1−4

「くっそ〜、あのジジイめ!」

満身創痍の若者を手当しながら、カイゼルは忌々しげに舌打ちをする。
剣の達人である「剣聖」の血を承けるカイゼル。
世界の邪悪なる支配者「王」を倒した「賢聖」ローム。
壮絶な小競り合いのとばっちりを受けたのは、他でもないメガネの若者である。
お互いの繰り出す攻撃は相手に当たることはなく、全て若者の五体を痛み付ける結果となった。

「!!!」

怒りの収まらないカイゼルの手当はまさに「荒療治」そのもの。
必要以上に薬を塗ったくられ、
力任せに包帯を巻かれて、
若者は声にならない悲鳴を幾度と無く上げた。

「あ、ありがとうございます…。」

それでも文句一つ言わずに頭を下げる。
これもひとえに、毎日彼をこき使う師匠の存在の賜物であろう…哀れな話だが…。
何処からともなく箒とちり取りを取りだし、散らかった部屋を掃除しだす若者をカイゼルは興味深げに見守った。
銀色に輝く長髪を後ろで束ね、美しい線を描くその横顔はメイド服でも着せてしまえば、何処からどう見ても王宮付きの女官といったところだ。

「ロクス、とか言ったか?いっつもこんな事させられてるのか?」
「はあ…まあ…一週間に五、六度は…。」
「…そういう時は“毎日”と言っておけ…。」

賢者ロームの酒好き、女好きは衰えというものを全く知らないようで、城下の酒場を訪れては酒好きの者を連れ出し、城で自らの相伴をさせているのである。
もっとも、その相伴相手が城を出るときには、重臣達が“たっぷりと”言い含めているために、

“賢者ローム様は民衆の声を聞くために我々を城に呼び、大いに意見を求められた”

以上の噂が広まることはない。
そんな苦労を知ってか知らずか、今日もロームは城下へと赴き、“相談相手”を引き連れて戻ってくるのである。
ここのところ、城内に保存された大量の酒類はものの一週間も保存が利かないのが現状だ。
他国の事ながら同情するってものだな…。
ロカマスの国民にとっては笑えない事実に苦笑すると、カイゼルは質問をがらりと変えた。

「ところで…ロクス。お前は一体どういう訳でこの城にいる?」
「僕は…ローム様の…門下生…です。」

口ごもりながら答えるロクスに、カイゼルは多少の驚きを見せた。

「ほう、あの陰険ジジイが弟子などをとるとはな。どうせ“訓練”と称して虐められてるのだろう?」

やたら「陰険ジジイ」の部分を強調する。
そんな心からの同情を含む言葉に、ロクスはもじもじしながら

「…そんなことはありません。」
「本当か?となるとお前は相当な根性の持ち主と言うことになるな。今まで何回かやはり“弟子”と名乗った奴にあったが、精神崩壊して即病院送りというパターンだったぞ?」

まじまじとカイゼルに見つめられ、気まずそうにロクスは目を逸らした。

「…訓練なんて…してません…。」

その言葉を聞いて、カイゼルの口があんぐりと開かれた。

「おいおい…お前まさか…。」

賢者ロームの訓練を必要としない、
それは最早完成された賢士であることを意味する。
この如何にも頼りなさげな若者がか?
疑心に満ちあふれた目で見るカイゼルの様子に気が付いて、慌ててロクスが手を振る。

「違います、違います!僕はそんな大それた力は持っておりません!!」
「じゃあ何故訓練しない?お前が訓練を必要としない賢士でない限りは…。」

問いつめるカイゼルの迫力に押され、ロクスは遂に白状した。

「その…魔法が扱えないんです…。」

賢者とはただ書物の知識を極めるだけでは済まない。
魔導士には扱えない分野でもある古代から伝わる秘術…
例えばガーディアンの召還や、占星術を応用した天変地異の法などは賢者の守備範囲に当たる。
つまり、多少なりとも魔法を扱えなければ勤まらない職業なのだ。
いわば「魔導士を超える究極の魔導士」と言っても過言ではない。案の定、カイゼルは納得しなかった。

「魔法を使えないだと?じゃあ何故お前はあのジジイの弟子だと言える?」
「そうしないと…外聞が悪かったから…。」

上目遣いでカイゼルを見ながら、ロクスはか細い声で言った。

「…ローム様は…勘違い為されていたんですよ。」

NEXT

BACK TO "MAIN STORY"

BACK TO HOME