目の前に急速に迫るサラマンダーの口腔。 闇雲に飛び込んでみたは良いものの、ここからどうするかなど当然考えてはいなかった。 頭の中で賢者ロームが怒鳴っているのが聞こえる。 幻聴と知りつつもカイゼルは苦笑した。 (やれやれ…判ってるよジイさん。“サラマンダー相手に力押しが通じるとでも思うのか?”だろう?) 自分に危機を目の当たりにすれば、ロクスは目を覚ますかもしれない。 それが最後の頼みの綱だ。 しかし、サラマンダーは一向にその姿を消す様子がない。 逆にその口腔内にチラチラと紅いものが見え始めた。 (ブレスを浴びりゃあ焼き肉にもならんだろうな…。遺骨の一つでも残さないとクレアが悲しむかな…) 「〜〜〜〜〜!!」 遂にロクスは目を覚まさなかった。 主の命令を受け、サラマンダーがブレスを吐き出そうと身構える。 終わりか…だが終わらなかった。 サラマンダーが硬直し、苦しげな呻き声を上げる。 いや、呻き声を上げているのはガーディアンだけではない。 「ウオオオ!」 周囲の壁から放たれた光の十字放射が、サラマンダーとロクスに絡みつき動きを止めている。 まるで蜘蛛の巣に引っかかった獲物のように、もがき苦しむロクスとサラマンダー。 これこそ賢者ロームが神殿全体に施した魔法の威力である。 しかし、カイゼルは心の中でロームを罵っていた。 (あの性悪ジジイめ…わざとギリギリまで発動を遅らせて、術者の油断でも誘おうって腹か!!) しかし救われたことに違いはない。 サラマンダーの姿が徐々に消え失せ、それと同時にあの不気味な魔法陣が消滅していく。 術者のロクスもふらふらと地面に倒れ込むと、そのまま動かなくなってしまった。 「ロ…ロクス!」 駆け寄ったカイゼルは、思わず立ち竦んだ。 先ほどまで黄金色に輝いていた髪が元の銀色に戻っているのだ。 恐る恐る水筒の水を一滴、その顔に垂らしてみる。 固く閉じられていた瞳が、うっすらと見開かれた。 「…カイゼル…様?」 瞳の色も、眩いほどのライトブルーから元の黒色に戻っている。 言葉を失っているカイゼルに、ロクスが問いかけてきた。 「僕は…どうして倒れているんでしょうか?」 まるで何も覚えていないかのような口調にカイゼルは戸惑う。 本当に覚えていないのか、 そう聞こうとしてカイゼルは、ある事実に思い当たった。 「いや…貧血でも起こしたんだろう…少し休んだ方が良い。」 俺は見ていたはずだ。 この少年があの巨大なガーディアンを召還し、本気でこの神殿を破壊しようとしていたのを…。 サラマンダーの巨大な口腔が迫る恐怖、 そんな自分を見下して笑うロクスの瞳、 これもみんな事実だ。 実際に起こったことだ。しかし… (何故…こいつが召還魔法を使える?) 魔法を扱えないから正式な“ロームの弟子”とは言えない… そう彼は語っていた。 ロームの答えも同じものであったし、森でドラゴンを召還したのもあの本が有ってのことだ。 しかし、先ほどのロクスは本を開いた気配はなかった。 それよりも何よりも (俺はジイさんがあの本に仕掛けをしたのを見ているじゃないか!) 本があったとしても、魔力制限を掛けたガーディアン召還の項をロクスが開けるわけがない。 少なくとも、一緒に旅を続けていたあの“ロクス”には…。 (一体何者なんだ?ロクス=オリーフィールドとは…) 今にもロクスの瞳がまたライトブルーに染まりそうで、思わずカイゼルは目を背けてしまっていた。 |