3−3
 「これより武神祭を決行する。各国より集いし勇士達よ。日頃の鍛錬の成果を十分に発揮し、最高の戦士としての栄光をその手に掴み取るのだ」

 荘厳な口調で開会を宣言するラベル=イヴァリアス。武神祭の頂点を極めた者のみが纏うことの出来る緋色のガウンを羽織り、腰に履く剣はかの剣聖リュフィードが「王」を倒した際に使用していたものだ。前大会のチャンピオンカイゼルの不在によって廻ってきた役割ながら、ラベルは有頂天であった。

(どうだ!私こそ、チャンピオンに相応しい男なんだ)

 自らの晴れ姿に酔いしれるラベル。周りの家臣達は冷や冷やしながらその姿を見守っていたが、無難に代役をこなすラベルを見てほっと胸を撫で下ろしていた。

「流石ラベル殿下…人前での出で立ちは堂々としておられる…」

 剣聖リュフィードの武人としての荒々しさを受け継いだ第一子のカイゼル。対照的にラベルには天性の気品が備わっている。母親譲りの端整な顔立ちと相まって、王宮に出入りする貴婦人の間では絶大な人気を誇っているラベル。開会の宣言を終え、演台を去るラベルに黄色い声援が飛ぶ。笑顔でそれに応えるラベルを見て、重臣達がハアと溜息を付いた。

「後はあの性格さえ何とかなれば…」

 徹底した女好きかつ我が儘…それがラベルの弱点であった。彼が武神祭で良いところまで行きながらも優勝できないのは、義兄カイゼルとの実力の差、というよりむしろムラッ気がある性格が災いしている。あと一歩の所で油断して不覚をとることが多々あるのだ。

「ラベル殿下、ご婦人方に優しくなさなるのも時と場合を…」
「言いたいことは分かってる。それよりも開会試合は僕の言うとおりにしたかい?」

 重臣達の言葉に耳を貸すことなく、ラベルは腰の剣を外すと自らの得物である細身のレイピアに持ち替えた。何を言っても無駄か…頭を抱える重臣達を見て、ラベルはフフと笑って見せた。

「心配しなくて良いよ。実力の差を見せつけてくるさ、チャンピオンとしてね」

 開会試合は、前年のチャンピオンの模範演技とも言うべき試合である。実際の武神祭トーナメントは、この開会試合の後に抽選が行われ組み合わせが決まる。
 本来なら、チャンピオン不在の今年は開会試合を省くはずなのだが、ラベルのごり押しによって代役チャンピオンである彼の試合を特別に設けることになったのだ。

「フフフ。カイゼル兄さんが出てきたとしても今年は僕が勝つはずだったのさ。少し残念だけどまあ良いや。チャンピオンの座は貰うよ…カイゼル!」
「ブアックション!!」

 いきなり目の前で盛大なくしゃみをしたカイゼル。同時に飛来した大量の唾にまみれながら、ロクスは鼻紙を差し出した。

「風邪ですか?」
「…かな?何だか急に悪寒がしてきたしな」

 ぶつぶつ言いながら鼻をかむカイゼルを、冷ややかに眺めながらクレアが呟く。

「脳味噌まで筋肉な貴方が風邪をひくなんて…あり得ないと思うんだけどなあ」
「何か言ったか?」

 相変わらずの夫婦漫才(?)を続ける二人を後目に、ロクスは辺りをきょろきょろ眺め回した。既にイヴァリスに入っており、辺りの風景は一新している。
 魔導士系統の国にしか足を踏み入れていないロクスにとって、武具屋が立ち並ぶイヴァリアスの町並みは何もかもがカルチャーショックだ。残念なのは、その殆どが店終いしてしまっているところ。
 一様に張り紙には

「武神祭開催期間中につき、休業させていただきます」

「大変ですよ。もう武神祭は始まっちゃってます!」

 ロクスの叫びに、何やら言い争っていたカイゼルとクレアの動きが止まった。

「どうすんのよチャンピオン…」

 暫くあさっての方を見遣った後で、カイゼルは無理に笑顔を作った。

「ま…まあ良いんじゃないか?大会的には優勝者の予測がつかん方が盛り上がるはずさ!」

 カラカラと笑い声をあげるカイゼルの背に、クレアとロクスは期せずして全く同じ言葉を言い放っていた。

「無責任…」

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