デューク 江國 香織
新潮文庫 つめたいよるに から
神様が僕に言った。
「デュークおまえはよくご主人につくし、犬としてよい行いをしたので、
最後に一つだけ願いをかなえてあげよう。」
僕は神様にお願いした。
「どうか人間に生まれ変わりたいです。」
「それはできない。しかし一日だけなら、その願いをかなえてやろう。」
僕は人間の少年になっていた。
彼女を探した。電車の中で女の子が泣いていた。僕は彼女のそばに
いった。あんなに大きく感じたのに、意外と小さかった。
二人でモーニングを食べて、温水プールに行った。
どうやら人間の僕も気にいってもらえたようだ。
彼女もすごく楽しそうにしている。
笑顔を見たのはとても久しぶりだった。
なのに落語を見たあたりから、彼女の綺麗な顔が曇ってきた。
もう夕方だ。そろそろお別れの時間だ。
そして彼女にキスをした。甘いアイスクリームの味がした。
「じゃあね。元気で」
僕は、うしろを振りかえらずに走った。涙が止まらなかった。
深い青が彼女と街とを包んで、解けて行った。
2001.6.6 masa
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