| 森と湖 |
| 朝食を済ませたばかりの老人が、庭の長椅子でゆったりと読書をしています。 彼は、長い間世間の喧騒と共に世を過ごしてきたのですが、 ここのところゆっくりとした場所を求めるようになっていました。 調子の悪い足を椅子の上に乗せて組んでいると、 静かな森のざわめきと涼やかな風に眠気を誘われてしまうのです。 この、身なりの良い老人がコップポン伯爵です。 手に持っている書物の文字列が、次第にぼんやりと霞んできます。 揺ら揺らと時の流れに攫われるように眠りに落ちていく伯爵は、 大層心地よさそうに書物を閉じると、そのまま目を瞑ってしまいました。 しかし、心地よい眠りは軽い衝撃と共に覚まされてしまったのでした。 コップポン伯爵は、お腹の上にある重みに僅かに眉を顰めると、そっと瞼を上げました。 すると、丁度お腹の上にペタンと横たわる形で小さな猫が乗っかっているのでした。 「こら、そこで昼寝をするつもりなのかい?」 伯爵は小さな猫に話かけました。しかし、猫の方は全く無関心といった反応しかしません。 ぎゅっっと小さくのびをすると、また小さな欠伸をしている始末でした。 伯爵は、ふと表情を和らげました。 随分と長い間、こんなゆったりとした時間をのんびり過ごすことはなかったのです。 そう思うと、嬉しいような、寂しいような、複雑な気持ちでした。 忙しい時間は、もう過ぎた過去のことなのです。 伯爵は、小さく笑いながら、ため息をつきました。 猫は、まだお腹の上で気持ちよさそうに眠っています。 森からの風がこの小さな長椅子の上まで凪いできます。 コップポン伯爵は、どうしたものかと再びお腹の上を見ると、 今度はその猫がゆっくりと大きな目を開けました。 そして、まるで伯爵の気持ちを察したかのように、 軽くお腹の上から飛び降りるとコップポン伯爵を振り返るようにして、ゆっくりと森の中へ入って行きました。 その夜、伯爵は夢を見ました。 昼間の猫が、伯爵を誘って森の中へ入っていくのです。 そして、伯爵はその猫の跡を追いかけていくのです。 不思議と、弱っていた足は驚くほど軽く、まるで走ってでもいるような速度で猫と共に森へ入っていくのでした。 ずっとずっと歩いているのに、疲れる感じはしませんでした。 伯爵は、とても気持ちの良い気分で目が覚めました。 そして、ふと窓の外から森を伺うのでした。 |