フェルナーキャンペーン
登場シーンリスト
1巻 ―― なし。

2巻 P58 リップシュタット
―― ――  シュトライトが失望して引きさがった後、フェルナー大佐という人物がブラウンシュバイク公に意見を具申した。彼が主張したのも、少数によるテロリズムで、熱弁をふるって説いた。
「数百万の大軍など必要としません。破壊工作の訓練を受けた兵士三〇〇名、これだけお貸し願えれば、ローエングラム候の息の根をとめてごらんにいれましょう」
「黙れ、きさまもわしがあのこぞうんい勝てないと言うのか」
「閣下、私が申し上げたいのは、帝国を二分する大戦となった場合、惨禍はあまりにも大きく、勝者も傷つくにちがいないということです。ローエングラム候は破壊の後に再生を目指すという立場ですからよいとして、閣下には体制を維持する義務がおありのはず。ただ勝てばよいというものではないでしょう」
「こざかしい口をきくな!」
 怒声を浴びて、フェルナーは退散したが、それによって彼は自分の考えを捨ててしまったわけではない。主君の強情さと迂遠さを、彼は軽蔑したが、シュトライトのようにそのまま引っこんではいなかった。
「こうなったら自分でやるまでだ。ローエングラム候を殺せなくとも、姉のグリューネワルト伯爵夫人を人質にとる策<て>もある」
 彼は直属の部下を中心に三〇〇名の兵士と火器を集め、一夜、主君に秘密でラインハルトの居館を襲撃しようとした。
 しかし、これは失敗に終わった。すでにキルヒアイス自身が五〇〇〇名の武装兵をひきいて、ラインハルトとアンネローゼの居住するシュワルツェンの館を厳重に警備していたからである。奇襲の隙など、まったくなかった。
「さすがに、ローエングラム候とその腹心だ。俺ごときの小細工が通じる相手ではないな」
 断念したフェルナーは、その場で部隊を解散し、自分も行方をくらましてしまった。ブラウンシュバイク公に無断で兵を動かした以上、その怒りを買うのは明白だったからである。
 むなしく手ぶらで帰ってきた兵士の口から、ことのしだいを聞くと、ブラウンシュバイク公はやはり激怒し、でしゃばりの部下に制裁を加えようとその行方を探した。
 しかし見つからなかった。
「ふん、まあよい。どうせ宇宙のどこにも身の置きどころのない奴だ。のたれ死にするのが結末<おち>だろう。放っておくか」
 フェルナーごときの行方を探すより、事態が急進行した現在、オーディンを脱出して自分の領地に帰ることが先決だった。
―― P62 転身
―― ――  いっぽう、フェルナー大佐も逃げ遅れたくちである。下町に潜伏していた彼は、逮捕こそまぬがれたが、進退きわまったことにかわりはなかった。考え抜いた末、彼は自分から進んで憲兵隊に出頭し、ラインハルトに直接会って自分の運命をきり開くことにしたのである。
 彼のほうは、シュトライトよりはるかに割り切りがよく、主君のブラウンシュバイク公を見限ったからあなたの部下にしてくれ、と申し出た。自分が兵を動かしてなにをたくらんだかも隠さなかった。
「すると、卿の忠誠心はどういう判断によって、卿が年来の主君を見捨てることを許したのだ?」
「忠誠心というものは、その価値を理解できる人物に対して捧げられるものでしょう。人を見る目のない主君に忠誠を尽くすなど、宝石を泥の中へ投げ込むようなもの。社会にとっての損失とお考えになりませんか」
「ぬけぬけと言う奴だ」
 ラインハルトはあきれて首を振ったが、フェルナーの言動に陰湿さのないことを認めて、幕僚の一員になることを許した。これだけ神経が太いのなら、冷徹氷のごとし、と称されるオーベルシュタインのもとでも萎縮することはあるまい。
 オーベルシュタインは意図的に部下いじめをするような男ではないが、鋭利かつ冷静すぎるので、若手の参謀たちがうっかり冗談も言えないような雰囲気があるのだった。
 そこへはいりこんだフェルナーは、最初、白眼視されたが、急速に地歩を確立していった。彼は自分の立場と役割をよくこころえていた。かれは解毒剤でなければならなかったのである。必要と意思さえあれば、劇薬にもなれる男だったが。

3巻 P46 ガイエスブルグ作戦
―― ――  作戦指揮官の人選をラインハルトに問われたとき、オーベルシュタインは即答せず、参謀チームの一員であるフェルナー大佐の意見を聞いた。返答はこうであった。
「ロイエンタール、ミッターマイヤーの両提督が武勲をたてたとき、彼らに報いるのは帝国元帥の地位しかなく、彼らがそれを得れば、ローエングラム公爵と階級を同じくすることになります。人事秩序の上から、それはまずい。むしろ大将たちのなかから人選すれば、作戦が成功したとき、上級大将に昇進させることで、ロイエンタールとミッターマイヤーの地位の突出を避けることができるでしょう。失敗した場合でも、切り札を使ったわけではありませんから傷は比較的すくなくてすみます」
 その意見はオーベルシュタインの思案と一致した。

4〜5巻
なし。

6巻 P105 擾乱の前
―― 「・・・・・・弁務官はヤン・ウェンリー元帥への監視を強化。同盟内反政府派の動向と強い関わりあり、と、みなしているようです。詳細はおって・・・・・・」
 軍務省調査局長アントン・フェルナー准将からその報告を受けた軍務尚書オーベルシュタイン元帥は、光コンピュータを組み込んだ両眼をわずかに細めた。
「烏合の衆は、結束のために英雄を必要とする。同盟の過激派、原理派がヤン・ウェンリーを偶像視するのは無理なからぬことだ」
 そう言いつつ、彼は年齢に似合わぬ半白の頭髪に指をあてた。
「レンネンカンプがな、ふむ・・・・・・」
「放置しておいてよろしいのですか?現在、ヤン元帥に造反の意思がないとしても、周囲に原色の絵の具が置いてあれば、いつか染まりもしましょう」
 フェルナーは、とかく冷厳と思われがちなオーベルシュタインの前に出ても萎縮をしめさない点で貴重な人材とされていた。軍務尚書はひややかな一瞥を部下にむけたが、彼の場合、とくに悪意をしめすものではない。
「いまのところ、どう手を出しようもあるまい。レンネンカンプは職権を侵されるのをとくに嫌う男だ」
「ははあ、ですが尚書閣下、同盟の国民的英雄であるヤン元帥を、レンネンカンプ弁務官がやたらに処断すれば、同盟市民の帝国に対する反感が方向性と集束性をともって激発するかもしれませんぞ。大きくなった火は消しにくくなる道理ですが」
 フェルナー少将の声には、ごく微量ながら、演劇を鑑賞するもののようなひびきがあった。彼を見るオーベルシュタインの眼光に、今度は単なるひややかさ以上のものが加わった。
「失言でした。お忘れ頂ければ幸いです」
 フェルナーが誤りを認めると、オーベルシュタインは無言で肉の薄い手を振り、出て行くよう合図した。
 一礼してフェルナーは退出したが、軍務尚書の胸中を推測せずにはいられなかった。
 あるいは軍務尚書はヤン元帥の存在を利用する気なのかもしれない。磁石を砂の中に埋めて砂鉄を集めるように、ヤンの周囲に同盟の判定国強硬派、民主主義原理派を集める。集めてどうする?それを口実としてヤンを処断し、帝国にとって後日の憂患を絶つか。それとも、むしろヤンをかかむ強硬派の勢力を伸張させ、同盟内における対帝国協調派との間に抗争を生じさせる。さらにそれを内乱にまで拡大させて両者を共倒れさせれば、帝国は自らの手を汚さずして、同盟全土を掌握することになろう。
「しかし、はたして軍務尚書の思うように、自体が<こと>がすすむかな」
 戦場におけるヤン・ウェンリーは、戦争の天才たる皇帝ラインハルトすらも死地に追いつめたほどの智将ぶりをしめした。艦隊なく兵士なきヤン・ウェンリーは、はたしてオーベルシュタイン元帥の料理の材料たることに甘んじるか。古来、窮鼠は猫にむかって飛びかかるものではないか。となれば、まっさきに鼠にかじられる立場のレンネンカンプが、いささか気の毒な事になろう。
「いずれにしても、こいつは観物だ。軍務尚書の思惑がとおるかどうか。それによって現在の平和が一時代を築くか、動乱のささやかな休息時間にすぎないか、歴史の分かれ道ができそうだな」
 フェルナーは唇の端に皮肉っぽい微笑をひらめかせた。彼はかつて旧帝国門閥貴族軍の幕僚としてラインハルト暗殺を計画した男である。ラインハルト個人に対する憎悪からではなく、自らの立場に忠実たらんとした結果ではあったが。その後、ラインハルトに赦されて部下となり、主としてオーベルシュタインのもとで作戦立案や元帥府の運営に功績があった。彼は不逞な野心家ではなかったが、観客としては明らかに治より乱を好んだ。ひとつには、自己の才幹と行動力によって、どのような状況でも生き残ることができる、という奇妙な自信を持っていたからでもある。
―― P136 策謀のFTL
―― ――  「犬には犬の餌、猫には猫の餌が必要なものだ」
 かたわらにひかえていたフェルナー准将がせきばらいした。
「ですが、レンネンカンプ弁務官が成功するとはかぎりませんぞ。失敗すれば、同盟政府全体がヤン提督の味方となり、帝国に対して団結して抵抗の姿勢をしめすかもしれませんが、それでもよろしいのでしょうか」
 多少の危惧を押して言ったのだが、オーベルシュタインは怒らなかった。
「レンネンカンプが失敗したなら、それはそれでよい。他の者が彼にかわって任務を遂行するだけのことだ。道を切りひらく者とそれを舗装するものとが同一人であらねばならぬこともなかろう」
 なるほど、皇帝の代理人に害がくわえられたとなれば、明らかな和約への違反行為。ふたたび軍を動かし、完全な制服をおこなう口実となる。フェルナーは、軍務尚書の発言を、そう翻訳した。ヤン提督のみならず、味方のレンネンカンプまでを犠牲の羊として、軍務尚書は同盟の完全制服をもくろむのか。
「ですが、軍務尚書閣下は、同盟を完全征服するのは時期尚早であるとお考えではなかったのですか」
「現在でも、その考えは変わらぬ。だが、手をつかねて傍観していれば、目的の上からは退歩するとあれば、次善として積極策をとらざるをえんではないか」
「たしかに・・・・・・」
「レンネンカンプは生きていても元帥にはなれん男だ。だが殉職すれば元帥に特進できよう。何も生きてあることだけが国家に報いる途ではない」
 フェルナーは、軍務尚書の発言を聞いて、いまさらおどろきはしなかった。おそらく、レンネンカンプに対するオーベルシュタインの評価は完全に正しいのであろう。今回の件にかぎらず、オーベルシュタインの言うことは理屈として正しい例が圧倒的に多い、と、フェルナーは思う。ただ、人間は、方程式や公式を具象化する要素としてのみ存在するのではないから、反発や嫌悪を覚えずにいられない。第一、いつ自分がレンネンカンプの境遇に立たされるやら、知れたものではないのだ。軍務尚書はその点に思いをいたすべきではないか、とフェルナーは思ったが、忠告する義理はなかった。

7巻 P75 ラグナロック再び
――  オーベルシュタインは無表情に命令を受領し、軍務省が設置されたビルの一室で事務処理をはじめたが、彼の部下フェルナー准将は、この冷徹無比といわれる上官を、なるべく尖端を丸めたことばの針でつつくことに、スリルを感じている。
「軍務尚書は、再度の出兵に反対なさると思っておりましたが」
「いや、あれでよいのだ」
 性急な出兵が万全の策とはオーベルシュタインは思わないが(後略)
「それに、皇帝の本領は果断速攻にある。座して変化を待つのは、考えてみれば皇帝にふさわしくない」
「おっしゃるとおりですな」
 オーベルシュタインの論を肯定したものの、彼を見るフェルナーの視線には、意外さの微粒子がちりばめられていた。
―― P210 一千万人の足を止めた一通
―― ――  彼の部下フェルナーは思うのだ。軍務尚書は、あるいは諸将の反感・敵意・憎悪を彼の一身に集中させることにで皇帝の盾となろうとしているのかもしれない。それらしいことを彼自身がもらすことはけっしてないので、単にフェルナーがそう解釈したというにすぎないかもしれず、そもそも当のオーベルシュタインにそのような意識があるか否か、判断しがたいところである。それにしても、本来、軍務省の属官でもないラングがオーベルシュタインの腹心面でフェザーンに居座っている風景は、フェルナーには愉快ではなかった。だが態度にはいっさいださない。彼もそう単純明快な価値観の所有者ではなかったのである。

8巻 P199 遷都令
―― ――  7月31日、軍務尚書オーベルシュタインが使用しているオフィスに、一通の通信文がもたらされた。彼の手もとにそれをとどけたのは、アントン・フェルナー准将である。
 軍務尚書オーべシュタイン元帥は、その通信文に自室でただひとり目を通した。どのような重大な懸案を処理する時も無表情な男だが、このときも例外ではなかった。通信文は読後、完全に焼却された。
 フェルナー准将が別の事務処理のために入室して、指示を受けた後でふと近日の記憶の中から話題をひろいあげた。
「ところで、軍務尚書、かのヨブ・トリューニヒトが総督府高等参事官として、捨てた祖国に極彩色の錦を飾るそうですが・・・」
「意外か?」
「まさか、陛下があの案を実行にうつされるとは思いませんでした。トリューニヒトを旧同盟領に派遣なさるとは。それに応じるあの男の厚顔も相当なものですが、あるいは、あの男を背後であやつる人形使いがいるのかもしれませんな」
 オーベルシュタインは直接には答えなかった。 「フェザーンは近く正式に銀河帝国の首都となる。名実ともに宇宙の中心となるのだ」
「はあ、それで?」
「市井の庶民と言えども、転居のときにはあらかじめ掃除をするものだろう。フェザーンにかぎらず、帝国全土を陛下の御為、清潔にする必要があると卿は思わぬか」
 このような表現は、オーベルシュタインにしてはむしろ饒舌に類するものだった。本来、部下が納得するまで説明するような男ではないのだ。
「なるほど、地下にもぐった黒狐やその他の妖怪どもをいぶし出すのですな。そのためにトリューニヒトを使うと・・・」
 フェルナーが感心したことは事実である。彼は上司たる軍務尚書が私心のない人物であることを知っていたし、国家と皇帝の利益を守るために精励する姿に対しては、充分な尊敬に値するものと考えていた。その点、オーベルシュタインは非のうちどころのない公人だった。
 だが、オーベルシュタインの発想は、つねに有害物を排除することによって帝権の安泰をはかる、という型に沿っている。遠からず粛清の朔風が帝国の中枢を横断するのではないか。
「虫が食った柱だからと言って切り倒せば、家そのものが崩壊してしまうこともあるだろう。大と小とを問わず、ことごとく危険人物なるものを粛清し終えた後に、何が残るか。軍務尚書自身が倒れた柱の下に敷かれるかもしれんな」
 フェルナーはそう思うのだが、それを軍務証書に進言しようとはしなかった。あるいは軍務尚書は、フェルナーの考えていることなど承知の上で、あえて事を進めているとも見えるからであった。

9巻 P144 ラング
―― ―― 「私以上に、卿の方が憎まれているとも思えんがな」
 オーベルシュタインの声に皮肉や冷嘲のひびきはない。義眼の軍務尚書は、学究のような沈着な態度で、事実を指摘して見せたのである。
 言を左右にして、一時的に返答を延ばし、ラングは軍務尚書の執務室を飛び出した。いれちがいに入室したフェルナー准将が冷笑の一閃を投げつけたようであったが、確認する余裕などない。
―― P227 第二次ランテマリオ会戦終息
―― ―― 「ミッターマイヤー提督が、あえて自分の手で親友を討った意味がわかるか」
 オーベルシュタインが、幕僚のアントン・フェルナー准将にそう問いかけたのは、ミッターマイヤーの帰還を翌日にひかえた年末の一日のことである。この冷徹かつ厳格で無私な尚書のもとでは、軍務省の事務がとどこおったことは一瞬もないという点について、フェルナーは後世に対する重要な証言者となっている。
「さあ、小官などにはいっこうにわかりませんが、尚書閣下にはいかがお考えですか」
「もし皇帝がご自身の手でロイエンタールをお討ちになれば、ミッターマイヤーはどうしても皇帝に対する反感を禁じえないだろう。君臣の間に亀裂が生じ、ひいてはそれが拡大して取り返しのつかないことになるやもしれぬ」
「はあ・・・」
 フェルナーは、あいまいに反応しつつ、淡々として語る軍務尚書の、削ぎおとされたような横顔を見やった。
「だが、自分が指揮官としてロイエンタールを討てば、友のかたきはすなわち自分自身、皇帝をお怨みする筋はナイト、そう考えたのだ。彼はそういう男だ」
「そうお考えになるについては、何か証拠がおありですか」
 オーベルシュタインは微かに半白の髪をゆらした。
「私の勝手な解釈だ。真実かどうかはしらぬ・・・それにしても」
 軍務尚書は苦笑したように見えた。フェルナーには、にわかには信じられないことであったが。
「それにしても、私も口数が多くなったものだ」

10巻 ―― なし


***見落とし、間違いなどありましたらご指摘下さい***



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