TOPページ
おとなの絵本
作者プロフィール
水門の家

ぼくは川底を見つめすぎて
眼球を濡らす始まりの
泡立ちの音を聴く
川底の裏側の橋を渡って
君に会いに行くぼくのくつ底は
いつも濡れているから
君が入り江まで迎えにくる
指の間から水を汲み出すたび
君の笑顔が近づいて
ぼくの呼吸は重くなり
君の深さまで沈んでいる

君の身体のおうとつの内側へ流れる
川を泳いで 足首までゆけたら
水門を洗う風を呼吸する
ぼくは川底で
愛犬を飼う大人ではないから
君の眼球を洗ううち
親しさがつのり
つい 川の家の鍵をしめ忘れ
隙間から零れる君の
泡立ちの音を聴いてしまう
ぼくが上流の瀬に
はしごを立てるその前に
さかさ橋を渡って水門を切る君は
腰まであがり
水を解く

ぼくたちの水門が瀬に沈むその間
腕のからまりをほどいて
濡れた胸を拭う君の割れた指先に
溺れて行くぼくは
君の川底に届いている
つまさきを蹴り出して むらさきの
くちびるに浮上する呼吸法は
君が最初に教えてくれた水の
約束事

ぼくを入り江まで送っておくれ
ぼくは水を飲みすぎて
また くつ底を
濡らしている