<大地×日高の私的な妄想小説>


いつものバスケット部であり、練習風景だった。
体育館の入口付近には大勢の女子が甲高い声を発していて、藤田キャプテンの目は後ろにも届いており、どこにも非日常など潜んではいなかった。
ただの一人を除いては……。


一年生の中では期待の星などと呼ばれている茅野大地の、無口でしかし確実にメニューをこなしていく姿は、もはや当たり前の日常だ。どこにも常と違う部分はない。
茅野大地という男は、無表情、無関心、無愛想、無言、無視、非協力的、非友好的、不参加、などマイナスイメージの単語でしか表現できない人間である。その上、それがどうした、という態度で堂々としている異端な男だった。
茅野大地にとって、誰かと馴れ合うとか楽しい学園生活とかは必要ないのかもしれない。だから、彼の周りには誰一人として気軽に話し掛ける人間はいない。その気はなくても、周りを威嚇する要素を充分に持った男である事は確かである。
まず、目つきが鋭い。そしてガタイも規格外で、中学生時代には、ひと睨みで失禁した生徒がいた伝説すら持っている男なのだ。怖くないハズがない。その上で、口を開くのも面倒だというオーラ丸出しなものだから、誰一人として接近するチャレンジャーはいなかった。
いや、例外はいた。二年生でサッカー部の青木だ。彼は、茅野大地の一つ上の兄である広海の友人である男だ。小・中学と同じだったので、大地も青木には自分から話し掛ける貴重な人間である。
背が高く見た目も怖い上に声も低くタメ口で命令口調な大地は、先輩である青木に呼び捨てで話し掛けて全校生徒に悪印象を植え付けてしまったが、本人は全く気にしていない。青木が一人で苦笑いの上に、後のフォローをする始末だ。傍若無人とは、茅野大地の為に使われる言葉のような気がする。
そんな茅野大地へと、率先して話し掛けるかなり規格外れの男が存在していた。同学年で部活が一緒の日高である。
日高は、打っても九割がたは響かない暖簾に腕押しな茅野に対してだろうが、どこの誰にであっても同じように話し掛ける男だった。
いや実際は、邪険にされても無視されても、学習能力がないのか打たれ強いのか、次の瞬間にはまた話し掛けている男、というのが日高に対する正しい見解かもしれない。
脳天気であるのか、不屈のファイトマンであるのか、あの恐ろしい茅野に正面切ってぶつかれる日高のバイタリティには、誰もが感心し、そして関心をも抱いていた。
とにかく日高は、前向き過ぎる熱血マンなのである。
ところがだ、今日の日高は、朝から不機嫌でモヤモヤが心の端に引っかかってスッキリしない。
熱血男日高の様子が常と違うので、部員の皆もなんとなく士気が下がる。
いつもの日高ならば、焼け石に水だと部員中で評判の【茅野への無謀な挑発】を披露しているのに、今日はただの一度も出ていない。
例えば、茅野に軽く話し掛けては無視されて大声で絡んでみたり、茅野に張り合って負けじとシュートに挑めば玉砕してみたり、やる気を力いっぱい宣誓してみたりと、自他共に認めるオーバーな元気印が日高である。
とにかく日高は煩いのだが、何故か憎めない。いなければ部活の活気が半減する。そんな日高の元気が、今日は限りなくゼロに近い。静か過ぎて怖いくらいだ。
日高自身、自分が本調子ではないことくらい、とっくに知っている。大好きなバスケの部活時間になっても、テンションが戻ってこない。茅野に難癖をつける気力すら湧いてこないのだ。
外野の女子連中も、今日の日高にはいつもの元気がないからと心配したり応援したり、叱咤激励も含めた声が止まない。そんな有り難い周囲の気持ちに気付きもせず、日高の視線は茅野と床とを交互に見つめることに忙しい。
今日の日高は調子が悪い。
そう部員全員が感じてはいても、やはり茅野は全く気にも留めない。いつもならウザイ日高が大人しくて、思う存分に自分のバスケができるとでも思っているのだろうか。
前回の日高の不調時には茅野が接触して、色んな意味でザワつきはしたがいつもの日常を取り戻した。しかし、今回も同じパターンが通用するとは限らない。何しろ今日の茅野は日高に目もくれない。
ただただ、なんとも言えない顔で茅野を睨み付けているしかできない日高が、いっそ哀れに見えてくる。しかし、見られている当の本人である茅野は、そんな視線など完全にシャットアウトしていた。素晴らしい集中力と言ってしまえばそれまでだが、自分以外の何であれ全てを拒絶するあの態度はいかがなものだろう。
数日前に日高が茅野を【お座り】させていた出来事は幻だったのだろうか、と部員全員が不思議がる中、ついに日高の口から大きな溜め息が吐き出された。
これには部員の大半が動揺してしまった。単純馬鹿でポジティブの申し子のような日高に溜め息を出させる、一体何が起きたのかと互いに目を合わせてしまう。
日高の異変に気付いている藤田キャプテンだが、甘やかさないのが彼のルールだ。
「日高! やる気がないなら、ランニング五周!」
ただの一つも文句を言わず素直に走り出す日高が、先輩部員たちには驚き以外の何ももたらさなかった。
いつもの日高ならば、まず大きく『あ』行のどれかを叫び、理不尽だとかの文句を並べたところで藤田キャプテンに睨まれるなりして、観念したように渋々言うことを聞く。ちゃっかり聞かれない程度の小声で不平不満をこぼしているのだが、先輩にはバレていない部分が日高の唯一の幸運である。
「本当にどうしたんだ? 日高のやつ……」
桂木が心配半分な感じで言う。残りの半分は何がしかの期待が含まれているのだが、その場の代弁をしてくれているものだから周りも一様に肯定している。
「元気がない日高なんて、かわいげの欠片もねーよ」
いつも日高をかわいいと言っては楽しんでいる加納も、つまらなそうに吐き捨てた。
「なんだ加納、そう思うならお前が元気付けてやったらどうだ?」
藤田が加納に意地悪い笑みを浮かべてけしかける。しかし加納は、恨めしい顔で茅野を睨み吐き捨てた。
「だって、俺が何を言っても日高は気のない返事しか返さねーもん。いつもの日高じゃねーから面白くもなんともねーよ!」
既に話し掛けて撃沈したのだろう、体育館の床を小さく蹴飛ばしながら加納は悪態を吐く。これには、周りの部員が盛大に笑う。
だが、それはそれで、ある意味ものすごくヤバイ状態なのかもしれない……と部員全員が一様に同じ危機感を抱いてしまったのは、体育館の雰囲気をして明白だった。
日高の視線は茅野に釘付けで、部員も含めた周囲の視線は日高に集中するという、気持ちの一方通行の図式は当分の間続きそうだった。


上級生が自分を話の種にしていることなど全く気付かず、日高は黙々と走っていた。
昨日、日高は茅野の口から余裕だなと蔑まれたばかりだ。怒りが思考を興奮させ渦を巻き、正常な判断まで鈍らせる。その怒りも許容量を超えて喉にまで押し寄せてくると、恨み言しか出てこない。
昨日の茅野がいつものように無視した態度ではなく、面倒がりながらも相手をしてくれたから、日高はほんの一瞬だけ高揚感を得ることができた。二人の間でしか理解できない内容だ、と嬉しさからチラリとサッカー部の青木の顔が思い浮かんだ。
日高の胸に湧き上がる優越感。俺だって茅野と普通にしゃべってるぜ、と訳もなく青木に対して勝ち誇った気分になる。
そんな日高の得られた優越感など、ほんの一瞬で消え去った。まさに儚い夢であったとしか思えない。
日高は茅野に思いっきり蔑まれた。いつもは表情すらもない茅野が、侮蔑の表情で日高を真正面から見ていた。
日高は、視線を逸らすことも言葉を発することも、何一つできなかった。身体中の機能が麻痺してしまったかのように動くこともできず、ただ茅野から投げられた言葉だけが唯一体内を巡っていた。
その日の日高は、どうやって家に帰ってきたのかさえ記憶になかったくらいだ。
日常的に毎日行っていることは無意識でも身体が動く。身体が覚えているからだ。気が付いたら日高は家で夕飯を食べていて、母親には体調が悪いのかと心配されてしまった。
体調が悪いのでは決して無く、日高はどこが悪いのかを言うことすらできない。
日高を支配しているのは、茅野に他ならない。安眠すら許されず、気分が優れないまま今現在の不調となっている。
茅野に対する苦々しい憤りや行き場のないモヤモヤしたものに口元が渋く歪むばかりで、日高には他の諸事情が頭に入ってこない。
今更ながらに日高は、自分独りだけが走らされている己の現状に疑問が湧いた。
日高が、俺なにか失敗したか? と軽く内面世界へとトリップしていた時、事故は起こった。
「日高危ない!」
「よけろ!」
口々に叫ばれた大声に、日高は何事かと振り向く。その途端、彼の意識は途切れた。
走っている日高に、ダンクシュートを決めようとした選手をブロックしに飛んだ茅野がぶつかったのだ。
試合中だ、茅野も相手選手しか見えていなかった。
体育館のコートから壁までなんて、それほど離れていない。いつもならば、茅野は壁にぶつかるはずだったのだ。
しかし今日は運悪く走らされていた日高が、周りも見ずにボーッと走っていた。試合中の茅野の荒々しい動作に巻き込まれた形で、日高は押しつぶされた。
「どけ茅野!」
茅野は跳ね除けられ、自分の下敷きになった男に軽く舌打ちをする。
「おーい、日高生きてるか?」
「返事がないぞ」
「あまり揺するな!」
口々に心配する声の中、茅野だけは日高に対して何も声を掛けない。
「ボケッと走ってんじゃねー!」
軽く小声ではあるが毒を吐く茅野に、後ろから冷ややかな声が掛けられた。
「事故とは言え茅野が招いた結果だ。きちんと保健室へ連れていけ」
キャプテンの藤田が冷静に言うと、納得せざるを得ない圧力を感じる。
しかし、すぐには動こうとしない茅野に、加納が横から口を挟んだ。
「俺、今試合中じゃないから連れてくよ」
「ダメだ! 茅野が連れていけ。これは命令だ」
藤田にしてみれば、調子の悪かった日高の精神安定役も兼ねて、ここは茅野に行かせるべきだとの思惑もあった。
茅野がその役目を遂行できるかどうかはこの際問わないまでも、何かしらの会話でもしてくれ、とは藤田だけではなく部員全体の願いであろう。
日高がうるさいだの熱血だの言われていようが、やっぱりムードメーカー的な存在なのは否めない。今日の部活が、何よりも動かぬ証拠だ。
日高に元気がないと、部活の雰囲気までが下がってしまうのだ。既に部活の一部と言っても過言ではないだろう。それ程に、日高の言動は善くも悪くも大きな存在だという事だった。
「チッ」
舌打ちしながらも茅野が渋々動いたので、さすがの加納もそれ以上は食い下がれなかったのか、抱き上げかけていた日高をそっと手放す。
「茅野、ちゃんと日高に謝れよ! 日高が今日調子悪かったのはお前が原因だからな!」
強く言っておきながら、茅野のきつい眼差しに威圧されて加納は体が逃げをうつ。しかし、辛うじて後ずさりだけは踏み止まった。懸命に茅野の視線を受け止めて、俺は間違った事を言っていないぞ、と加納は全身全霊で主張する。
ほんの一瞬だけ、空気が凍った。
さすがの部員たちも、何かの危機感を感じて一斉に藤田の顔を拝む。縋るような眼差しを盛大に浴び、藤田は溜め息を吐くしかない。
「茅野、早く日高を保健室に連れて行け、と俺は言ったが?」
有無を言わせぬ藤田の凄みに、さすがの茅野も止まっていた動作を再開する。
そうしてやっと、皆の緊張も解けた。
これはさすがにヤバイよな、と藤田が大きな火種を抱えた顔をした時、桂木が追い討ちを掛けてきた。
「こりゃ、次のキャプテンは誰もなりたがらねーな。今の二年生で茅野に命令できる奴いないだろ」
桂木が肩に手を置いてきたのを受けて、藤田は低く重く吐き出した。
「それを言うな、余計に頭が痛くなる……」
漠然と感じた危機感を桂木にまんまと言い当てられて、藤田はニヤニヤと笑う桂木を睨み付けた。


日が沈んでもまだぼんやりと明るい初夏の病室で、日高は目を覚ました。
「いっつつ……」
起き上がろうとして断念した日高の視界に、どでかい図体の茅野が入り込んできて、日高はあからさまに不機嫌な顔を作る。それだけでは飽き足らず、顔まで背けようとしたが全く身体に力が入らず呻くしかなかった。とても痛い。
「……すまん……」
自分の現状にパニックを起こし掛けていた日高に、茅野が謝罪の言葉を口にした。
これには日高の目が大きく見開く。茅野から言葉を発するなんて、どんな大事件だろうと誰もが驚く珍事には違いない。
「……何がだよ」
体が痛くて動けない日高は、視線だけで茅野を相手にしなければならなかった。
「お前の怪我、俺の責任だ」
自分が骨折したのだと言われて、日高はうっすら思い出す。目の端に大きな体が迫ってきていた記憶が蘇った。
「……あれお前かよ……」
そりゃ痛いはずだと日高が納得した時、同時にここが学校の保健室ではないことに気付く。
「なんで病院なんだ?」
体中が痛くて少しも動けない日高は不安になった。
「頭も打っていないか検査した」
こんな状態の日高を前にしても、さすがに茅野はいつもの態度だった。毎度のことながら、言葉が足らなすぎる。頭に異常があったら大問題だ。
「で? どうだったわけ?」
日高は、俺ばかりがどうしてこう被害を被るんだ、とうっすら怒りが湧く。
「知るか、俺は医者じゃねー。帰る。親に連絡しろ」
相変わらずな茅野の態度に、日高は目を吊り上げる。
「お前な、悪びれるって言葉を知らないのか?」
興奮しすぎて、日高は痛みに顔を引き攣らせる。
「だから、これから毎日見舞いに来てやる。感謝しろ」
恩着せがましい茅野の口調に、日高は反射的に拒絶する。
「いらねーよ! それが悪いと思っている奴の態度かよ? 骨折なんて、部活ができねーじゃねーか!」
イライラしながら日高は茅野の顔を睨む。負けじと茅野も日高を睨むので、一瞬だが恐ろしい程の緊張が走る。
「どう責任を取ってくれるんだ?」
日高の口から出た責任との言葉に、茅野はより険しい表情を作って日高を見下ろす。
「だから! 毎日見舞いに来る、つってんだろーが!」
あんまりな茅野の不遜さに、さすがの日高もあきれ果てる。
「責任取るってんなら、俺の命令には逆らわない、ぐらいはしてもらわないと許さねーぞ!」
毎日見舞いに来て欲しいわけではない日高は、茅野が承諾しそうにない無理を言って困らせてやりたかっただけで、本当にそう思って発した言葉ではなかった。
「……」
言葉もなく黙り込む茅野を見て、日高の心に少しだけ意地の悪い気持ちが湧き上がる。この、昨日からの何とも言いようのない不快感を茅野にぶつけてしまいたかった。
「そうだな。まずは、俺が話し掛けても無視はするなよ。絶対に何らかの返事をしろ」
「ああ?」
身勝手な日高の要求に、茅野は目を剥いて立ち上がりかけ、しかし日高の真剣な眼差しに阻まれて勢いを欠く。
「それができれば、お前が俺に対して謝罪の気持ちがあると理解してやる。これ以外は受け付けねーからな!」
日高は、内心では茅野を信用していなかった。どうせこいつは返事しねー、やるわけない、だって茅野だから、と偏見にまみれた絶対的な確信を抱いているからだ。
「……わかった……」
しかし、尻すぼみに出された茅野の返事は日高の予想を裏切ることになり、日高の方が目を見開いてしまった。
言った茅野の方はといえば、納得していません、と表情に大きく表れている。
つい、日高は面白くなってしまった。
「本当にわかったのか?」
念を押すように日高が言えば、茅野は目に怒りを込めて激しく睨んでくる。
「わかったってんだろーが!」
茅野の出した大声に、どれだけの反発が含まれているのか、想像に難くない。
日高は内心、どうせ三日坊主すら無理だろうと思った。しかし、返事をしてくれる間だけは、自分の精神的なダメージが少ないだろうと予想する。
「じゃ、俺のバッグを取ってくれ。携帯で親に連絡するから」
茅野は渋々動き、持ってきた荷物の中のどれかを日高に聞く。これに答えながら、日高は最近の茅野が携帯を持つようになったとマネージャーから聞いていた事を思い出した。
「そういやお前、携帯持ったんだろ? 番号とメアドを教えろよ」
「……必要ない」
日高の問いかけに無視するな、との約束はまだ効果があるらしい。さも嫌そうに返事をする茅野が、日高には面白くて仕方ない。
「お前の携帯には五件くらいしかアドレス入ってないだろう。俺が教えてやるってんだから有り難く貰って、そんでお前のも教えろ」
実際、茅野の携帯に入っているのは、すぐ上の兄である広海と長男の陽一と自宅とマネージャーの四件だけだった。何でそんな事を知っているのだ、と茅野の目は驚きと怪しさに見開かれる。
そんな動揺を見せた茅野を目の前にして、日高は楽しさを隠せない。
「俺を無視するなって言ってるんだ、それはメールにも当てはまる。だからお前はそれを無視できねー。拒否権はないね」
日高の滅茶苦茶なこじつけに、さすがの茅野もあきれて声も出ない。
「ほら携帯を出せ。俺が登録してやる」
どんどん話を進めていく日高に、茅野は反論したいのに何も浮かばない。怒りだけが蓄積する。
「てめー怪我が治ったら覚えてろよ!」
悔しそうに吐き捨てた茅野の大声に、日高は内心で舌を出した。


全治二ヶ月。これが、日高に圧し掛かった災難に対する結果である。
さすがにたかが骨折くらいで長期の入院にまでは至らず、日高は次の日には自宅へと帰ることができた。身体中の痛みが引くのは、そう簡単ではないらしい。たかが歩くだけでも、激痛の走る体での松葉杖はそうとう疲れる。
病室には大量の女子がお見舞いを持参して押し掛けたものだから、日高は周りから煩いと睨まれていた。しかし日高が呼んでいる訳ではないので、どうにもならない。
唯一静かな場面があったのだが、それは女子の中に茅野が現れたせいである。蜘蛛の子を散らすように煩い集団が消えてしまうと、日高は思わず助かったと呟いてしまった。
 日高は、茅野が何しに来たのかはどうでも良かった。松葉杖の練習で疲れ果てたところに女子が押し寄せて、ウンザリしていたのだ、この際茅野だろうが渡りに船だった。だからついつい笑顔で茅野を招き寄せる。
「お前も役に立つことがあるんだな」
なんて軽い気持ちと笑顔で話し掛けた日高は、茅野の何とも言い難い顔を見て黙ってしまう。いつものごとく一言も発しない茅野にイラッとした日高は、つい大声で怒鳴ってしまった。
「てめー何しに来やがった!」
「見舞いに決まってるだろうが。詫びの品だ」
払い除けたくなるほどグイッと押し付けられて、日高はこのごろ念仏のように唱えるようになった呪文を口の端からこぼす。平常心……これほど忍耐の必要な相手は、長い人生に一人で充分だ。
「それはどうもご丁寧に……って! お前、病人に激辛菓子なんて持ってくるかよ、普通!」
自分が原因で入院している人間に対して持ってくる見舞い品にしては、度を越している。
「茅野、これワザとだろ……」
地を這うように出た低い声は、日高の堤防ギリギリラインだ。
「はっ、なんだ気付かないかと思ったぜ」
「病人をおちょくって楽しいのかよ!」
茅野の人を馬鹿にしくさった返事に、ついに日高は平常心も吹き飛んだ。
「あんなくらいで骨を折る軟弱ヤローなんて、これがお似合いだろ」
「誰のせいで骨折したと思ってるんだこのヤロー!」
日高は怒りのままに手を伸ばし、茅野の服を握って引き寄せる。高い位置から降りてきた茅野のキツイ眼差しに、負けるもんかと日高は睨み返した。
「……」
いつものように、茅野は一言も発しない。口ほどに物を言う眼光の鋭さだけは、普段通り半端ないが。
「あなたたち何をしているの? 日高君、静かに寝てないと足の治りは遅くなる一方よ」
看護師に、二人は突然怒られた。彼女の後ろには、見事なまでの野次馬の大群。入院患者に混じって学校の女子がたくさん居たのには、日高も愕然とする。またあることないこと学校で言われてしまうんじゃないか、と日高は余計な不安を抱え込んだ。
「放せ」
動けない日高の指を自分の服から外し、茅野は無言で邪魔だと表現しながらデカイ図体で野次馬を蹴散らして病室を出て行く。
「待て茅野!」
しかし、茅野が振り返らずに去って行ったのも、認めたくないがいつもの事だった。残された日高に、この事態をどう収拾しろというのか。
この場を逃げ出せない日高は、自分の身体を呪った。



日高が怪我をした当日、茅野が日高を背負って保健室に連れて行く様子が、瞬く間に全校中へと広まった。
「キャー日高君ー!」
明らかに日高を心配する女子生徒がいれば、
「キャーやっぱり茅野君が運ぶのねー!」
「意識の無い日高君を背負う茅野君かー。またまた新密度アップ?」
なにやら妖しい角度から二人を観察する腐女子の声が、半数近くを占めていた。ここ最近の二人の接近によって、彼女らの色眼鏡にはより一層の色彩が追加されたようである。
「ついに日高が茅野に骨折させられたらしいぞ」
「あーあの茅野なら、絶対に手が出ると思ったぜ」
「日高はもう再起不能か? かわいそうに」
対する男子の間では、茅野暴力説がまことしやかに流れている始末だった。
だがしかし、話題の中心である茅野大地には一切噂は入ってこない。誰も茅野に話し掛けないどころか、常に近寄らないように警戒しているからだ。怖がっているのである。
でたらめな噂でもちきりだったが、キャプテンの藤田は学校の教師以外には正確な事情は話していない。どうせ何を言ったところで、周囲は己の解釈したいように話を捻じ曲げてしまうだろう。一々訂正するのが馬鹿らしくなる。そんなのは、完治した日高がすればよい。彼ならば、躍起になって訂正するだろうから。
「何て言われているか日高が知ったら、どんな顔するだろうな」
さも楽しみだと言わんばかりの桂木が、加納をからかうように話し掛ける。同じ部活の先輩にすら面白がられているのだから、日高は不憫である。
「もう必死になってアワアワして、かわいいだろうなー」
どうにも日高がかわいく見えてしまう加納の感覚に、桂木はついて行けなくて乾いた笑いで受け流した。急いで藤田の背後に近寄り、加納も病院に行かせた方がよくないかと訴える。
「日高が帰ってくれば治るだろ? それよりも俺は二年生を頼むと言ってあったはずだが?」
どんな場合でも、藤田は藤田だった。あらぬ方向を見て頭を掻きながら、桂木は、ちゃんと見てるって、と退散していく。
藤田は重く溜め息を吐く。日高が居ようが居まいが、部活に集中しないのはよろしくない。
「これは強化メニューを増やして余分な事を考える隙間をなくさないとな……」
藤田の小さい呟きは、部員らが出す声にかき消されていった。


いやはや、あまりにも原作が発売されないし、自分は小林×広海でしかも大地×日高なので♪
それに先生は大地×日高なんて書いてくれないだろうし(哀)
日高が受けなのは、私が櫻井タン中毒って事で理解して下さい(苦笑)
たかがこんだけでも、自分にとっては萌え〜♪

続きを書くかどうかは、皆様の声によりま〜す(何かお言葉を下さいね♪)

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