2−14

 部屋の中は、既に山のようにロームからエルシアーヌへのプレゼントらしき品物が積まれていた。
何かの学術書らしき本から、果ては巨大なぬいぐるみまで、実にバリエーション豊かな空間が広がっている。
その中で、尤も目を引くのは、寝台の傍にでんと居座る大量のバラの花束…。
ご丁寧なことに、ちゃんと棘は処理され、一本一本全てにメッセージが添えられている。
呆気にとられて辺りを見回すクレアとカイゼルに、エルシアーヌが困ったような笑みを見せながら呼びかけた。

「二人とも、ちょっと狭いかもしれないけどお入りなさい。」
「エリサ…。」

何か言いかけるロームを無視して、にっこり笑いながら二人を手招きする。
その笑顔に誘われるように、二人はおずおずと部屋に入った。
普段ならば、母親に遠慮することなど無いクレアも、恨めしげなロームの視線を気にしてやや落ち着かない様子である。
カイゼルもプレゼントの山の中で、所在なさげに立ち尽くしている。

「お久しぶりねカイゼル。どう?イヴァリアスの政務には慣れたかしら?」
「は、はあ…まあ何とかやっております。」

カイゼルのはっきりしない返事に、くすくすとエルシアーヌは笑った。
年齢を感じさせない、無垢な少女のような微笑み。
この美貌の魔導士は、美しく年齢を重ねている。
英雄達の永遠のアイドルである魔聖エルシアーヌ…確かに心を動かす魅力に満ち溢れている。
カイゼル自身、このエルシアーヌの前ではまるで年端のいかない子供のように素直になってしまう。
(ジイさんの気持ち…わからんでも無いがな)
エルシアーヌは愛娘との会話に夢中になり、すっかり存在を忘れられてしまったロームはしょぼくれている。
その情けない姿を見ると、「王」を倒した伝説の「英雄」達も人の子だということがつくづくよく判る。
彼らも恋をし、失恋をし、こうして生きてきたのだ。
無意識のうちに弛む口元を引き締めると、カイゼルはロームの肩を叩いた。

「ジイさんよ…人は万能じゃない。例え大賢者のあんたでも、どうやっても上手くいかないことだってあるさ。」

ギロリ、とカイゼルを睨み付けるローム。
しかし、直ぐに薄く笑ってみせた。

「そうじゃのう…ワシにもおぬしの方向音痴だけは治せそうもないわ。」

憎まれ口を叩いたことですっきりしたか、ロームは腰を上げる。
今にも帰りそうな雰囲気である。

「おい、弟子に会いもしないで帰るのかい?」

不満そうなカイゼルを無視して、ロームはエルシアーヌの手に軽く接吻した。

「エリサ…くれぐれも体に気を付けてな。」

エルシアーヌが微笑むと、ロームは顔を真っ赤にしながらもぞもぞしている。
やがて、懐から一枚の封筒を出してエルシアーヌに手渡すと、即座にその姿がかき消えた。
実に鮮やかな退出に、クレアもカイゼルも思わず拍手していた。
エルシアーヌは手早く封筒を開け、中身に目を通すなり、苦笑を漏らしている。

「お母様、ロームおじい様は何て書いてるの?」
「野暮なこと聞かないの。」

軽く娘の額をこづくと、手紙を寝台脇の机にしまう。
おそらくはラブレターと言うところだろうか。
英雄として共に行動していた時代から、ロームはエルシアーヌに求婚し続けていたというのだから…果たして何枚目なのだろう。
とても普段の行動からは想像できないその熱意、マメな行動に、カイゼルは脱帽していた。

「カイゼル様、お連れの方をご案内致しましたが…。」

案内役の魔導士の後ろから、おずおずと顔を出したロクスを見て、カイゼルは思わず吹き出していた。

「ろ…ロクス!それはやりすぎだろう!!」

五分刈りに刈り込まれたロクスの髪。
美しい容姿と相まって、以前より却って怪しくなってしまった気がする。
ロクスも既に半泣き状態で小さく言った。

「男らしくって言ったら…こうなっちゃいました…。」

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