2−12

「ごめん、私って本当に早とちりねアハハ。」

何処かで聞いたような言い回しで、勘違いを詫びるクレア。
なかなか信じようとしない彼女だったが、どうにかロクスの身体検査まではやらずに済んだ。
ひたすら平身低頭の彼女を見ながらニヤニヤしているカイゼル。
どうやらついこの間、自分が同じ過ちをしていることをすっかり忘れているようだ。

「良いんです…いつものことですから…。」
「やっぱりそうなの?アハハハ!」

これまた何処かで見たようなパターン。
類は友を呼ぶか…
最早溜息を付く気力さえもロクスには残っていない。
疲れ切った顔で、馬車の窓を流れ行く景色に目を遣る。
もともと共通項の多い魔導士と賢士だけに、クリアスタの町並みは何処かロカマスに似ている。
さすがにロカマスの料理屋は、自分の炎魔法で料理をすることはないが…。

「そいつが女っぽいからって侮るなよクレア。何せあの大賢者様の愛弟子なんだからな。」
「え?ロームお爺様の?」

ニヤニヤ笑いを浮かべたままのカイゼルを、ロクスがきっと睨み付ける。
自分がロームの愛弟子なんて畏れ多い。
しかし、否定すればどうせロームが勘違いしたことを話すつもりなのだろう。
(人の不幸だと思って…!!)
唇を噛み締めるロクス。

「おお、そうともさ。何しろ巨大なドラゴンとか…。」

不意に言いかけた言葉を呑み込むカイゼル。
その目が、やや不安そうにロクスを見つめた。

「?」
「え?この子がドラゴンを召還したって言うの?」

興味津々、といった感じで続きをせがむクレア。
しかし、カイゼルは曖昧な言葉遣いで

「え?、ああ…そう…というか…。」

カイゼルの脳裏に、金色に輝く美しい髪と、鮮やかなライトブルーの瞳が焼き付いたまま離れなかった。
耳元で、誰かが囁いている。
(ゼンブ…キエテシマエ)
耐えきれなくなって、カイゼルはロクスから目を逸らした。
ロクスの向こうに、もう一人のロクスの姿が重なった。

「カイ?どうかしたの?」

心配そうにのぞき込んでくるクレアに、カイゼルは無理に微笑んで見せた。

「いや…別に。」

長い付き合いなだけに、カイゼルの躊躇いを感じ取ったクレアはそれ以上追求しなかった。
話し相手をロクスに求めてくる。

「でも、何でカイと一緒にいるの?」
「…武者修行です。」

ロクスは仕方なく、自分が賢士ではないことや、イヴァリアスで騎士として修行するためにロカマスを出立したことを説明する。
半分も説明しない内に、クレアはロクスをじろじろ見ながら言った。

「悪いけど…あなたどう見ても“騎士”ってイメージしないよね…。」
「…僕もそう思います。」

騎士としての成長を期待できそうもなければ、拳士としての修行を積む予定を話すと、クレアはけたけた笑い出した。

「何よそれ…嫌がらせ以外の何でも無いじゃない。クリスと一緒に修行したら、貴方の体は無事じゃ済まないわよ?」
「でも…僕は魔法を扱えないから…。」

ふ〜ん、と軽く頷くと、彼女はいきなりロクスの手を握った。
咄嗟の出来事に、ロクスは一瞬何が何だか判らなくなった。
顔を真っ赤にするロクスを見てクレアは笑った。

「アハハ、何照れてるの?ちょっと手を握っただけじゃないの。」
「でも…いきなり…。」

恥ずかしげに俯くロクスに、クレアは微笑みながら言った。

「あなたは決して魔力がないわけじゃないわね。未だ眠ってるだけよ。」

修行したければ何時でもいらっしゃい、
そう言ってクレアはウィンクした。

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