2−5

「いきなりあんな高レベルなものを召還するとは…。」

ぶつぶつ言いながら、手にした本をパラパラめくるローム。
ロクスの開いていたページは”賢士学講座”の最終章。
高位ガーディアン召還の項であった。
ドラゴンやタイタンといった巨大で、扱うのが最も難しい魔物達を自らの配下として操るだけに、よほど練度の高い賢士でなければそうそう手を出せない代物だ。

「基本講座をすっ飛ばしてあんなものを扱える訳無かろうが。」

聞こえもしない小言を繰り返しながら、その間もコンコンと手にした杖でロクスを小突くローム。

「おぬしもじゃカイゼル。牛と魔物の気配の違いぐらいは見分けられんのか?」

寝ている相手に言っても無駄と悟ったか、急に矛先が変わった。
びくっとカイゼルの肩が揺れる。
どうやら一部始終見届けていたらしい。
それでも騎士か。
ドラゴン相手に力押しで勝てるとでも思ったのか。
次々に飛んでくる叱責の言葉に畏まるカイゼルに軽く舌打ちをすると、ロームはその場で本の書き換えを始めた。

「この高位ガーディアン召還のところは一定レベルの魔力がなければ開かんようにしておくか…。」
「そんなに危なっかしいものならば持たせなけりゃどうなんだよ?」

カイゼルの反論に、ロームは暫く黙った。
が、直ぐに鋭い視線を送りながら

「いや、これはいずれ必要になるものじゃ。」

それ以上は何も言わず、本の改訂作業に没頭するローム。
一時半ほど掛けて改訂を終えると、まだ気が付かないロクスを見て溜息を付いた。

「…出来の悪い弟子を持つと苦労するわい。」

いつもの穏やかな雰囲気になったロームに、カイゼルは気になった一言について問い質す気になった。

「いずれ…賢士としての力が必要になる…とはどういう意味なんだ?」

再び、ロームの目つきが厳しいものに変わった。
問いに答える様子はない。
諦めきれずに、黙って答えを待つカイゼル。

「…おぬしの方向音痴にも困ったものじゃ。アトラスの入り口まで案内してやろう。」
「何故…答えないんだジイさん?」

答えを聞くまでは動くつもりはない。
そもそも、何故ロクスに騎士としての修行を積ませるのかも判らない。
この僅かな旅路を通しても、ロクスに騎士としての資質があるようには到底見えない。
敵に立ち向かう気迫がないのだ。
身近にいた人間ならば、そんなこと初めから承知しているはずである。

「ついてこい。アトラスへの門は直ぐそこじゃ。」

それ以上は聞くな、そうロームの目が語っていた。
年の離れた親友。
しかし、時にロームは肝心な部分を語らないことがある。
それがカイゼルには気に入らない。
(未だ若いとでも言いたいのかよ…)

「英雄」としてのロームは、何処か自分を軽く見ている気がする。
まだまだ一人前ではないことぐらいは判っているが、まがりなりにも一国の主として市政を束ねている身としてみれば、この扱いは気に障るというものだ。
それはロームだけではない。
「魔聖」エルシアーヌ、「拳聖」クライファート、アトラスのラルスという「英雄」達も同じだ。何処か距離を置いて自分に接しているようにカイゼルは感じている。
でなければイヴァリアスの王である自分が、ラルスに単独では会えないということがまかり通るわけもないだろう。

「ほれ、着いたぞ。」

アトラスへの入り口、とは言ってもまるで景色は変わらない。普通の森の中だ。

「じゃあワシは此処で失礼するぞカイゼル。ロクスをよろしく頼む。」
「…いつか話していただけますね?」

徐々に消えゆく後ろ姿に、カイゼルが改まった口調で問いかけた。
黙って手をひらひらと振るその姿は、遂に見えなくなってしまう。結局、彼の希望に応えることなく…。
暫く苛立たしげに頭を掻くが、結局どうしようもないことだ。

「あのジジイめ…今に絶対白状させてやる!」

普段の自分を取り戻すと、懐から小さな宝玉を取り出す。
この宝玉こそ、アトラスへの通行手形とも言うべき品なのだ。
よく注意してみれば、周囲の木の中に不自然な穴がちょこんと開いているものがあるのが判る。
といっても、この宝玉の意味を知らない者にとってみれば、単なる穴としか認識しないだろうが…。
宝玉はピッタリと穴に収まる。
すると白い霧が何処からともなく立ちこめてきて、二人の周囲を白く包み込んでいった。

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