世界の中央に位置する国アトラス。その中心に位置する神殿こそ、英雄ラルスの護るカヴァエラ神殿。 「尤も祀っているのは神様じゃなくて“王”なんだけどな…。」 「“王”って…あの“王”のことなんですか!?」 素っ頓狂な声を挙げるロクスに、カイゼルは神殿の壁を指し示す。 「壁に何かごちゃごちゃと彫ってあるだろう?あれは全部ジイさんが施した魔法らしいぜ?俺には何のための魔法かはよく判らんがな。」 世界の邪悪なる支配者であった“王”。 その“王”をこのアトラスの地で打ち破った五人の英雄達は、邪霊となって暴れることの無いように、その魂を祀る神殿を建てた。 その神殿こそこのカヴァエラなのである。 「このアトラスには人は一切住んでない。万が一神殿に異変が起こって、邪霊が暴れ出したら困るからさ。」 ふと、カイゼルは説明をやめて辺りを見回した。 ガチガチ、とどこからか妙な音が聞こえて来るのだ。 背中に背負っているロクスの震えを感じ取ったカイゼルは、思わず吹き出した。 「おいロクス。まさか怖くて歯が噛み合わない、なんてこと無いだろうな?」 「は…早くこんな国出ましょうよ!」 本気で怯えているロクス。 辺りを落ち着き無くきょろきょろ見回しているのは、神殿に異常が起きることを警戒しているかららしい。 その様子は滑稽であり、カイゼルの心の中に悪戯心が芽生える。 「ついでに言うとなあ…此処は“約束の地”とか言われていて…この地に眠る“王”の力を求めて厄介な魔物共がうろうろすることもあるんだが…。」 “厄介な魔物がウロウロ…” この言葉が決定打となった。 怯えに怯えるロクスの心は完全に感覚過敏に陥り、些細な出来事が己の危機に繋がるような錯覚を覚えていた。 かび臭い神殿の空気が魔物の体臭に感じ、天井のシミが魔物の眼に見えるようになる。 ドクン、ドクン。心臓が高鳴る。 目が霞み、周りの風景が次第にぼやけていく。 ボクガ…ボクデナクナッテイク… 動きを止めたロクスに、流石にやりすぎたと思ったかカイゼルがフォローしようと口を開きかけた。 「ハナセ!!」 「え…?」 突き飛ばすようにカイゼルの背から飛び降りると、とてものろまなロクス本人とは思えないほど素早い動きで、彼は間合いを開けた。 驚くカイゼルの前に、青白く光る何かが浮かび上がる。 それがガーディアン召還用の魔法陣と知ったとき、カイゼルは叫んでいた。 「ば、ばか!!此処はアトラスの神殿だぞ!魔物なんて…。」 居るわけがない、言いかけてカイゼルは息を呑んだ。 「ロクス?」 そこに居たのは確かにロクスの筈だった。 しかし銀色の美しい長髪が黄金色に輝き、鮮やかなライトブルーに染まったその双眸には全く表情というものが無かった。 異様な雰囲気に押され、カイゼルの背筋に寒気が走る。 ロクスの固く結ばれていた唇が動き、微かな言葉を紡ぐ。 「スベテホロブガイイ…」 「何だ!?何を言ってるんだロクス!!」 駆け寄ろうとしたカイゼル。 しかし目の前にある魔法陣が急速に光を増し、やがて一つの巨大なガーディアンを映し出し始めた。 荒ぶる炎の化身サラマンダー! その強力なブレスはあっという間にこの神殿を焼き尽くすに違いない。 「目を覚ませロクス!!やめるんだ!!」 無表情だったロクスの顔に変化が生じた。 目が覚めたか?いや、そうではない。 あろう事か、この状況を前に彼は笑っていた。 ブルーの瞳は、まるでカイゼルを見下すかのように細められ、形の良い唇の端をつり上げ、皮肉な笑みを浮かべていた。 「キエテシマエ」 サラマンダーは咆哮し、その口を大きく開いた。 最早為す術はない。 正気に戻らない限り、ガーディアンを止めるためには術者であるロクスを殺さねばならない。 カイゼルは自分自身に問いかけた。 そんなことが自分に出来るだろうか? 例えその覚悟があっても、サラマンダーをかわしてロクスのみを倒せるだろうか? 「止めろ〜!!」 最後の望みを託し、カイゼルは剣を抜いてサラマンダーに飛びかかった。 大きく開かれたサラマンダーの口腔が、カイゼルの目の前に迫っていた。 |