2−3

 アトラスへの旅路に広がる深い森。
カイゼルの話によるとその森に住まうという魔物に、遂に二人は出くわしたようだ。

「本当の話だったんですか!?さっきの…。」
「お、おう。当たり前じゃないか。俺が嘘をつくと思ったか?」

とてもあらかじめ知っていたとは思えないほど、カイゼルは動揺している。
その態度を見ればバレバレなのだが、ロクスにとって見ればそんなことはどうでも良い状況になりつつある。
今は嘘云々よりも、魔物に遭遇してしまったことの方が重要だ。
幸いにも、これ程まで心強いものは無い“味方”…イヴァリアスの聖騎士が傍に居る。

「早くやっつけて下さいよ!」
「しかし…。」

あまり戦闘のプロといえる騎士らしくない態度を見せるカイゼル。
というのも、相手が何者だかよく判らないからなのだ。
カイゼルは騎士であり、剣を扱わせれば右に出る者はそうは居ない。
しかし、その反面魔法に関してはからっきし弱い。
もし相手が魔力を持つ魔獣なのであれば、不覚をとりかねない。
(せめてクレアの奴が居てくれれば…)
無い物ねだりな感情が湧き起こるカイゼルの脳裏に、あるシーンが甦る。
そう、あのインチキ臭い“賢士学講座”だ。

「そうか!ロクス、これはお前の良い武者修行になりそうだぞ!」

予想だにしなかった言葉に、ロクスが蒼くなる。

「ど、どういう意味なんです?」
「何も剣を使うだけが武者修行じゃない。賢士としての才能を磨くチャンスだ。あのジジイから貰った本を使って、あいつをやっつける!」

グッドアイデアだろう?とウィンクするカイゼルに、ロクスは半泣き状態ですがりついた。

「そんな〜!僕、魔法は扱えないって言ったじゃないですか!死んじゃいますよ!!」
「いいからやるんだ。死にたくないならな。ちゃんと援護はしてやる!」

まさか、自分の弟子が魔法を扱えないことを判っていて、あんな本を渡すわけはあるまい…。きっと何か仕掛けがあるに決まっている。
必死の形相で本をめくるロクスをチラチラと見遣りながら、カイゼルは自分に言い聞かせる。
しかし…改めて考えてみると怪しい気もする。
あの賢者ロームがそんな粋な計らいをするだろうか?
(まさか…本当に単なる“教則本”じゃないだろうなあ…)
茂みの中で不気味に光る二つの目は確実に二人の動きを見張っている。
殺気を余り感じないのは何故か…様子を窺っているだけなのか?
ならばいっそこちらから行けば、案外逃げてしまうのでは無かろうか?

「よし、準備は良いかロクス?俺が奴を引きつける間に何かやれよ!」
「は…はい!」

返事をしたまでは良かったが、半ばパニック状態のロクスにとってすれば、自分が今何について書かれたページを見ているのかさえも理解できてない。
しかし、既に剣を手にカイゼルは茂みへと突進を開始していた。
(何か…何かやらなきゃ!!)
どうせ何をやっても同じだろう、自分が魔法を使えるわけがない。
ロクスは適当に開けたページに書かれた呪文を、大声で読み上げた。

「〜〜〜〜!!」

一方、茂みへと飛び込んでいくカイゼル。

「うおおおおお!!逃げちまえ〜!!」

しかし、二つの目はカイゼルを見据えたまま動こうともしない。
駄目か…。覚悟を決めたカイゼルは闇雲に斬りかかろうと剣を構える。

「!?こ、こいつは…。」

目の前に対峙する白黒斑模様の“魔物”は、モ〜ッと長閑な鳴き声を挙げてこの珍客を出迎えた。
放牧された迷い牛らしく、人に驚くどころかすり寄ってくる。

「何だよ…驚かせやがる…。おいロクス、来て見ろよ。」

恐る恐る近付いてきたロクスが、魔物の正体を見てその場にへたり込んだ。

「…何処が魔物なんですか!?」
「まあ…良いじゃねえか牛で。もし本物の魔物だったら即ピンチ…。」

ふと背中になま暖かい風を感じ、カイゼルが背後を振り向く。
その途端引きつったカイゼルの顔を不審に思い、つられて振り向くロクスの表情が凍り付いた。

「…ウソ…。」


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