3−1
 
 イヴァリアス。剣聖リュフィード=ヴァン=イヴァリアスのうち立てた騎士国家。国民の大半が剣の修行を積んでいるこの国では、頻繁にその腕を競うトーナメントが開催されている。
 中でも最大規模の大会こそ、隔年で開催される“武神祭”なのである。この大会に限って異種(魔導士、拳士)からの参加も認められているため、武神祭が近くなると各国からの挑戦者、観客が集まり、イヴァリアスは普段にないほどの喧噪に包まれる。

「まったく…殿下は一体何処で油を売っているのじゃ!!」
 
 間もなく武神祭が始まるというのに、開催国の国王であるカイゼルが放蕩の旅に出たまま戻らない。重臣達の顔色は真っ青である。
 開会式に国王の姿が無いとあれば、この伝統有る祭りの名に泥を塗ることになってしまう。おまけにカイゼルは過去三大会連続のチャンピオンなのだ。王者不在での大会決行などありえはしない。ところが…

「良いじゃないか。居ない者は居ないんだからしょうがない。私が代わりに開会宣言をしてやるよ。」
「しかし…。」

 口ごもる重臣達を見て、軽く肩を竦める男。未だ二十歳にも満たないであろう、あどけなさの残る顔立ちからはどことなく気品が漂っている。いや、顔ばかりではない。全体的な立ち振る舞いからも育ちの良さが滲み出ていた。

「それともなに?私では兄の代役にもならないと言うことなのかな?」
「そ、そんなことはありませんラベル殿下!!」

 カイゼルの異母弟であるラベル=ヴァン=イヴァリアスはほくそ笑んだ。兄が不在の今となっては、弟である自分こそ武神祭の開催者に相応しい。世界に名を馳せるトーナメントを運営したとなれば、自分の名声が高鳴るというものだ。
 常に二番手であるラベルにとって、そんな想像はこの上なく心地よかった。

「じゃあ問題はないんだね。私が兄の代役として開会を宣言し、チャンピオンとして戦っても。」
「こ、この際は…仕方ありません。」

 これはチャンスだろう、とラベルは喜んだ。常に大会最強の名を誇るカイゼルさえいなければ、自分がトップに立つことも可能なのだ。
 その実、ここまで二大会連続でラベルは決勝に駒を進めていた。カイゼルさえいなければ、そう幾度とも無く思っていた。そして、遂に現実となったのだ。

(此処で私がチャンピオンになれば…兄が武神祭を逃げたと知れば…きっとあの子も私を認めてくれるに違いない!)
 表彰台の頂点に立ち、思い人の祝福を受ける姿を想像し、ラベルは一人にやけていた。

 イヴァリアスには武神祭を前にして、各国からの国賓が招待されていた。しかし、クリスタのエルシアーヌが病気療養のため欠席、ロカマスのロームも未だ到着して居らず、国賓席には拳聖クライファート=モア=ラビニスとその息子であるクルサードが居るのみであった。

「なに?カイゼルは大会に不参加だと?」

 家臣の報告を受けたクルサードが不満そうに声を荒げた。二大会ぶりの参加を決意した彼にとって、良きライバルの不参戦は漲っていた闘志を鈍らせるものであった。

「父上、カイゼルが出ないのならば私も出るつもりはありませんよ。中途半端な相手と拳を交えるなど、男として我慢できません!」

 そんな息子を見て、拳聖クライファートは苦笑した。如何にも彼らしい言葉である。しかし、カイゼルに続きクルサードまでも欠場を表明すれば、大会が盛り下がることが目に見えている。ここは一つ、この馬鹿正直な息子を煽っておく必要がある。

「中途半端か…ワシからすればお前こそ中途半端だぞ?」
「父上…何を仰せられますか!?この私がそこらの剣士風情に劣ると?」

 意味ありげにニヤリと笑う父を見て、クルサードが憤慨する。

「宜しいでしょう!私の修行の成果を父上に見て貰うためにも、大会で優勝してご覧に入れますよ!!」
 
 我が息子ながら、実に扱いやすい男よ…。クライファートは笑いをかみ殺すのに必死であった。

NEXT

BACK TO "MAINSTORY"

BACK TO HOME