梅雨の晴れ間。 じーじーとここぞとばかりに鳴く蝉が五月蝿い。 久々に覗く太陽が歩道を歩く二人を照りつけていた。 「ふぁ〜……まだ6月っていってもやっぱ暑いな」 そう言うのは白いシャツを身につけた小柄な少年。ぱたぱたと手の平で自身の顔を仰ぐ真似をする。 「オマエ暑くない?そんな黒尽くめの格好して?」 傍らを歩く長身の少年の、肩一つ分ほど上にある顔を見上げて、見てるだけで暑苦しいのに、と悪戯そうな瞳で笑った。 受けて黒尽くめの少年は、 「君が――龍麻が思うほど暑くはないと思うけど」 黒の、しかも長袖シャツを着込んでいる少年は涼やかな笑みを浮かべた。 「紅葉は新陳代謝が発達してないんだ!そうじゃなかったら、オレのこの暑さの理由がつかない」 「それは龍麻が暑がりなだけだろう?」 汗一つ流すことなく言ってのける壬生に、龍麻は納得いかないとばかりにその頬を引っ張った。 汗一つかかない壬生に比べ、龍麻はだらだらとまではいかないが、それでも額には光るものがある。 「あ〜…何言っても紅葉には結局勝てないもんな。言い合うだけ無駄だ。余計暑くなっちゃったし」 「よく判ってるね」 くすりと笑んで、取り出したハンカチを差し出す。 「?」 思わず、きょとん、とした龍麻に小さく吹き出した。 「使わないの?」 「使う!」 言うが早いか紅葉の手から布きれを奪うと、龍麻はそれをじんわりと汗ばむ額に当てた。 そしてそんな子供地味た龍麻の様子に壬生は柔らかな笑みを浮かべる。 「そうだね…まだ暑いしそこの公園にでも寄るかい?」 日よけのベンチがあったはずだよ、と告げると龍麻は、 「オレ先に行ってるからな」 とだけ言い残して走り出した。置いていかれた壬生は怒るでもなく、ただ密やかな苦笑を漏らしていた。 「おっそいな〜、紅葉のヤツ……」 守備よくベンチに腰掛けて、龍麻は未だ来ない壬生の姿を探した。 「それにしても、走った所為でまた汗かいちゃったし……って、わ、?!」 突然、首筋に走った感触に身を竦ませる。 「待たせたね、龍麻?」 視線を向ければそこには、見慣れた長身。 おそい!と言おうとすれば、いいタイミングで円中形のものを差し出した。 「暑いだろう?」 大気の暑さですでに汗をかき始めた烏龍茶の缶を先程は首に、今度は額に当てる。 「つめたっ…!ん、でもアリガト」 素直に礼を言って受け取ると、プルトップを引き抜いて口につける。 壬生も龍麻の近くに腰掛けて、同じように缶に口をつけた。 暑かったのか、喉が渇いていたのか…こくこくと缶を空けて、龍麻は大きく伸びをした。 そしてそのまま壬生の肩に頭を乗せた。 「龍、麻……?」 ふんわりと漆蒼黒の髪が壬生の形のいい顎先に当たる。 「んー…やぁっぱり紅葉ってアレだよなー」 猫のようにしなだれかかってくる龍麻に壬生は苦笑を漏らして、次に続く言葉を待つ。 「お母さん」 「………え?」 聞こえてきた言葉に壬生は硬直した。 甘い時間と思っていた矢先に、「お母さん」と呼ばれてしまっては壬生でなくても硬直しそうなものだが…。 「紅葉ってばハンカチ貸してくれるし、飲み物買ってきてくれるし…お母さんみたいだよな、優しくて。オレ達って母子みたいな関係?」 龍麻は心底嬉しそうに笑んだ。 対して壬生は苦々しい笑いを零す。 「お母さん…は、僕にはちょっと役不足かな」 「え?」 なに?と問うとする龍麻の頤を壬生はその長い指先で捕らえた。 妖艶な笑みを間近に仰ぎ見た次の瞬間には、龍麻の口唇に壬生のそれが触れていた。 つい、と上口唇を舐められて。 思わず瞳を閉じれば、より一層口唇が重なる。 「………ッ………ンンぅ………!!」 開放されて息を繋げる龍麻の様子に、壬生は上機嫌そうに瞳を細めてその耳元に低く囁く。 「僕は。龍麻とはこういう関係がいいんだけど?」 いやかな?と呟いて、壬生はとどめとばかりに耳朶を噛んだ。 「オレ、は……」 ようやっと呼吸の整った龍麻の言葉は、果たして、近くで鳴き出した蝉の声にかき消された。 END