パペット・アニメーション
byうどん氏

 数年前まではDVDはおろか、ビデオも手に入れるのが苦労したものですが、最近は洋書屋とか大きな本屋には結構置いてあるようになりました。結構メジャーなオサレ系雑誌で特集されたり、以前は予想できなかったくらい浸透しているので驚いています。おそらくオサレ系の専門学生などに受けるのでしょう。
 今ではなんだかおしゃれサブカルチャーのなかに食い込みつつあるようですが、私はそちらには縁が無く、ただ陰鬱なものや小暗いモノに惹かれるという方向から好きになったので、このジャンルの業界的な位置付けや、他のアートアニメをコンプリートしているわけでもないので、そういったことは知りません。なぜか幼い頃から、こういったコマ撮りで何か人形がむにゃむにゃ動くもの、が異様に好きなのです。(だいぶ前に「ヤッタゼマンの唄」の感想でも一部書きました。)
 ほかにこの手のアニメーションというと、「チェブラーシュカ」とか、少し古いところでは「ピングー」、「ウォレス&グルミット」、などなど、カワイイ系やシニカル系が有名で、チェコに限らず、ロシア、アジア問わずたくさん出ています。でも私はどちらかというと、そういった当り障りのなさそうなカワイイ作品よりも、少しグロテスクな、暗いような側面が強いものの方が昔から好きです。
 それなりにオモテに出てきたとはいえ、それでも見かける数は少なく、欲しいものはDVD化されてなかったり、とても値が張ったり、というようなわけで、あまり手元にありませんが、それでも無理やり書いてみましょう。


ヤン・シュヴァンクマイエル
『ヤン・シュヴァンクマイエルの不思議な世界』ダゲレオ出版


 チェコアニメの祖イジィ・トルンカをはじめ、今ではだいぶ色んなCD・DVDショップでも見かけることの多くなった、「パペット・アニメーション」や「コマ撮りアニメ」といわれるジャンルですが、その中でもトルンカに次いでよく目にするのがこの人の作品。パペットアニメというより、クレイアニメでしょうか。
 (この人の作品で短編ものは、コロンビアから出ている『ヤン・シュヴァンクマイエル短編集』のほうが入手しやすいです。コロンビアから出ているものは収録内容が違い、私はまだ買ってないので、そのうち欲しいです。)
 これは最初、4、5年前にVHSで買いましたが、のちにDVDで出たので買い直した記憶があります。全体的にバラエティに富んでいて、どれも楽しめます。この作品には実写ものも含まれており、なかでも「部屋」という作品は、荒木飛呂彦の「死刑執行中・脱獄進行中」というマンガのパクリ元になっているのではないかとずっと思っているんですが・・・。構成とか小道具がそっくり。「死刑・・・」を読んだときは、どこかに出典とかを記載してるのか確認した覚えがあるし。パクリというより、オマージュですかね。
 実写モノも含めて、どれも見てて面白い、という印象です。あまり見る側を選ばないというか。動きも緻密で、場面によってはややグロテスクなところもあり、好きな作品です。「男のゲーム」、「闇・光・闇」というのも楽しいです。壊れてるのに、単純に陽気な感じが。短編はどれも面白いです。アラン・ポーのモチーフが随所に出てきて、原典も知ってれば更に楽しめます。
 このDVDのほかに『アリス』という、不思議の国のアリスを題材にした長編もあり、実写とアニメを融合させて、完全な別世界を構築しているのが良かったです。(『アリス』含め、コロンビアから一連のシリーズが出ている。)評価も高いらしい。ほか、『悦楽共犯者』という風変わりな長編も見た(ネット通販ではなぜかアダルト扱い(笑))。それも面白かったけど、今のところ、個人的にはこの短編集が一番好きかな。『ファウスト』『ドン・ファン』『オテサーネク』未見。そのうち見たい。『ジャバウォッキー』は買ったまま見てない・・・。


ブラザーズ・クエイ
『ストリート・オブ・クロコダイル』ダゲレオ出版


 ヤン・シュワンクマイエルも好きだけど、個人的に大好きなのはコレです。
 とにかく暗い。薄暗い。雑誌のパペットアニメ特集などで、トルンカやシュヴァンクマイエルは取り上げられても、なぜかこの人たちはほとんど取り上げられることがない。何故だろう。
 これが最初の短編集だと思います。そのなかでもシュヴァンクマイエルに捧げた「ヤン・シュバンクマイヤーの部屋」と、神話を元にした「ギルガメッシュ」、表題作が特に良かったです。薄汚れた人形が小さな箱庭でカタカタ動いて、不思議なBGMが流れて意味がよく分からないまま淡々とおはなしが進んでいく、という感じ。音楽の妙な旋律もかなり癖になります。物語の意味とかは・・・全く分かりません(笑)。「ヤン・シュバンクマイヤーの部屋」は、なかでも分かりやすいほうで、人形の少年(これはクエイ監督のメタファーか?)がシュバンクマイエルのアトリエに遊びに来て、色んなことを手伝ったり教わったり、というものなんではないか、と。
 表題作は色身を抑えた青黒い風景の中で数体の人形が動くところにしびれました。あと、全体に漂う暗いエロチシズムというのか、なんというのか。
 もともと十数年ほど前、中学生のときにこれの上映のちいさな広告を映画雑誌で見て知ったのですが、その小さな宣伝写真の人形を見て、内容はどうあれ、「これ見たいなぁ」と強く思ったのです。しかし大都市のマイナー系劇場でしか上映されておらず、片田舎に住む中学生には見れずに悔しかった記憶があります。ずっと探していたわけではないのですが、それを98年ぐらいにとある本屋の洋書コーナーでVHSで出てるのをフト見つけて、即購入しました。実際に観て、予想していたより全然良くて、繰り返し見た覚えがあります。99年か00年に名古屋の小劇場で再上映されるのを知ったときは、早朝から見に行った思い出も。アメリカ出身の双子の監督らしく、得も云われぬ小暗さが漂っていて、小さい頃に見たらトラウマになりそうなところがトテモよいのです。
 ほかに出ている映像作品で現在入手しているものは、他に『ブラザーズ・クエイ短編集vol.2』と、実写の『ベンヤメンタ学院』というのがあります。どちらもVHSでしか持っていません。DVDで出たら買い直したいのですが、どうも出てないみたいです。
 実写の『ベンヤメンタ学院』というのも、ずっと霧のかかった世界に漂っているような感じがあり、不確かな世界に漂流するという点で同じような味わいが感じられました。でも、ケース裏に書いてあるムツカしいコピーを鵜呑みにすると、全然ワケがわからない。というか、内容は全く分からないです(笑)。「愛の迷宮に囚われた眠れる美女と、奉仕を生きがいとする小公子の不思議な不思議なおとぎ話」・・・分かりません(笑)。原作はそうなのかも。でも、モノクロームの映像で浮遊する感覚があって、なぜか好きな作品です。
 短編の『ブラザーズ・クエイ短編集vol.2』は、内容は殆どわかりませんでした(笑)。謎すぎ。「人工の夜景」というデビュー作も収録されていますが、私はこれよりも、数分の短編、「スティル・ナハト」が良かったです。「スティル・ナハト」は3つほど、中篇にまじって入っているのですが、秤の上の少女とウサギの人形、アリスのモチーフがあるのかもしれません。三つ目は「うさぎの持っている卵を盗もうとする悪霊」とかなんとからしいですが、説明がないと全く分からなかった(笑)。His Name is Alive (CDはあまり売ってない)のミュージッククリップらしい。三篇とも白黒ですが、とても良くて、音楽とも巧く世界がシンクロしていて、何回も繰り返して見ました。
 やはり第一短編集がバランス的には見やすいですね。とても内省的な傾向があるのでしょう。


イジィ・バルタ
『イジィ・バルタ短編集』ダゲレオ出版


 パペットアニメのみではなく、実写作品も多い。なかでも『最後の盗み』と『見捨てられたクラブ』が面白かった。大作の『笛吹き男』も見応えがあります。『最後の盗み』は実写に彩色して、やはり靄がかった、向こうの世界、という感じがあってとてもいいです。ストーリーも分かりやすいし、ややゴシックな感じが○でした。


ラウル・セルヴェ
『ラウル・セルヴェ作品集 夜の蝶』


 去年買った記憶があります。しかもハマー氏と会った折りに。もう一本、なにかと迷ってて、ハマー氏に「君がジャケで選ぶとしたらどっち?」と聞いて、こっちを選んだので買ったというもの。ジャケにスゴイ惹かれたのは確かで、裏ジャケのコピーにもポール・デルヴォーの世界がなんたらとか書いてあるので、期待していました。
 感想としては、もっと長くこの映像を見てたいなあ、と別の意味で残念だった感じです。8分、と短いのがもったいない気がした。コピーどおりでデルヴォーの世界を動かすとこうなる、みたいな雰囲気は充分あったのでいいけど。ほかの短編は、良かったのですが、それほど印象に残っていないです。


ほか

 ほかに、パペットアニメではないですが、ルネ・ラルーの『ガンダーラ』、『ファンタスティック・プラネット』も良かったです。特に『ファンタスティック・・・』の切り絵のぎこちなさというか、不思議な動きがとてもイイです。乾いた色調とソリッドな絵柄、内容も、つっけんどんではあるけれど、全然分からないというほどでもない。絵の色味や不思議な話の持っていきかたが好きですね。
 あと、だいぶ前にNHKでユーリィ・ノルシュテインというロシアのアニメ作家が特集で出たときにチラッと見た「話の話」というのも、なんか暗そうで良かったです。あまり暗い暗いと書くのもなんだかなあ(笑)、誤解されそうですが。ここらへんは比較的入手しやすいのではないかなあ。
 
 本来は、表現の自由とか体制への批判とかなんとか、それを実写で行なうと思想的な規制がかかるために、隠喩として人形劇という手法を使うという面で、チェコとかロシアのパペットアニメが発展してきたという面があるらしく、特にトルンカの代表作「手」などがそれを如実に表していると思います。トルンカといえば、NHK「三国志」の人形を作った川本喜八郎が師事していたこの世界での巨匠ですね。

こういったものを見てて思うのは、モノスゴイCG表現などとは別種の感動があるのだなあ、ということです。おそらく、人形をフル3DCGで作って見せるのと、薄汚れた人形をコマで撮るのと、双方を比べたとき、効率的にも画面の綺麗さもCG表現のほうが勝ると思います。手間は両方ともすごくかかるモノだと思うので、単純に比較は出来ないですけど。でも、例えばフル3DCGでグリグリ動くアニメーション(近年だと「モンスターズ・インク」とか「ニモ」)と、コマ撮りの人形や切り絵のアナログ・アニメーションと、どちらが好みかと訊かれれば、後者の方を選んでしまいます。うまく説明できないですが、なんかあるんでしょうねえ。
まあ、そうは言っても勿論CG表現も好きです。マトリックスシリーズやスターウォーズシリーズ、ロード・オブ・ザ・リングなど、天晴れな表現に素直に「スゴイ」という感動はあります。これはCGでなきゃ無理だろう、という。逆にCGを使ってないとチープになってしまう。驚きの感動というか、そういうものですね。

と、つらつら書いてみましたが、もし興味のある方は、パペットアニメーション作品など、ご覧になってみてください。

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