物語り先行」での製作とした。
* 大都市の有名メーカー製/空軍購買部販売の量産品ではなく、地方の老帽子職人が昔風の製法で作ったという設定。そのため外装はLWという当時最新鋭軍の様式であるが、内装/細部の作りなどは今回特に古式とした。
4.「作業手順」
<本体の解体−外装部品の取り外し>
・ 帽子本体から記章・チンコードおよびチンコードボタンを取り外す。
* LW制帽の場合、画像の様にはちまきの接合部が正面にあることが多く、またモヘア織りという変形しやすい素材のため、このように斜めになることもあるが、正面に台布付き帽章を取りつけることにより、隠れるので問題とならない。不良品を出さず生産性を上げるための当時の帽子メーカーの知恵である。
<帽本体の解体−各部品>
・ 上段左より上段右へ「外装」「はちまき芯」「スウェット革」。
・ 下段左より下段右へ「バイザー」「内装裏地」「内部芯材」。
* 使用するのは左端の上下の「外装」「バイザー」のみ。
* 今回はトップ外装の原型を完全解体せず、そのまま利用、内部芯材の変更によりフォルムを変更する。
<レプリカ柏葉章の改造>
・ 下段が改造前の市販状態、上段が改造後。
* 実物のモール製コカルデの黒部分は基本的に黒色のモール製であるが、市販のレプリカは多くの場合、ここが黒色の太糸となっている。
・ 今回はこの部分を問題なく実物同様にするため、金属製のコカルデに交換した。(結果的にこの作業によって、帽子全体が若々しいムードとなった。)
・ 裏の生地を剥がし内部のパッド抜いた後、柏葉部分の糸を切らないよう、コカルデ部の糸を裏と表から注意深く切り、モール製コカルデを抜去、台布部に残った糊材もその痕跡を消す。
・ 若干の時代掛けをしたレプリカ金属製コカルデを中央ブランク部に刺し、内部パッドと裏地を再縫製。
<帽子本体への取り付けを待つ帽章>
・上は実物のモール手刺繍製鷲章/ブルーグレイ地にアルミモール。
・ 下は改造済みのレプリカ柏葉章。実物鷲章とトーンを合わせるように柏葉章の方に時代をかける。
* アルミ製モールの場合はアルミの腐食を再現するため光沢を消し、表面に白く粉が浮いた様に時代を掛ける。
* 実物モール製刺繍鷲章は現在の状態を維持するため、一切時代掛けをしない。
<将校用チンコード>
・ 上が実物、下は東独型。
* 東独は実物とはネジリが逆で、スライド内のスリーヴ部品がプラスチック製。実物は基本的に金属もしくは紙製。
* その細さが問題となる東独製チンコードであるが、戦前型の各種制帽には同じ様な細目のものが使用されることも多い。
* 逆ネジリに関しては写真で数例見られるが当時としては極めて希な例と考えられる。
<本体の完成>
・ 厚地で細目のウールテープ芯材を使用し、パイピング部のエッジが立ったシャープなトップ形状とした。
・ はちまきは若干上下に引っ張って、幅4.5pで固定した。
* 実物鷲章/チンコード/チンコードボタン取り付け前。
・ 時代掛け加工およびクラッシュ/変形加工は実物部品に掛からぬよう、この状態でおこなう。
・ 本体の時代掛けも実物鷲章とトーンを合わせる。今回は使用痕跡というより保存による時代を掛ける。
<完成>
・ 実物部品の取り付け。
* 鷲章は帽子本体への縫いつけ糸のみに、なじませるために時代を掛ける。
* 今回の帽子はトップ銀パイピングに樹脂製の芯が入っていたため「エクボ」を付けるクラッシュ加工は避け、トップが反り返ったタイプのクラッシュ/変形加工とした。
<側面>
・ トップ前面は自然なカーブを付けながら若干後ろに倒し同時に後部は引っ張った形状とする。
・ 着用時にトップ前からのスロープが一旦下がったあと、天面中央が頭の形で再度、盛り上がるように形づくる。
<内装>
・ 内装天面は黒色の人絹/コットン製の光沢のある綾織り生地。同側面はシルク/人絹製のサテン生地。
・ 昔風の帽子屋をイメージし古式な六角形のシールド縫いつけ、時代を掛けた後にその縫い糸を残して剥がし、シールドの痕跡のみとした。
・ 内装のバイザー直下に黒ウールテープの額あて部クッションを入れ、スウェット革も総手縫いで取りつけた。
・ スウェット革後部止めのリボンは当初付いていた緑色のリボンを脱色、オフホワイト色にして取りつけた。