2−15

彼を一目見た瞬間…私は言葉を失った。
(何故…何故此処に居るの!?)
似ているのだ…私が嘗て愛したあの人に…。
でも、そんなはずはない。彼はまだ遠い別の場所にいるはずなのだから…
何もかもを失ったままで…。

「カイゼル、そちらは?」

 なかなか笑い止まないカイゼルを睨んでいたロクスが、慌ててエルシアーヌに向き直った。
 横でヒーヒー言っているカイゼルは紹介してくれそうもないので、自分で名乗ることする。

「はじめまして、エルシアーヌ=エヴァーニア様。ロカマス王宮に勤めるロクス=オリフィールドと申します。」

 ロクスは、興味深げに見つめてくるエルシアーヌの視線を痛く感じていた。
 よりにもよって、「英雄」の前でこんな恥ずかしい格好をしなければならないなんて…。これならば、いっそのこと坊主頭にした方がマシかも知れない。
 どうせ、騎士の修練で実りがなければ、修行僧としての生活が待っているのだから…。
 覚悟は早めに決めた方が良い。

「ロカマス…と言うことはロームの…。」
「…雑用係です。」

 余計な横槍が入る前に、あらかじめ言っておく。ようやく笑いを収めて、弟子だと言おうとしていたカイゼルが悔しそうな顔をした。
 フフフ。何時までも好きにはさせません。得意そうに、鼻をうごめかすロクスだったが、

「ロームに聞いたわよ?才能のない弟子を持つと苦労するって。ひょっとして…貴方のことなのかしら?未だ若いって言ってたし…。」

 目論見が外れ、思わずひっくり返るロクス。何故…余計なことを!!
便乗して、カイゼルが笑いながら言う。

「そうなんですよ。魔法が扱えないとか言ってますけど。」

 ところが、カイゼルの目論見もまた外れることになるのだ。他人の不幸は密の味、という笑いをみせるカイゼルに、

「貴方も昔は相当苦労してたじゃないのカイゼル。」

 思わず、答えに詰まるカイセルを見て、ロクスが反撃に出る。

「本当なんですか?カイが昔は弱かったって…。」

 次の瞬間、カイゼルがロクスを小脇に抱えると、エルシアーヌに向かって敬礼して見せた。

「私、大事な用事を思い出しましたもので…これにて失礼いたします!」

 エルシアーヌの返答を待つまでもなく、カイゼルは全速力で飛び出していってしまった。魔導士親子は呆気にとられてその場に立ち竦んでいたが、やがて顔を見合わせて大笑いし始めた。一方ロクスはふくれっ面でカイゼルをなじっていた。

「狡いですよカイ…自分の都合の悪いときだけ…」

カイゼルは聞こえないふりをしている。いつもより気持ち早足で歩きながら。

「何やってんのカイ?出口ならあっちだけど…」

クレアがその背に声を掛けた。恨めしげに振り向くカイゼルに、

「大事な用って武神祭でしょう?早く行かないと間に合わないよ。」

クレアの言葉を聞いたカイゼルの顔が、次第に青ざめ始めた。その表情の変化を看取ったクレアが、呆れたような口調に変わった。

「まさか…忘れてたの?」
「…それを早く言え!!」

事態の飲み込めないロクスを小脇に抱えると、カイゼルが猛ダッシュで出口と全く反対の方へ突っ走り始めた。その背を必死に追いながらクレアが叫んだ。

「だからそっちじゃないって言ってるでしょ!私が付いて行くから大丈夫よ!」

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