断酒の効用
下戸の方にとっては当たり前の状態なんですが、依存症者が断酒に成功すると、目が覚めるような、天地が開けるような日常に驚きと喜びとを覚えるものです。
効用1 気分がよくなる
依存症者は万年二日酔いのようなものです。たまにこれではいかんと酒気を抜こうとしてもそれは所詮再び呑むための休酒期間、「ようし脳味噌も臓腑もすっきりしたところで改めて呑むぞー!」となるわけですからどおしよおもありません。気分のよさは酩酊にありと錯覚しているのでなお厄介です。休酒期間中も酩酊状態のことばかりを考えていますから酒の抜けた状態の心地よさに気付く暇もあればこそ。ですが二三日呑み続け臓腑も脳味噌も酒瓶に浸されているように重く不快になり取り出して真水で洗いたいものだとのたうっている病み果てた状態と縁が切れるというのは大変よろしい。酩酊の気分の良さは偽りです。それを途切れぬようにしたいというのが依存症者の心からの願いでしょうが、理想的な酩酊の状態は上手に続いて二・三時間でしょう。その後は正気が滅び、端に迷惑をかけているうちに寝てしまい、さめてからも先ほどの理想的な酩酊が恋しくて再び呑んでしまったりしますが、既に酒精に疲弊した臓腑は二度とあのバラ色の気分には戻してくれないのです・・・一旦酒気を抜かない内には。が依存症者は理想的な酩酊の状態に執着が強いために抜かないと駄目だとわかっていながら酒瓶を離さずうろうろします。それは経済的にも、人間的にも、社会的にも、非常にコストのかかるありようです。酩酊による気分の良さは本来ハレの日だけに赦されるもの。日常をハレの気分で染めようとするのはそりゃ無茶です。いっそなくても特に不自由なくやっていけます。そのうちに酩酊なしの過ごし方を覚え、その経済性に誇りを覚えるのです。フツーっていいですよ。
効用2 健康になる
上記のような万年二日酔い状態とそれに伴う胸焼け、頭痛、下痢、嘔吐、さらにはアルコール以外摂らない絶食状態から抜け出すことができます。これで肝臓もピッカピカです。
効用3 時間を有効に使える
夜になったら呑む、または寝酒に呑むという方も、眠たくなるほどの酔いが来るまでの時間というのは、酒をついじゃぁ杯を傾けるという単純作業のために費やされているものと考えられます。その時間もあまり生産的ではありませんが、勢いで閾値を超え、興奮状態に至ってしまったという場合、なんかだらだらと飲み続けて却って睡眠時間を削っちゃったりしませんか。一人のころはともかく子持ちになると夜は貴重です。呑めば時間を酩酊というどぶのなかに棄てているようなものでしたが、こんなサイトを立ち上げられるほど、時間とは本来生産的なものだったのです。
効用4 久しぶりにあった友人に顔向けできなくなるということがない
ま、説明するほどのこともござんせんが。久しぶりに友達とあったのに、飲み過ぎて正気をなくしてらちないことを申し上げて次の朝顔色をなくしたり何をいったのかすら記憶になく顔までなくしたりということがなくなって、これまた気分がよろしい。
効用5 世間が狭くならない
酔った勢いで調子にのって平時は片思いだった酒場などにふらりと立ち寄ったりして、そこでらちないことを申し上げたりなしてしまったりして、ママや主人に嫌がられて、帰って酒気が抜けてからまたもや顔色をなくしたりというようなことがなくなる。二度と立ち寄れない酒場が増えるよりはいつか行ってみたい場所がとってある方がいいもんです、たぶん。
効用6 しまった!がなくなる
酔うと開放的になるもんです。岡惚れのオトコや岡惚れでもないオトコやらと間違いをしでかしてしまうと、まぁ人間同士のことなので事後処理というものが必要になる。なんとも決まり悪いもんです。私は以前とある殿方と酔った勢いで三回やらかし棄てました。けっこういい坊やだったのにね。ゴメンナサイ。
この他、家族との関係が良好になるなどの効用もございますが、まぁ予測できることなので割愛しました。
一年と少しにせよ、私が断酒をケイゾクできている訳には、治療開始とほぼ時を同じくして転居し、飲み会に参加する機会を失うと同時に見知らぬ人の中に入りあたかも元からの下戸であるような振る舞いを許されたことにあると思われます。治療を開始した直後は酩酊状態に焦がれ酒なしで過ごす夕べを不安に覚えましたが育児の忙しさと疲れの中に日を重ね、そのうちに「酒がかけがえないものであった日々」から「酒のない日々」へと生活と心の習慣のすり替えを試みました。これが功を奏したのか、転居来杯を手にせず済んでいるのは既に記した通りです。今はただ静かに、酒場の雰囲気を懐かしんでいます。