家具(金工は下に)
インレイ inlay
色の異なる木の棒を何本も束ねて端から切っていく。するとモザイク模様の板が出来上がる。これを細長くつなげたり、広い面にしてテーブルの天板や縁を装飾する技法。→マルケトリー
ウィンザーチェア Windsor chair
英米・安価椅子のベストセラー。出前バイクの定番、ホンダのカブも安価なロングセラーだがウィンザー・チェアはずっと歴史が長く、17世紀終わり頃に英国ウィンザー周辺の町で作られはじめ、1725年頃にはアメリカに渡り、その素朴だが丈夫で実用的なデザインが支持されて18世紀中頃にはアメリカで最もポピュラーなイスになっていたというからすごい増殖力だ。その人気は今日に至るまで続いている。
ロクロで丸く削り出した棒状の脚と、何本もの細い棒で構成される背もたれ、それに鞍のような尻型にわずかに凹んだ座部が特徴。
ウォールナット walnut
クルミ材。高級家具に使われるようになったのはオークより少し新しく17世紀後期だが、模様がくっきりしてオークよりも高級感があり、18世紀初期までは最も良く使われていた。
後にマホガニーに押されるが、ヴィクトリア時代にもしばしば見られるように息は長い。
オーク oak
「小さなドングリから大きなオークが生まれる」というコトワザにあるように(知らなかったが辞書にでていた)ナラ・カシなどブナ科コナラ属の総称。オークはその堅牢さが受けたのか高級家具材料としては最も古く17世紀から見られる。18世紀中頃まではウォールナットと共に栄華を誇ったが、マホガニーが登場してからはその内装材として使われることが多くなった。
家具 furniture
家具の歴史は古く、その起源は古代エジプトにさかのぼる。しかしながら、現在市場に流通しているのはそのほとんどが17世紀以降。そしてその中でも九割以上が19世紀以降であると言っていいだろう。
なんとなれば家具というもの、近代まではごく一部の特権階級のもの、それもごく限られた種類しかなかったからである。庶民は板を樽の上に置いてテーブルとし、イスも簡単なスツール風のが殆ど。壊れればタキギにされたから残されてもいない。
ところが19世紀になって中産階級が現れ、家具の数も種類も爆発的に増えた。
現在扱われている殆どはそのような家具であり、為に17世紀の優品など競売にかけられようものなら日本人には信じがたい価格で競り落とされたりすることがある。
カブリオレ・レッグ cabriole leg
日本で言う猫足。蹄類動物の後脚を表現したゆるいカーブを描いた脚で、先端の接地部はゴルフのドライバーのような形状(slipper
foot)が多いが、かぎ爪でボールを掴んでいる形(claw and ball)であったり、ライオンの足風(paw
feet)であったりもする。18世紀のクィーン・アンやチッペンディール様式の家具に良く使われている。
フランス舞踏用語のヤギの跳ねる様から付けられた名称と聞く。優雅で機敏な動作というが、ヤギではどうも印象が・・・カモシカくらい言って欲しかった。
カボード cupboard
古くはカップ・ボードと複数名詞で呼んでいた。その名の通りカップなどを収納するための簡単な棚だったのが、近代になってドア付きの食器棚に変化、呼び名もカボード(カバードとも聞こえる)と単数化した。
多くはドアが全部木製、つまり中が見えないが、近年ではガラス戸のも増えた。
扉のないオープンタイプは正式にはドレッサーであるが、アメリカのドレッサー(背の低い小型タンス)と混同されるためか、英国の骨董屋でもカボードと呼ぶ者が多い。
キャビネット cabinet
ガラス戸のついた小物ディスプレィ用家具。陶磁器ガラスや宝飾品などを展示する。曲線を多用したデザイン、マホガニーのような高級素材を使用したものが一般的。
パインのような安価な素材、四角い単純なデザインのは普通カボードで呼ばれるが、ウサギ小屋でもマンション(大邸宅)などと称しているのだからキャビネットでも悪くはないだろう。
ゲート・レッグ・テーブル gate Leg table
ドロップ・リーフ・テーブルの一種で、代表的な形を言えば、本来の脚4本以外に2本の内外に開閉する脚があり、これらは天板を広げた状態では外側に張り出して板を支える役目を果たす。閉じる時には下げた天板の内側に収納する。2本の脚をゲート(門)のように開けたり閉めたりするところからゲート・レッグの名で呼ばれる。
コファー coffer
チェストとほぼ同義語に扱われるが、厳密にはチェストに皮などのカバーがあり、金属の帯などついたもの。宝物箱にはこちらの方が相応しいかも知れないが、やはり衣装用。
ゴブラン織り Gobelins →タペストリー
コモード commode
フランスのチェスト・オブ・ドロワー。たとえ英国その他で作られたものでもデザインがフランス風、つまり曲線を多用したロココ調のものであればコモードの名称が使われるようだ。
ベルサイユ宮殿のコモードが15億円で(25億だったか・・・どうでもいいや)買い戻されたと聞いたが、これは付加価値が大部分を占めている。家具そのものは数億円が良いところだろう。それでも驚異的だが。
コンソール・テーブル console table
コンソールは曲線的デザインの棚受け。コンソール・テーブルはコンソール風に作った脚を持つ、壁際に置くテーブルを言う。
サイド・テーブル side table
主に長方形あるいは半円形の狭いテーブル。食事の支度や飾り物を置く台としても使われた。やや大型で引き出しのあるのはサイド・ボード。
サイド・ボード sidebord
食器棚で、基本的にはドレッサー(英国)と同じ。ただしこちらは通常飾り棚が無く、低いテーブルタイプ。
錠前 rock
家具の錠金具が真鍮製のは英国、鉄のはドイツ、フランスが多い。また英国のは右回り1回だがフランスのは2回廻すのが普通。
スツール stool
背もたれのない小さなイス。ピアノの椅子のようなタイプだが、古くは木組みだけの単純なシロモノが多い。
タペストリー tpestry
寒い日に古城など訪れると、つくづく壁の冷たさが身に染みる。つづれ織布を壁に掛けるのは、実際の防寒と気分的な暖かみを得ようとしたのだろうと想像する。タペストリーは中世ドイツで始まっているが盛んになるのは14世紀のフランスから。
1662年には宮廷が15世紀から続いていたゴブラン兄弟の工房を買い取り、優れたデザイナーと職人を招いて絵画表現を進歩させ、やがてロココ風の優美なタペストリーの登場となった。これがゴブラン・タペストリーで、だからゴブラン織りとは本来は油絵のように緻密に描かれたフランス王立工場製タペストリーを言うが、現在ではタペストリーの代名詞のように使われている。
シュテファン・ツワイクの小説「マリー・アントワネット」で彼女が輿入れしたとき国境でオーストリアの衣服を脱いでフランスのドレスに着替える場面がある(こういうのは良く覚えている)。この時全裸となったマリーを見守るのがゴブラン・タペストリーなのだが、その題材は不幸な結婚の伝説であったという。恋敵もその子供も殺してしまう不吉な図柄に皇女の暗い命運を暗示させていて、こうなるとタペストリーも寒々しい。
芝居の小道具としては絵画ほど鮮明でないだけにむしろ想像力を掻き立てられる気がする。
チェスト chest
蓋の付いた箱型家具。衣装箱。引き出しの付いた小型タンスはチェスト・オブ・ドロワーで別に分類されるが、略してチェストと呼ぶ人も多く、よく混同される。
本来のチェストに引き出しはなく、形状は長方形で人が座れる位の高さ、幅は1mから2mくらいが普通。短い脚が付くことが多い。昔の冒険映画などで財宝がぎっしり詰まった箱を開けて悪い奴がほくそえむ場面が見られたが、あのような代物。普通は財宝でなく衣類が入っている。卓上に置くような小型の物はキャスケット。こちらは宝石なども入れないこともないが、大部分は手紙や安物のアクセサリーを投げ込んでおく用。→コファー
チェスト・オブ・ドロワー chest of drawers
背の低い小型タンス。引き出しは普通3〜5段ほど。6段〜8段の高いのはアメリカでトールボーイ、英国ではチェスト・オン・チェストあるいはダブル・チェストなどと呼ばれる。ついでに高い脚付きのはチェスト・オン・スタンド。
同様の物でもロココ調などの曲線美を表したのはフランス語でコモード。
ドレッサー dresser
アメリカではビューロー(チェスト・オブ・ドロワー)と同じ意味、つまり引き出し付きの衣装タンス。特に鏡のついたものを呼ぶ事が多い。しかし英国では食器棚を言う。dressed
には服を着るとか着せる以外に魚や肉の下拵えの意味があり、英国ではそのような食事の準備台をドレッサーと呼んでいた。やがてその台の上に皿などを収納、ついでに飾る棚がついた。多くは皿が立てかけられるようになっており、上にフックがついてジョッキなどをぶら下げるようになっているのもある。
ドレッサーはオープンの食器棚で、扉がつくとカボード、その高級版がキャビネット、棚としてはあまり実用性のないタイプがサイド・ボード、とそれぞれ分類される。→カボード、サイドボード。
ドロップ・リーフ・テーブル drop-leaf Table
使わないときに支えを外して天板の一部を下げる様式のテーブル。片翼、あるいは両翼2枚を下げる。欧米の大きな部屋でこんな工夫が必要なのかとも思うが、昔は寝室が客間になったりで部屋の用途が混然としていたので、あるいは収納というより移動の便を考えた工夫なのかとも考える。
猫足 → カブリオレ・レッグ
ローズ・ウッド rosewood
英和辞典では紫檀となっているが、中国のそれとは違うようだ。あれほどには硬くなく、色合いも違う気がするのだが、お茶も加工によって紅茶となり緑茶となるのであるいは同じ種類なのかも知れない。欧米で使われているのはインドや南米原産なので、産地が違うと質感も変わるのか。
いずれ高級材料として18世紀から19世紀初期までは良く使われた。
パイン pine
松材。白くてニスも不向きなので、現代民芸家具では良く使用されているが、アンティークでは少なく、また概して価格も安い。
バタフライ・テーブル butterfly table
ドロップ・リーフ・テーブルの一種。アメリカ植民地時代の一つの様式に見られる形で、天板を支える小さな板が蝶の形をしているところから名付けられた。日本ではドロップ・リーフ・テーブル全体を指す言葉として使用される事が多い。
ビューロー bureau
米語。 英語では chest of drawers。引き出し付きの衣装箱、つまりタンス。フランスのコモードとも同じ意味。ただしアメリカでは鏡の付く場合が多いようだ。(英仏ではつかない物の方が多い)
デザイン的にはビューローはコモードとは対極的とも言える。つまりフランスのが曲線を多用した優美なスタイルが多いのに対し、アメリカのは直線的で実用重視である。
マホガニー mahogany
森の宝石と呼ばれる高級素材。現在では東南アジアが主産地らしいが、マホガニーが家具に使われ始めた17世紀の主産地はスペインとホンジュラス。1750年頃からそれまでのウォールナットに取って代わって栄えある最高級家具に使われる材木の座を射止めた。
もっとも大きなキャビネットともなると家具全体がマホガニー製というのはむしろ例外的で、内側はオーク材というのが多い。(フランスではウォールナット)
マルケトリー marquetry
木象眼細工。様々な色合いの木片を組み合わせ、風景や花柄などの模様を板として描く技法。家具や時計などの装飾に使われる。製法は色々あるが金太郎飴のように長い棒を組んでカットし、出来た花や葉などを更に組み合わせていくのが一般的。16世紀のイタリアが元祖のようだが17世紀後期のフランスで盛んになり、技術的にも完成された。木の他に貝、べっ甲、銅やピューターなどの金属も使われる。
インレイも同じ象眼だが技法が違い、こちらは元板に溝を開けてその窪みに違う色の木片を埋め込んでいく。インレイは中世に木板に象牙や骨を埋め込む技法として登場し、ルネッサンスにヨーロッパ中に広がった。
マルケトリーもインレイも組み終えた後で表面を磨いて平らにする。
金工
アマルガム amalgam
水銀は金属と結合しやすい。しかも土壌には結合しないので昔は砂金を取るのに多く使われた。ほとんどの水銀は回収されて再利用されるが幾らかは川に流れてしまうことなどあって公害の元となったこともある。水銀と金属の化合物はアマルガムと呼ばれるペースト状になり、これは熱を加えると水銀だけが蒸発して金属が残る。これを利用して金や銀メッキが施される。
オルモル ormolu →ブロンズ
カトラリー cutlery
食卓用刃物類。ナイフ・フォーク・スプーンなど。ナイフ・フォークが使われ始めたのはルネッサンス15世紀の頃だが一般に普及するのは(ほとんどの人々が使うようになるのは)19世紀以降。
ギルト・ブロンズ gilt-broze
オルモルと違って加熱メッキでなく金塗装のブロンズのことを言うが、欧米でも両者の区別は曖昧だ。
なおこの場合の金塗装とは金泥などのマガイモノ金でなく、純金の箔や粉をニカワ等で貼ったり塗ったりしたものを、本来は言った。→ブロンズ
コイン・シルバー coin silver
純度800、つまり80パーセントの銀。硬貨によく使われることからこの名称で呼ばれる。スターリング・シルバーより錆びにくいが、一旦錆びてしまうと取れにくいのでやはり手入れは必要。
ゴールド gold
金。幸か不幸かアンティークの純金製品など滅多に出会えるものじゃない。
ルイ14世が財務卿フーケの城に招待されたとき、傍らの砂糖壷を手に取り「見事な鍍金だな」と言ったところフーケは「それは鍍金ではなくムクです」と答えた。王はその答えに驚きフーケは王が驚いたことに驚いた、という逸話が残されている。
まだ王位についたばかりのルイには資金的余裕が無いこともあり、フーケの豪奢過ぎる城と調度品への嫉妬が彼を横領容疑で逮捕する一番の要因になったとは歴史家の通説だ。
いずれ、若きルイ14世ですら手になかなか入らなかった金製品、我々如きがコレクション出来る筈もない。
シェフィールド・プレート Sheffield plate
銀張り。銅板に薄い銀の板を圧着させて更に薄く延ばし、この板で製品を作る。英国シェフィールドで開発され18世紀半ばには各国に広まった。
シルバー Silver
銀。アメリカやイギリスでは単にSILVERと言うとメッキだったり、どうかすると銀色の金属の意味であったりするので注意。純銀(925)はSTERLING SILVER。
STERLINGかメッキか不明の場合、筆者は二つの方法で見分けている。一つは適度に錆びるまで放っておく。メッキはマダラに汚く錆びるが銀は平均的に穏やかに錆びる。ただし調合によるのか汚い手で触ったためか、スターリングと確認されたものでもマダラに錆びる場合もあればメッキでもシェフィールド・プレートのように厚いと平均的になる。また銀以外でも純銀の様に錆びる合金もあり、この方法だと正解率は6割程度。つまり当てずっぽうより少しマシ程度。
もう一つは、あまりお薦めはしないが傷をつける方法。目立たぬ部分を僅かに削って20倍のルーペで見る。銀メッキの素地が銅であれば一目瞭然、ホワイト・メタルでも概ね微妙な色層が見える。これは7割りくらい。大きな傷は付けられないから厚いメッキやシェフィールド・プレートには無力なのだが、アンティークのメッキはエレクトロ・プレートでも結構分厚いのが多いのだ。合金もこの方法ではわからないが、弾いてみると多くは澄んだ音がする。銀は鈍い。
水に沈めて比重を計るのは作業が難しいし、空洞や木部があれば無理。この条件に当てはまる銀器は少ない。
また手で重さを計るのも同様。100グラムの銀に対して同じ容量の銅は90グラム程だから、比較出来る全く同じ製品があればシロウトでも区別出来るだろうがそんな例には滅多にお目にかかれない(参考までに:鉄80グラム、金200グラム)。単体の場合では、計らなければならないのは重さでなく比重であり、ポットなどは空洞もあれば厚さの違いもあり、そこから正確な比重を出すことが出来るのは超能力者だけだ。
いずれ純銀にしても美術的価値が低ければ価格も低い。普通のスターリング・ポットで含まれる銀は地銀価格にすれば5000円から8000円程度。精製が必要だから実際に引き取らせるとしたらずっと下がるだろうし、それ以前に僅かな銀合金など受け付けてくれるかどうか。
スターリングだコインだメッキだと騒ぐのも、良い素材を使っているなら良い職人の手に為る品だろうとの目安であって、全面的な素材自体の評価ではない。だからくれぐれも銀製品は美観と細工で選びたい。
真鍮(しんちゅう) brass
ブロンズに亜鉛を加えた金属で、錆びにくいが金色というよりは黄色、工芸品では比較的安価な製品に使われる。もちろん実用品の用途は広く、燭台、やかん、鍋、ランプ、石炭バケツ、鍵、管楽器など挙げればきりがない。欧米では真鍮製品専門店も良く見かけるほどに身近な金属。
スターリング・シルバー Sterling silver
厳密な意味での純銀は柔らか過ぎて、ほとんど実用品としては使われない。装身具、食器、装飾品の多くはスターリング・シルバーで、これは純度925、つまり92、5%の銀。残りは銅を主に混ぜる。通常日本ではこれを純銀と称することが多い。
英国ではスターリング・シルバーは古今総て横向きライオンのマークで表される。アメリカでは
STERLING か925。ただし古いのは無かったり作者のサインだけだったりする。ヨーロッパでは様々な図柄が使われているので専門書を参照されたい。SILVER
だけのマークはアンティークには殆ど見かけない。
ニッケル・シルバー nickel silver
洋銀。ニッケルと銅、亜鉛の合金。銀は含まれない。カトラリーやコインに使われた。これ自体の製品はアンティークにはあまり見かけないが、銀メッキを施したのは多く、英国のはEPNSの刻印が打たれている。
ピュイフォルカ Puiforcut
パリのマレー地区は昔から金銀細工師たちが集まっていた。そこにエミュール・ピュイフォルカが1820年に工房を開いて工場の歴史が始まる。現代ブランドでは最も「伝統と格式を誇る」ってなもんだが残念ながらアンティークはほとんど見ない。
ピューター pewter
錫(すず)を主とした合金。ヨーロッパでは金銀銅より最も身近で庶民的な金属だった。柔らかく成形加工も容易なので13世紀頃から皿やボウル、飲用器に多く使用された。
成分は錫の他に鉛。亜鉛を加えることもあったようだ。ただし近年セランゴールとかで出してるピューター製品に鉛は入ってない。詳しくは知らないが、別の金属を加えて硬質化させているようだ。
古いピューターの鉛は合金にすることで無毒化するものと思っていたのだが、戦後の子供用ピューター製食器に「NO
LEAD」つまり鉛抜きの表示がある。どうやらまったく無毒という訳ではなさそうだ。もっとも昔、鉛に対して人類は寛容であった。日本でも鉛白を白粉に使っていて役者や遊女がその中毒で早死したり、ヨーロッパではパンを白くするのに鉛白を混ぜたことがあるというから何をか言わんや。よくぞ死人続出にならなかったものだ。鉛入り食器で鍛えていたせいだろうか。
ちなみに鉛白とは酸化鉛のことで、鉛を酢に漬けていると白い粉が吹いてくる、それが鉛白。
フラット・ウェア flatware
純銀または銀張りやメッキのカトラリーのこと。
カトラリーとは食卓用刃物類、ナイフ・フォーク・スプーンなど全般のことだが鉄やステンレスのカトラリーをコレクションする人も少ないので、普通フラット・ウェアがアンティーク・コレクションの対象になる。
古いフラット・ウェアは一本一本打ち出し、彫刻も手で彫られていた。量産が開始されたのは18世紀後期のことだが、装飾パターンに型を使っただけでやはりトンカントンカン打ち出していた。
完全な機械生産品が出回るのは19世紀も半ば。だからこの時代になるとどっと数が増え、更に末ともなればアメリカで大量生産が始まったこともあってほとんど時代的希少価値はなくなる。中古品扱いに近く、価格はブランドと装飾パターンで決められる。
20世紀初期の一般的アメリカのメーカー・スターリング(925銀)40本セットでプレーンな品なら4万円〜6万円ほど。彫刻のある品なら地味で6万円から8万、緻密であれば12万から15万円。ティファニーは近頃高沸してよほど人気のないパターンでもなければ20万円以下では中々手に入らない。
銀製品すべてに共通することだが古ければ古いほどイイというものでもなく、だいたい高値をつけるのは18世紀頃の作家モノが多い。例外としてルネッサンス時代の作家モノなどが出品されて億を超える時もあるが、これはごく希。普通18世紀以前では細工が良いものが少ないし、以後では希少価値が無くなるということだ。ただし18世紀モノは日本人の理解できる価格ではないから(プレーンなコーヒーポットで40万〜80万円、装飾があれば数倍、作家モノならヒトケタ増える)銀器に親しむなら19世紀後期モノから入門するのがいいだろう。
もっとも本格的コレクターでも入手出来るフラット・ウェアはほとんどが18世紀以降のものになる。17世紀のも無いことはないが、大半がスプーンだ。というのも元々ナイフ・フォークの習慣が新しいのに加えてナイフは刃先が摩耗しやすく、フォークも歯が曲がり易い。ツブシが利いたのが却って災いして、曲がったり凹んだのはすぐに溶かされ、新しい製品に作り直されてしまった為だ。比較的丈夫で数も多く生産されたスプーンだけがかろうじて生き残った。
古い銀器が少ないのは潰し易いこと以外にも、準通貨として通用したこともある。フラット・ウェアに限らず多くの銀器が戦争や浪費で傾いた経済の犠牲にされた。良い例が・・・良くはないが、ヴェルサイユ宮殿では数多くの銀製家具や食器・装飾品が財政難で処分されてしまった。現在残っていれば希少価値で地銀の数万倍の価値になろうと言うのに。
ブロンズ bronze
青銅。銅と錫の合金。
以前テレビで古墳時代の銅鐸を再現する番組があった。驚かされたのはその色で、鋳型から出したばかりの銅鐸はまばゆいばかりの黄金色・・・青銅の元の色が金色だとは頭で分かっていても、錆びた色しか普段見ていないと忘れてしまう。
古代日本人がすぐに輝きを失う青銅についてどう考えていたかわからないが、ヨーロッパ貴族には不満だったようで、工芸品に使われる青銅には金を塗ったりメッキを施すのが普通だった。前者はギルト・ブロンズ、後者はオルモルと呼ばれる。
オルモルはルイ14世の時代から置時計や家具の高級金具として盛んに使われるようになった。ただし近年では銅に少しの亜鉛を混ぜた、アクセサリーでピンチベックと呼んでいるのと同じ調合の合金をオルモルと称する場合も多く、両者は混沌としている。
ブロンズの代用品にスペルターとかレギュールとか呼ばれる金属がある。これは亜鉛に幾らかの銅を加えた合金で、ブロンズより溶け易く加工も楽だが、その分壊れ易いし型も甘いのでブロンズより格段に評価が落ちる。地金の色は銀色だったり銅色だったり配合によって変わるが、いずれ表面をブロンズ風に塗装するのが普通で慣れれば簡単に見分けられる。
まあヨーロッパの金属の歴史は長いので、実に様々な合金が作られているが、最終的には作りが重要、たとえ素材としては最下級の鉛や亜鉛だろうとカミワザ的な細工でもあれば高く評価される。滅多にはないが。
メッキ plating
アマルガムを使った手作業による場合もあるが、現在市場に出回っている多くは1840年に開発された電気メッキ electroplate によるもの。
英国銀メッキ製品にはEPの刻印(ニッケル・シルバーの場合はESPN)などあるので分かりやすいが、他国では工場・地方ごとに勝手な刻印を使っていたりするので判断は難しい。
→シルバー
ホール・マーク hallmark
金や銀器に刻印された製造地や年代を表すマーク。英国で1300年代に使用され始めた。
英国の場合、ホール・マークの管理はかなり厳格で、たとえば壊れたポットを花瓶に改造したなんて場合は新たに検査を受けて新しいマークを付けなければならなかった。当然ニセモノに対する処罰も厳しく、陶磁器などのマークと違ってかなり信用できる。
ただしホール・マークが保証するのはあくまで銀製品の真贋であって、美術品としての価値ではないことをお忘れなく。同じ重量でも細工によっては天と地ほどに値段に差が出てくる。
マッピン&ウェッブ Mappin&Webb
源を辿れば1774年にジョナサン・マッピンが小さな工房を開いたのが始まりとされるが、現在の工場の基本型が出来たのは1862年のこと。1868年には名前も現在のマッピン&ウェッブ社となった。この翌年にはスエズ運河が開通、中国からの茶の流通が増大し、この為中流家庭までもが紅茶を嗜むようになった。それに伴い銀や銀メッキの紅茶セットも需要を拡大してマッピン&ウェッブも興隆を極めた。
日本でも名高いマッピンだが何しろ数多いのでアンティーク・ブランドとしての価値はさほどでもない。銀メッキの紅茶セットなどは数万円で買えるのもあり、実用向きといえる。
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