2−11

 馬車から顔を覗かせた女性。
年の頃は十代後半といったところか。
少女というには色気を感じ、女性というには未だ瑞々しい可憐さを併せ持つ、そのアンバランスなところが非常に魅力的だった。
薄茶の美しい髪を惜しげもなくショートにし、大きく印象的な瞳が二人の方を見つめて更に見開かれた。

「…あら!カイじゃない!」

身軽な動きでひらりと馬車から飛び降りると、彼女はカイゼルに抱きついていた。
親愛の情を示す挨拶なのだろうが、カイゼルは顔を真っ赤にしながら引き離した。

「クレア!こんな道のど真ん中で…。」
「何よ、ちょっと挨拶しただけじゃない。」

くすくすと、クリアスタの“魔聖エルシアーヌ=エヴァーニア”の一人娘クレア=エヴァーニアは悪戯っぽく微笑む。
彼女は魔導士らしからぬ、活動的な格好をしている。
ショートパンツから伸びる健康的な白い足を、カイゼルは眩しそうに眺めて言った。

「相変わらず魔導士らしくない格好だな…。ローブぐらい着たらどうだ?」
「冗談言わないでよ。あんなダサイ格好なんかしたくないわ。」

乙女は身だしなみが大切よ、と言いながらわざとらしくポーズを取るクレア。
確かに彼女がダボダボとしたローブを着るのは勿体ない。
そう思わせるほど、抜群なプロポーションの持ち主だ。

「カイも鎧以外の服を着てみなさいよ?中身は捨てたもんじゃないんだから、結構もてるわよきっと。」

水を向けられて、カイゼルは渋い顔になった。

「俺が鎧を着るのは騎士としての心得だ!ファッションの問題じゃない!」
「鎧しか着るもの持っていない癖に。」

カイゼルの説明に、やれやれといった具合に首を振るクレア。
その目が、これまで会話に加われずボーっとしていたロクスを映す。
まるで品定めするようにその視線は爪先から頭までを見回した。

「…誰?彼女?」

カイゼルに尋ねるその目は真剣そのものだ。
口調がやや不安げなのは気のせいでもあるまい。
しばらくの間、口をあんぐりと開けていたカイゼル。
やがて彼は大笑いし始めた。

「ワハハハハ!お前もそう思うのか?ハハハハ!!」
「な…何よ。誤魔化さないでよ!」

カイゼルの胸にすがりつかんばかりの勢いで真剣に問い詰めるクレア。
その様子が可笑しく、カイゼルは腹を抱えてのたうち回った。
一連の様子を見守っていたロクスは、何がどうなっているのかを理解したようだ。
申し訳なさそうな表情で、クレアに近付く。

「あの〜…。」
「私はカイに直接聞きたいの。」

ぴしゃっと言われて、ロクスは更に困惑した表情を浮かべる。

「僕…男ですよ。クレアさん…。」

次の瞬間、呆気にとられた顔でクレアはまじまじとロクスを見つめた。
ようやく笑いを収めたカイゼルが、そのクレアの表情を見てまた地面をのたうち回る。
鳩が豆鉄砲を食らった、と言うのは当にこんな顔なんだろうとロクスは一人思う。
我に返ったクレアが、ヒーヒー言っているカイゼルに尋ねる。

「ほ…本当にこの子…男なの?」
「し…信じないなら…身体検査でも…したら…どうだ?」

笑いすぎて腹が痛いのか、カイゼルの返事は途切れ途切れだ。
真剣そのもののロクスとカイゼルを交互に見比べながら、クレアはぽつりと言った。

「…そんな事って…有るの?」
「残念だが…事実は曲げようもない真理だ。」

笑いを堪えながら、カイゼルがようやく立ち上がる。
ロクスが深い溜息を付いた。

「カイ…僕床屋に行きたいな…。」

髪を切れば少しはマシになるだろう、
それが今のロクスの切なる願いであった。

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