2−13

 クリアスタの王城は六つの塔に囲まれている。
その指す意味がダビデの星だと知ったとき、ロクスは如何にも魔導国家らしいと思った。
この分では騎士国家イヴァリアスの王城はどんなデザインなのだろう。
まさか王城自体が騎士の鎧姿だとか?

「何一人で笑ってるんだ?ロクス…。」

一人想像に耽っていたロクスは、慌てて首を振った。

「べ…別に。どうして六つの塔があるのかなって…。」

言い訳になってはいない。だが、気にも留めずにクレアが答えてくれた。

「これでも考え抜かれたデザインなのよ?王城自体を守護の紋章で取り囲んでいるのだから。」

邪悪な魂を近付けないためのバリアー。
建築そのものがこなす役割を知って、ロクスは恐れ入った。
ただの魔導士的美的センスによるものではないのだ。
感嘆するロクスを得意げな表情で見守るクレア。
そんな二人をカイゼルは黙って観察している。
魔法に全く興味がない彼にとって、城自体が何の意味を為そうと関係がないようだ。

「まあ此処まで来たんだ。早くエルシアーヌ様にお会いしたいものだが?」

二人を急かす。
それに待ったをかけたのはロクスだ。

「あの…僕…髪を切りたいんですけど…。」

いい加減女に見間違われることにもうんざりなのだ。
もう少し髪を短くすれば、少しはマシになるだろう。
カイゼルも、クレアも、間違えた身としてはその気持ちはよく判る。

「そうね。じゃあ王宮付きの美容師に頼んでみましょう。」

さすがに王宮には何から何まで揃っているようだ。
王族専属ならまず間違いはあるまい、と安心してロクスを預けると、クレアとカイゼルはエルシアーヌが療養する私室へと足を向ける。
魔導士の王城、というと何となく陰鬱としたものが思い浮かんでしまうが、クリアスタの王城は開放的で明るいものだ。
あちらこちらに品のいい美術品が並び、美しい花が飾られている。

「相変わらずだな…此処は。」

しかし、カイゼルは顔をしかめている。
あまりに緊張感のない空間が、彼としてみると不満なのだ。
何事も質素剛健に在るべき、と考えてしまう。

「どうだクレア。あの花を全部どけて武具一式でも飾れば…。」
「…貴方の美的センスは到底認められないわよ。」

此処にある陳列品は体外クレアが集めたものだ。
魔導士の城、という単語から来るイメージを払拭したいと必死になって改装に務めた結果である。
そもそも彼女が魔導士の象徴とも言えるローブを着ないのも、そう言った伝統的な価値観を打破したいと願うからである。
真っ暗な地下室で水晶玉片手に怪しい研究をしてる、なんて思われるのが嫌。
それが彼女のモットーである。
彼女の努力の賜物か、最近は魔導士志願でやってくる旅人の数も増えつつある。

「エルシアーヌ様の具合はどうなんだ?」

カイゼルは、常に自分の前を歩くクレアの背に問いかける。
彼が重度の方向音痴だということをクレアがよく判っている証拠だ。
男として、騎士としては彼女の前を歩きたいのも山々なのだが…恐らく許してはくれまい…。

「病養中、何て言うからみんな心配してるけど、ただの風邪よ。政務はきちんとこなしてるし全然心配要らないわ。」

さすがだな、とカイゼルは感心した。
エルシアーヌは有能な君主であり、些細なことでは政務を他人任せにしたりする人柄ではない。
それこそ、何処かの白髭の御爺様には見習って欲しいものだ。

「あれ?誰か来てるのかしら…。話声が聞こえる。」

確かに、エルシアーヌの私室から和やかに談笑する声が聞こえてくる。
いや…和やかなのはエルシアーヌの笑い声だけだ。
もう一方の声はやけにテンションが高い。
思わず顔を見合わせ、頷き合う二人。
抜き足差し足…そっと近寄ると部屋をのぞき見た。
やはり、来客者は二人の予想通りであった。

「…ジイさん!?何で此処に居るんだ!?」
「ロームおじいさま!?」

振り向く白髭の老人は不機嫌そうに言った。

「…何じゃお前達。人の恋路の邪魔をしおってからに…。」

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