「ま、待って下さいよ〜!!」 クリアスタを出発して以来、カイゼルは早足で歩き続けていた。クレアも方向音痴のカイゼルが先頭を歩かないように気を配っているので、自然とペースが上がり、のろまなロクスにとってはかなり辛い状況となった。 息を切らし、見るからに苦しそうなロクスのために足を止めるカイゼル。しかし、表情には明らかにロクスへの苛立ちが見えた。 「ロクス君、君は騎士の修行云々の前に基礎体力作りが必要ね。」 クレアも流石に呆れたように言った。女に体力負けしているようでは、先が思いやられる。 「す、すみません…。」 正面切って謝られると、カイゼルも文句を言うわけにもいかず、努めて明るい表情で言った。 「気にすんなロクス。どうせ俺が居ないと武神祭は開催はしない。」 武神祭はいわば大陸最強の戦士を選ぶ大会である。前回チャンピオンである自分を無視しての進行などあり得ないはずだと熱弁するカイゼル。そんなカイゼルを、ロクスは憧れの目で見つめた。 「大陸最強かあ…カイはやっぱり強いんですね!」 「ま、まあな。」 得意げに胸を反らすカイゼル。しかし、クレアは冷静だった。 「待ってよカイ。今の今まで大会が順延になった試しは無いじゃない。各国への対面を考えると…強行もあり得ない話じゃないわ。」 びくっとカイゼルの身体が震えた。確かに、国主不在のため武神祭順延、などという話は聞いたことがない。 と言うよりは、武神祭の予定をまるっきり忘れて他国へ放蕩の旅に出るという愚かな行為を、先代のリュフィードがするわけもなかった。更に、クレアの言葉が追い打ちを掛ける。 「それにさ…あなたが居ないイヴァリアスで、一番権力があるのは誰か…少しでも考えてみた方が良いと思うけど。」 「…確かにな。アイツならばやりかねん!」 出しゃばりな義弟の存在を忘れていたことをカイゼルは悔やんだ。自分が居なければ大会は進まない、どころか彼にとってはまたとないチャンスである。重臣達を丸め込んでも、武神祭を予定通りに決行するに違いない。 「こうしてはいられん!!先を急ごう!」 憤然と立ち上がると、脇目もふらずに歩き出すカイゼル。気合いを入れるのは良いが、その方向は来た道を真っ直ぐに引き返していた。 「時々思うのよね…わざとやってんじゃないの?って…。」 クレアのしみじみとした口調に、ロクスも首を傾げながら答えた。 「そうですよね…そう思います。でも…。」 「あれが大真面目だから…言う言葉もないわ。」 クレアは仕方なしに立ち上がると、印を結び呪文を唱える。次の瞬間、稲妻が煌めくと、カイゼルの背中をもろに打った。 「ギャアアアア!!」 断末魔の叫び声を挙げるカイゼル。そのあまりに強引な止め方に、ロクスの背中に冷や汗が流れた。 「あの…ちょっとやりすぎなんじゃあ…?」 恐る恐る尋ねるロクスに、クレアはにっこり笑って答えた。 「言うことを聞かない猛獣の調教には鞭が必要なのよ。」 明日から早朝マラソンでもしようかな、と本気で考えるロクスであった。 |