1−3

嘗てこの世界を支配していたのは「王」と呼ばれる者。
人知を越える力を手にした「王」はその圧倒的力による独裁政治を展開し、
何百万という哀れな犠牲者を産み出した。
その「王」に立ち向かい、これを打ち破った者こそ現存する五国の王達である。

多くの修行僧が暮らすオルゴンの拳聖クライファート=モア=ラビニス

魔導国家の魔聖エルシアーヌ=エヴァーニア

五国の中心に位置するアトラスのラルス

そして名だたる剣士達が集う騎士国家イヴァリアスの剣聖リュフィード=ヴァン=イヴァリアス…。
しかし彼は既にこの世を去っており、その後継者こそ

「そう言えば未だ名乗っていなかったな…。カイゼル=ヴァン=イヴァリアスだ。長いと思うなら“カイ”で十分さ。」

軽くウィンクするカイゼル。
しかし、その言葉は若者の耳には入っていない。
しばらくの間、ただ口をぱくぱくさせていたが、

「申し訳ありません!!知らなかったとはいえとんだご無礼を…」

土下座する若者に、カイゼルは苦笑した。

「気にするなよ。女と酒に酔う余り、客を追っ払おうとするどっかの誰かさんよりはよっぽどましだ。なあジイさん。」

そう、そしてもう一人の英雄こそ、このロカマスの王である賢聖ローム=ヴォルド=モレニフ、つまりこの老人なのである。
横目でちらりとロームを見遣るカイゼル。しかし、一筋縄でいくご老体ではない。
カイゼルの皮肉にも、逆に得意げな笑みを浮かべ

「ふん…女も酒も、わしがまだまだ若いという証明じゃよ。」
「…エルシアーヌ様にチクるぞ…。」

そのカイゼルのぼそっと言った一言を聞いた途端、手にしていた杯を投げ捨て、胸を正して座り直すローム。
そのいつもに似ない老人の態度を見て呆気にとられる若者に、カイゼルがすかさず耳打ちした。

「どうだ、効果覿面だろう?もしあの我がままジイさんがグズったらこう言えば良い。」
「もう…あの人は…他人の奥さんなんじゃから…」

ぶつぶつ言いながら顔を赤らめるローム。
一方のカイゼルはと見れば、まるで鬼の首でも取ったかの様な満足げな笑みを浮かべている。
一人蚊帳の外に置かれた若者は、何をするでもなく、ただ状況を見ているしかない。

「ところで体調を崩したと聞いておるが…具合はどうなんじゃ?」

必死に冷静を取り繕いながらローム。
その動揺につけ込むかのように意地悪そうな目つきで答えるカイゼル。

「さて…直接お会いしたわけではないので判りませんが、御壮健でしょう。何処かの誰かと違い、不摂生な生活を為さってるわけでもありませんしな。」

カイゼルとしては更に追い詰めたと思ったであろう老人の顔に、ニヤリと笑みが浮かぶのを若者は見逃しはしなかった…。
追い詰められても決して諦めない、常に相手の隙を窺う姿勢は見習いたいが、その性格が発揮されるシチュエーションはかなり限られている。
つまりは相手をぎゃふんと言わせたいとき、である。
そしてあの笑みを浮かべたときは、何かあくどい事を思いついたときであることを誰よりもこの若者は理解している。
(…来るな)

「人のことを言えたものか?カイゼルよ…。」
「はて?仰る意味がよく判りませんが…。私は常に全力を持って施政に取り組み、大酒を呑むことなどありません。」

余裕を持って切り返すカイゼルを、ロームは鼻で笑った。

「ふふん、このわしが何も知らぬと思うか?つい先日あの娘に会ってのう…。」

それまで余裕の表情だったカイゼルの顔色が変わった。その表情の動きを楽しむかのように、不気味な笑みを湛えて続けるローム。

「いやあ…おぬしの“夜のお勤め”に傾ける情熱ぶりを褒め称えておったぞ?若いとは羨ましいものじゃ、フォッフォッフォ!」
「馬鹿言うな!!俺はクレアなんかとは一度も…!!」

顔を真っ赤にして叫ぶカイゼル。次の瞬間はっと口を押さえたが、もう遅い…。
立場がいつの間にか逆転し、ロームはすっかり余裕の笑みを浮かべている。
一方、カイゼルの顔面には無数の汗が浮かび上がった。

「そうかそうか…やはりおぬしとクレアは…。」

してやったりの表情を浮かべるロームに、呻くようにカイゼルが問いかける。

「…はめやがったな…ジジイ…。」
「別に嘘は一言も言っとらんぞ?お前の秘書をしておる娘に会ったのも事実じゃし、娘が“カイゼル様は夜遅くまで政務に励んでいらっしゃる”と褒めておったのも事実じゃ。何なら直接本人に聞いてみたらどうじゃ?“俺って夜も凄いだろう”と。」

まだまだ若いのう小僧、そう言わんばかりに真っ白な顎髭をしごく。
まるで信号機のように、真っ赤なカイゼルの顔色が蒼く変わっていく。
ゴゴゴゴゴ…何かが湧き上がって来るような音が聞こえるのは気のせいでもあるまい。
場の危険な雰囲気を感じ取った若者は、こっそり逃亡を試みる。
しかし、賢者の杖に足を払われ、その場に転倒した彼の運命は決まってしまう…。

「死ねや!くそジジイ〜!!!」
「カイゼル様〜!!お気を確かに!!」

会談中止…

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