キスリングキャンペーン
協賛作品

休日

 キスリングの休日は、愛用のブラスターの手入れから始まる。
 ラインハルトから重用されてからというもの、数々の事件をこのブラスターと共にしてきた。キスリングの手に合わせた特注のブラスターは一般のと比較してやや重い。 金属独特の冷たさを感じながら、細部まで布で丁寧に磨き込んでいく。
「さ、て。今日は何をしようか」
 磨き終えたブラスターをサイドテーブルに直す。
 時計に目をやると朝食を摂るにはもう遅い時間だった。昼食も兼ねて外出の用意をする。月に一回あるかないかの休日は貴重と退屈の両面を併せ持っていた。
 ラインハルトの護衛は細心の注意を払わなければならない分、緊張を持続的に強いられる。たまには休日が欲しいと思わない事もないのだが、いざ休日となると何をしていいか時間を持て余してしまうのだ。
 キスリングは、つくづく自分を面白味のない奴だと思っていた。

 顔なじみの店に入ると、愛想のいい女将が声をかけてきた。
「あら、キスリングさんじゃありませんか。今日は何にしましょう」
 にこにことした表情は、本当に人を落ち着かせる。キスリングはこの笑顔に弱かった。早くに亡くなってしまった自分の母親を重ねている感があるからだろうか。
「あ、それではいつのもやつをお願いします」
「はいはい。ちょっと待ってておくれね」
女将は上機嫌で厨房に消えていく。その後ろ姿を見ながら自然とキスリングに笑顔がこぼれた。
 ほどなくして運ばれてきた料理はどれもが懐かしい。そして久しぶりの来店のためか通常よりも量が多い。女将の優しさがキスリングに伝わる。
 キスリングは女将に向かって軽く頭を下げてお礼をいう。そして、これ以上は無理というくらい食べた後、キスリングは食後の珈琲を頼んだ。 時間を忘れて過ごせる今日に感謝する。
 会計を済ませ店を出たキスリングはしばらく食後にと散策をはじめた。
 周りを見回すと家族連れが目立つ。小さな女の子が両親に挟まれ嬉しそうにいているのが目にとまる。自分にもこんな和やかな生活を送れるときがくるのだろうか。微笑ましく見つめながらそう思った。


 夕食の材料を買い込み、自宅に戻ると既に日が暮れかけていた。一人暮らしが長いせいか料理には定評のあるキスリング。手際よく材料を切り分けるとその調理にかかった。ほどなくしていい匂いがただよう。
「久しぶりの料理だったが、どうやら上手くいったらしいな」
 まずまずの出来に頷き、一人の夕食を始める。
 のんびりと過ごした一日はもうすぐ終わり、また明日からは激務が待っているだろう。キスリングは寝酒用に持ってきたウイスキーをグラスに注いだ。
「あまり深酒は出来ないな…」
軽く笑って、グラスを掲げる。
 いつもは誰かしら横にいるので、こうして一人で飲むのも悪くない。そう思いながら残りを一気に流し込むと静かにグラスを置き、キスリングはそのまま明日のために眠りについた。

 そうしてキスリングの休日は終わるのである。

(C)かなとさん

[HOME] [W−BACK] [BACK]