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「失礼ですが…イヴァリアス王国の方で宜しいですよね?」

メガネの若者が確認を取ると、今まさにどんちゃん騒ぎが繰り広げられている部屋に入っていく。
部屋はアルコールのつんとする匂いで充満し、あちらこちらには割れたコップや杯、酒瓶が所狭しと転がっている。

(またこれ…僕一人で掃除させられるんだろうなあ…全部…)
若者の悲痛な心情を知ってか知らずか、またもや派手な音と共に酒瓶が割れる。
首座の老人を取り巻く輩の内の一人が得意げに笑う。

「どうじゃロームの字!わしの十八番“手刀瓶割”の威力は!」

その挑発に、ローム老人の顔面がにやりと不気味な笑みを浮かべた。

「なんのなんの…その程度なら!」

ロームの拳が軽く瓶に触れただけで、忽ち二つの瓶が粉々に砕け散った。
満場の酔客が皆眼を丸くするその様子を見ながら、如何にも嬉しそうに笑うローム老人。
しかし、メガネの若者のみはそのトリックを知っているので憮然とする。
(またゴミが増えちゃった…一般人相手に直ぐ調子に乗るんだから…)
脇に侍る女達の尊敬の眼差しを受けながら得意絶頂のローム。

「あの…ローム様…言われた書類を…」

遠慮がちに切り出す若者であったが、それではとてもハイテンションな場の雰囲気を醒ますことが出来はしない。聴く耳持たずな老人に、

「ローム様!書類と面会なさりたいというイヴァリアスの騎士様が…」

若者は腹の底から怒鳴ったつもりだった。
が…所詮は焼け石に水。
馬の耳に念仏。
大海の水はコップ一個で掬い出せるものではないのだ。
ローム老人が酒瓶一気を敢行しようとしたまさにその時…

「大賢者ローム殿!!ご機嫌大変麗しきご様子!!甚だ結構でございますな!!」

宮殿中に響き渡るかのような大声が若者の背後から湧き起こり、そのあまりの迫力に若者は耳を押さえて座り込んでしまった。
流石にこれは応えたようで、あれ程騒いでいた酔客達の真っ赤な顔色が一気に覚め、恐る恐る声の主である騎士の方を向いた。
ただ一人、賢者ロームのみは違った。
軽く耳を穿り、指にこびりついた耳垢をふっと一息で飛ばすと

「…帰れ。」

の一言。手酌で悠々と酒を呷る。

「そんな!!わざわざ他国から出向いていらっしゃったのですよ?」

未だじんじんと痛む耳を押さえながら、若者が批判する。
その若者をじろりと睨み付けると、ロームは面白く無さそうに

「何故そんな男を取り次ぐのじゃ!その男が来ると体外ろくな事が起きん!一刻も早く追い返せ!そして塩を蒔け、一斗缶分ぐらい!!」

とにかく一旦へそを曲げれば無茶な命令を繰り返すのがこの老人なのだ。
その気性を嫌というほど知る若者は尚も懇願しようとする。

「しかし…それでは…。」
「おい爺さん…あんまり若い者を虐めるのはよせよ。」

若者は唖然とした。ロームがロームならばこの聖騎士も聖騎士だ。
恐れ多くも他国の王に対してあまりに無礼な発言ではないか…。
精一杯胸を張り、若者が叫ぶ。

「無礼である!賢王ローム様に対して何たる言葉遣いを為さるのか!?」

何とか威厳を持たせようと努力してはいるが、いかんせん迫力不足だ。
妙な沈黙が辺りを包む。
ホ〜ホケキョ、間抜けな空気を煽る、長閑な野鳥の声…。
やがて堪りかねたようにロームの笑い声が響き渡った。

「ワハハハハ!無礼は良かったな!じゃが無礼なのはお前だぞロクス?」

立ち上がると、胸の前に手を当てる。
そして恭しくお辞儀をしてみせるローム。

「ようこそお越し下さったカイゼル=ヴァン=イヴァリアス…」

目が点になる若者…。
イヴァリアスの姓を抱く聖騎士となれば…一人しか居ない。

「まさか…イヴァリアス王国の…国王様?」


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