彼を一目見た瞬間…私は言葉を失った。 (何故…何故此処に居るの!?) 似ているのだ…私が嘗て愛したあの人に…。 でも、そんなはずはない。彼はまだ遠い別の場所にいるはずなのだから… 何もかもを失ったままで…。 「カイゼル、そちらは?」 なかなか笑い止まないカイゼルを睨んでいたロクスが、慌ててエルシアーヌに向き直った。 横でヒーヒー言っているカイゼルは紹介してくれそうもないので、自分で名乗ることする。 「はじめまして、エルシアーヌ=エヴァーニア様。ロカマス王宮に勤めるロクス=オリフィールドと申します。」 ロクスは、興味深げに見つめてくるエルシアーヌの視線を痛く感じていた。 よりにもよって、「英雄」の前でこんな恥ずかしい格好をしなければならないなんて…。これならば、いっそのこと坊主頭にした方がマシかも知れない。 どうせ、騎士の修練で実りがなければ、修行僧としての生活が待っているのだから…。 覚悟は早めに決めた方が良い。 「ロカマス…と言うことはロームの…。」 「…雑用係です。」 余計な横槍が入る前に、あらかじめ言っておく。ようやく笑いを収めて、弟子だと言おうとしていたカイゼルが悔しそうな顔をした。 フフフ。何時までも好きにはさせません。得意そうに、鼻をうごめかすロクスだったが、 「ロームに聞いたわよ?才能のない弟子を持つと苦労するって。ひょっとして…貴方のことなのかしら?未だ若いって言ってたし…。」 目論見が外れ、思わずひっくり返るロクス。何故…余計なことを!! 便乗して、カイゼルが笑いながら言う。 「そうなんですよ。魔法が扱えないとか言ってますけど。」 ところが、カイゼルの目論見もまた外れることになるのだ。他人の不幸は密の味、という笑いをみせるカイゼルに、 「貴方も昔は相当苦労してたじゃないのカイゼル。」 思わず、答えに詰まるカイセルを見て、ロクスが反撃に出る。 「本当なんですか?カイが昔は弱かったって…。」 次の瞬間、カイゼルがロクスを小脇に抱えると、エルシアーヌに向かって敬礼して見せた。 「私、大事な用事を思い出しましたもので…これにて失礼いたします!」 エルシアーヌの返答を待つまでもなく、カイゼルは全速力で飛び出していってしまった。魔導士親子は呆気にとられてその場に立ち竦んでいたが、やがて顔を見合わせて大笑いし始めた。一方ロクスはふくれっ面でカイゼルをなじっていた。 「狡いですよカイ…自分の都合の悪いときだけ…」 カイゼルは聞こえないふりをしている。いつもより気持ち早足で歩きながら。 「何やってんのカイ?出口ならあっちだけど…」 クレアがその背に声を掛けた。恨めしげに振り向くカイゼルに、 「大事な用って武神祭でしょう?早く行かないと間に合わないよ。」 クレアの言葉を聞いたカイゼルの顔が、次第に青ざめ始めた。その表情の変化を看取ったクレアが、呆れたような口調に変わった。 「まさか…忘れてたの?」 「…それを早く言え!!」 事態の飲み込めないロクスを小脇に抱えると、カイゼルが猛ダッシュで出口と全く反対の方へ突っ走り始めた。その背を必死に追いながらクレアが叫んだ。 「だからそっちじゃないって言ってるでしょ!私が付いて行くから大丈夫よ!」 |